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プーチンの狙いは?シベリア鉄道の「北海道延伸」がもたらすもの

プーチン大統領の訪日を前に、ロシアの日本に対する冷遇ぶりが問題視されていますが、その原因のひとつに「両国の求めるものの相違」があるとも言われています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんは、この突破口となり得るのが「シベリア鉄道」だと指摘。シベリア鉄道を北海道まで延伸するという案も出ているとのことなのですが、これは日本にとって「新たな脅威」とはならないのでしょうか?

シベリア鉄道が北海道まで伸びてくる?

プーチン大統領の訪日が近づいています。日本は島を求め、ロシアは経済協力を求め。なかなか簡単ではありません。

しかし、ロシアは、「日本には、尖閣ばかりか沖縄の領有権もない!」と宣言している対中国でとても大事

反日統一共同戦線を呼びかける中国

個人の関係、企業間の関係でもそうですが、利害の対立はいつでもあります。「仲良くする理由」をしっかり認識し、忍耐強く進んでいくことが大事です。

日本には、「食い逃げ論」があります。つまり、「ロシアは経済支援だけ受けて、島を返す気はないのではないか?」。これは、別の言葉で、「日本はロシアのプロジェクトでは儲からない。慈善事業のようなものだ」と言っている。

ロシアだけでなく日本も儲かる案件であれば、双方メリットがあるので、「食い逃げとは言いません。そして、そのような案件を、まずは一つでも二つでも立ち上げ、育てていくことが大事です。たとえば、こんな話があります。産経ニュース10月3日付から。

シベリア鉄道の北海道延伸を要望 ロシアが大陸横断鉄道構想 経済協力を日本に求める

 

政府が検討している対露経済協力について、ロシア側がシベリア鉄道を延伸し、サハリンから北海道までをつなぐ大陸横断鉄道の建設を求めていることが2日、分かった。ロシアは要望の「目玉」として、日露の物流のみならず観光など人的交流の活発化を期待。

 

一方、日本側もロシアの生活の質向上や、資源収入に頼る産業の多角化につながる協力策の原案をまとめており、ロシア側要望への対応を精査している。

え~~~、「シベリア鉄道と北海道が繋がるのですか??? もう少し具体的な話を。

シベリア鉄道の延伸は、アジア大陸からサハリン(樺太)間の間宮海峡(約7キロ)と、サハリンから北海道・稚内間の宗谷海峡(約42キロ)に橋またはトンネルを建設する構想だ。

 

実現すれば、日本からロシアの首都モスクワを経て欧州を陸路で結ぶ新たなルートを構築でき、プーチン大統領もかつて「シベリア鉄道を日本の貨物で満載することにつながる」と期待感を示したという。

サハリンと稚内に、橋あるいはトンネルを建設するかもしれない。

初めて聞くと驚愕ですが、技術的には可能なので、後は「双方にメリットがあるのか?」という話になります。

併せて、モスクワの東約800キロにあるカザンからウラジオストクまでのシベリア鉄道高速化構想も浮上している。シベリア鉄道の輸送期間短縮でロシア国内の経済活性化に貢献するほか日本企業の商機拡大にもつながる。将来の現地生産をにらみ、車両や信号システム、レールなど日本の技術をパッケージで売り込む構想で、既に一部の関連企業は事業性の検討を始めたとみられる。
(同上)

これ、プーチンに、「投資するから日本企業優遇して下さいよ」お願いすればいいですね。プーチン、「日本政府高官は、会うたび一言目から『島返せ!』と言いやがる!」とあきれている。しかし、双方儲かる話なら喜んで話を進めることでしょう。

「シベリア鉄道脅威論」は、常識で考えるとおかしい

「シベリア鉄道が北海道まで伸びてくる」と聞いて、「これは日本の脅威だ!」と言う人がいます。鉄道を使ってロシア軍が攻めてくると思っているのでしょうか? とても面白いと思います。

たとえば、旧ソ連・バルト三国はソ連崩壊後、欧州べったりになり、ロシアとの関係が悪化しています。特にクリミア併合後は、「ロシアが攻めてくる!」と恐れている。しかし、ロシアからバルト三国に、電車で行けます。

ロシアの西の隣国ウクライナ。2014年2月のクーデターで、親ロシアのヤヌコビッチ大統領が失脚。今のポロシェンコ大統領は、極めて親欧米で、激しく反ロシア。それでも、ロシアからウクライナに電車で行けます。

鉄道があるとロシア軍が攻めてくる」という話がホントであれば、バルト三国やウクライナは、ロシアとの電車の行き来を止めるはずでしょう?

