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何をしても死なないクマムシの研究が未来を変えるかもしれない訳

インターネットを活用した資金支援の手法として、近年注目されてきている「クラウドファンディング」。メルマガ『クマムシ博士のむしマガ』の著者、クマムシ博士こと堀川大樹さんも、何をしても死なない虫として有名な「クマムシ」の遺伝子を活用した研究の資金調達に、クラウドファンディングを活用しているとのこと。堀川さんは「クマムシ」の研究にどんな可能性を見出したのでしょうか。そして、なぜ従来とは異なる方法で研究資金調達をしようと思い立ったのでしょうか? 

私がクラウドファンディングを始めた理由

地上最強生物クマムシ研究のクラウドファンディングを、学術系クラウドファンディングサービス「academist」で始めました。

☆最強生物クマムシの耐性の謎をゲノム編集で解明する!:academist

クラウドファンディングとは、インターネットを通じて、プロジェクトへの支援を不特定多数の人々から募る活動です。自分が納めた税金が自分の意思とは無関係に分配されていくのではなく、直接応援したいプロジェクトを選んで支援する。研究費も、クラウドファンディングで集める時代が来ています。

今回僕は、クマムシの驚異的な耐性の謎にメスを入れるべく研究プロジェクトを推進していくために、クラウドファンディングを行うことにしました。

クマムシは体内の水分を極限まで失っても生存できます。また、ヒトの致死線量の1000倍の放射線を照射されても生き残ります。このクマムシの驚異的な耐性能力の秘密は、生命の設計図である遺伝子に隠されているはずです。

クマムシの耐性メカニズムが明らかになれば、将来的な生鮮食料、血液、移植用臓器の乾燥保存ができるようになるかもしれません。現在、東南アジアで養殖しているエビは、船の中の冷凍室に入って運ばれてきます。冷凍輸送はコストもエネルギーもかかる輸送方法です。

もしもエビにクマムシの能力を与えることができれば、生きたまま乾燥した状態で、常温で運ぶことができます。コストもエネルギーもかからず、環境にもよい。キッチンで乾燥エビに水をかければ、生き返ってピチピチなエビを食卓に出せる。

また、血液を乾燥保存することができれば、エネルギー供給が不安定な国や地域の病院でも、冷凍庫を使わずに保存することができ、多くの命を救うことができます。これらの展望は今はまだ夢の段階ですが、クマムシの基礎研究が、このような未来を創る可能性がないとはいえません。

これまでの共同研究から、クマムシの耐性にかかわる可能性のある遺伝子が、いくつか見つかっています。ところが、これらの遺伝子が実際ににクマムシの耐性に関わっているかどうかは、まだわかっていません。

もしも、クマムシのある遺伝子を働かなくしたときに、耐性能力が失われるか低下すれば、その遺伝子が耐性能力に深く関わっていることが推定できます。しかしながら、これまでにクマムシの遺伝子操作は確立されていません。

ところが最近になって、革命ともいえる「CRISPR-Cas9システム」というゲノム編集技術が登場しました。このノーベル賞級の技術は、さまざまな種類の生物に応用することができ、DNA上の狙った遺伝子を壊すことができます。

ゲノム編集技術によりクマムシの遺伝子を壊せれば、クマムシの耐性の謎に、これまでになく迫ることができるはずです。そこで今回、ゲノム編集技術をクマムシに応用できるようにするために、最初のステップの研究をはじめることにしました。

この研究で成果を出すには、クリアしなければならない専門的な壁があります。つまり、わりと挑戦的な研究テーマなのです。しかも、すぐに産業に直結するような研究でもありません。

このような研究テーマで科研費など政府からの研究資金を獲得するのは、なかなか難しいのが現状です。このような理由もあり、クマムシ研究の支援をクラウドファンディングで募ることにしたのです。

今回のクラウドファンディングは、ただの寄付集めとは違います。支援額に応じて、お返しの品、リターンを用意しています。リターンには、クマムシのキャラクター「クマムシさん」の限定ぬいぐるみや、サイエンスカフェの参加権など、さまざまなアイテムがあります。

本音をいえば、リターンなしで寄付がたくさん集まるほうがよいのかもしれません。ただ、これらのリターンがあることで、支援者の方が研究対象により親しみを感じてもらうことができるし、それと同時に広報、アウトリーチにもなります

さらに今回は、研究費の支援だけでなく、クマムシ研究を一緒に進めてくれる共同研究者も募っています。有難いことに、今回のクラウドファンディングのプロジェクトを知った研究者の方から、コンタクトをもらっています。学会でもなかなかこういうコラボレーションができることはなく、クラウドで研究活動を促進できる可能性も強く感じます。

クラウドファンディングは科研費など既存の研究予算を置き換える規模にはなりえないと思いますが、チャレンジングなテーマの研究や、共同研究者を見つける手段、そして、アウトリーチには優れた手段の一つとして確立していくことでしょう。

ということで、最後にひとこと。クマムシ研究プロジェクトの一員になって、一緒に未来をつくってみませんか?

image by: ☆最強生物クマムシの耐性の謎をゲノム編集で解明する!:academist

 

堀川大樹『クマムシ博士のむしマガ』

『クマムシ博士のむしマガ』

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北海道大学大学院で博士号を取得後、2008年から2010年までNASAエームズ研究所にてクマムシの宇宙生物学研究に従事。真空でも死なないクマムシの生態を解き明かしたことで、一躍有名研究者に。2011年からはパリ第5大学およびフランス国立衛生医学研究所に所属。著書に『クマムシ博士の「最強生物学」講座』(新潮社)。人気ブログ「むしブロ」では主にライフサイエンスの話題を提供中。

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