栃木県民に「サトカメ」の愛称で親しまれるローカル・カメラ小売チェーン「サトーカメラ」をご存知でしょうか。県外ではほとんど無名にもかかわらず、栃木県内だけで本支店あわせて18店舗を構え、来客リピート率は80%を超えています。同店の売りは何といっても「明るく元気で、カメラの知識が豊富な店員」。家電激戦区の北関東にあって、なぜここまで愛され、シェアを伸ばせたのか? 無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』の著者・浅井良一さんがその秘密に迫ります。
経営者は「チアガール」
北関東はコジマ、ヤマダ電機などの家電量販店の発祥の地だそうですが、この激戦区の栃木県にありながらカメラ販売でシェアナンバーワンをとる「サトーカメラ」という名のローカル・チェーン店があります。その不思議さには、全国からさまざまな業種の人たちが訪れて少しでもその奥に隠された秘密をさぐりその繁盛にあやかろうとするそうです。
その秘密を、同社の専務佐藤勝人氏の著書から探って見ようと思います。チェーン展開のきっかけは、1988年に60坪の売り場面積のカメラを中心にした総合家電量販店をオープンさせたことに始まります。最初は網羅的な品ぞろえをしたのですが、強力な競合店相手では太刀打ちできる術もないことを悟り瀬戸際の策としてカメラ専業店に特化させました。
生き残るためには、どこかで強みを見つけなければなりません。白けた解説になりますが、弱者が有利に勝負を進めるには「弱者の戦略」つまり総合戦ではなく一対一に持ち込まなければ互角には戦えません。佐藤勝人氏によると、売り場面積60坪というのは家電量販店のカメラコーナーが30坪程度なので決して遜色のない広さだそうです。
「サトーカメラ」の経営理念は「思い出をキレイに一生残すために」で、また白けた解説になりますが、企業の役割は顧客の「現実、欲求、価値」からスタートして適えることに尽きます。ここで取られる戦略が非常識とされる「非効率」で、アソシエイト(店員)は何時間でも「思い出をキレイに一生残す」ために寄り添います。
少し蛇足で説明します。「アソシエイト」とは耳慣れない呼称ですが「仲間、共同事業者」という意味で、アメリカ最大の量販店ウォルマートの創始者であるサム・ウォルトンもこの「仲間」という呼びかけを行っています。蛇足ついでに、ディズニーランドでは「キャスト(ショーの出演者)」であり、マクドナルドでは「クルー(乗組員)」とわざわざ呼びかけます。
これらの呼称に込めているのはワーカー(労働者)ではないという思いで、「アソシエイト」は「思い出をキレイに一生残すために」というミッション(使命)を共有する「仲間」であることの宣言です。仲間に対してはとうぜんの作法「仲間の個性・能力を最適に引き出して最大に活躍できる場を整える」とし、これが経営者の役割とされました。
「サトーカメラ」のいつも元気で楽しく働いている「アソシエイト」はもっとも羨しがられる存在なのですが、佐藤氏によると「大半が何の考えもなく、どこにも就職できなかったからというレベルで入社してきた」と言います。けれど、この人たちは「売ることの楽しさ」を知って商人に変身しました。
同社には「マーケティング」を具現化させる行動規範があります。それは8つの行動で、
「行動1 お客様はいつも正しい、お客様から学ぶこと」
にはじまり
「行動8 お客様が悪いと感じたら行動1に戻れ」
に終わります。理不尽な怒りをぶつけられても、「聴く」ことで原因を教えてくれます。新人研修会で必ず伝えるのは「お客様はいつも正しい」ということです。
お客様に寄り添い聞き続ければ「聞く」力は伸び、提案する力もつきます。じっくり聞くことからスタートし、
- 目を見る
- 身を乗り出す
- しぐさを見逃さない
- 共感したらうなずく
- 疑問はすぐに聞き返す
- 分からなければ何度でも質問する
- これはと思うことはメモる
そうすることで最後の解決策を提案する「伝え方」が磨かれて行くことになります。
アソシエイト(仲間)は、売り方を強要されるマニュアルはありません。互いが「得意なこと。好きなこと」を何度も繰り返し、それぞれのお客様にエキサイティングをご提供して「商人」に変身して行きます。接客下手が「カメラ診断士」になり、店舗をカフェっぽくして再生させ、電池をPOPで語らせて売上を5倍にするなど多彩な驚きを発生させています。
「価値観」の共有こそが、繁盛店の絶対条件です。経営者の重要な仕事は「価値観」を見出し、忍耐強く説得して浸透させ、後は心地よくその力が発揮できる環境をつくり支援することとなります。何のためか、現場で働く人がお客様の喜んでもらえる「効用」を提供できるようにするためであり、目的・目標はすべてそこに収斂されて行きます。
image by: サトーカメラ公式FB
『戦略経営の「よもやま話」』
著者/浅井良一
戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。
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