少し冷静に考えればわかりますが、「戦争が起こる、起こらない」は「電車が来ているか来ていないか?」と関係ありません。二つ、あるいは複数の国が、「話し合っても解決できない」から「戦争」をするのです。

ロシアは、「北方4島を実効支配していて現状に満足しています。中国は、「日本には、尖閣だけでなく沖縄の領有権もない!」とメチャクチャな主張をしている。しかし、ロシアが「日本に北海道の領有権はない!」などと主張したのは、聞いたことがない。日本とロシアが戦争になる可能性は、日本側がたとえば北方4島奪還を目指して仕掛けない限りほとんどゼロなのです。

もう一つ、「シベリア鉄道が北海道まで来ると移民が増える」と心配している人もいるそうです。しかし「移民が増える、増えない」は、「鉄道で人がやって来る、来ない」と関係ありません。

私は、モスクワからフィンランドや、ウクライナのキエフなどに寝台列車でよく行っていました。国境に着くと、パスポート検査があり、きちんと入国管理がされています。つまり、飛行機で外国人が来るのも、電車で外国人がくるのも、「管理」という面では変わりません。

断言しますが、移民が増えるのは、「日本政府がそれを望んだ場合に限られます。今、日本では外国人の労働者が増えています。これは、別に「日本に来る中国人が増えたから」ではありません。日本政府が、外国人労働者を受け入れる方針をとっているからです(私は、「日本人が嫌がる仕事は、貧しい国の外国人にやらせればいい!」という「差別的3K移民」に反対しています)。

ドイツが去年、難民を100万人も受け入れたのは、メルケルがそういう方針をとったからです。ですから、「移民の増減」は、「シベリア鉄道が北海道と繋がること」と関係ないのです。

日本~欧州貿易に大きなメリットが

シベリア鉄道が北海道と繋がると日本が儲かる

なかなかイメージ湧きませんね。しかし、もう少し視点をグローバルにしてみましょう。

EUは、日本から「はるかに離れた地域」というイメージです。それでも、人口は5億人をこえ、世界GDPの約4分の1を占めている。あなどれません。日本との貿易ですが、日本からEUへの輸出は2014年、約8兆円。日本のEUからの輸入は2014年、8兆6,250億円日本とEUの貿易は、ほとんど船を使って行われている。それで、日本からEU加盟国にブツが届くのに30~40日かかる

イメージしてみましょう。北海道で荷物を積み込んだ。それが電車でロシアを横断して、欧州まで送られる。値段的には船とほとんど変わらず、日数的には、20日ぐらいで届く。料金そのままで到着までの日数が10~20日短縮するので、とてもお得なのです。

実際、日本企業は1970~80年代、シベリア鉄道を貨物輸送に利用していました。ところが、90年代にソ連が崩壊すると、トラブルが続出し、日本企業は使わなくなった。それで、海上輸送にシフトしたのですね。

とはいえ、ロシアも90年代とは全然違います。プーチンは、鉄道網の近代化、高速化を進めている。人々のモラルも90年代比で大きく改善されているので、北海道→ロシア→欧州を鉄道で繋ぐのは、珍しく日ロ欧みんなにメリットがある話なのです。

プーチンが来たら

間もなくプーチンがやってきます。プーチンは、ロシア国内では「皇帝」になっています。

しかし、ロシアはG8から外され、経済制裁を受け、「アメリカ大統領選を操作した」などと批判されている。どこにいっても(特に欧米から)叩かれるので、かなり疲れていることでしょう。

ですから日本に来たら、「温泉につかってゆっくり休んでいって下さい」と言えばいいですね。その次に、島の話ではなく儲かる話をするべきです。

トランプさんが、ロシアとの関係改善を急いでいます。米ロ関係が良好になれば中ロ関係は薄くなるので、歓迎するべき。日ロ関係が良好になればまた中ロ関係が薄くなる。日米関係、日ロ関係が良好であれば、習近平も軽率に動くことができなくなるでしょう。

安倍総理は、プーチンと会って中国の悪口を言うべきではありません。ただ、プーチンを大切にするだけで日本はより安全になる。そういう「大戦略的意義」を認識し、訪日するプーチンが感動する「おもてなし」を実践していただきたいと思います。

image by: Shutterstock

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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