MAG2 NEWS MENU

高市早苗が「公約を守る首相」を演じ続けるため、ただそれだけ。税率1%策が背負わされた“極めて政治的”な役割

自民党内の有力議員からも異論が上がる中、閣議決定された食品消費税1%への引き下げ。なぜ高市首相はこの減税政策の「強行」にこだわり続けるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、方針が固まるまでの舞台裏と各党の攻防を分析。その上で、この政策が経済対策ではなく「政治的な意味合い」を強く帯びるに至った経緯を検証しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:まやかしの「国民会議」と「税率1%」の罠

あとには引けない高市首相。まやかしの「国民会議」と「税率1%」の罠

高市首相の「悲願」とやらが、8月5日、閣議決定された。2027年から2年間に限り、食料品の消費税率を1%にするという。物価高騰のさなか、実効性が疑問視され、飲食業への打撃、マーケットへの影響などが懸念される。ほとんどの野党が反対し、自民党内からも批判の声が上がる。それでも高市首相は、やらねばならぬと思いつめ、押し切った。

消費減税を議論した国民会議は異論、反論でまとまらず、意見集約をあきらめた。しかし、実のところ、会議そのものが見せかけに過ぎなかった。急降下を続ける支持率を浮上させたい。それもあるだろう。だが、高市首相にとって、議論がどう進もうと、食料品の消費減税が既定路線だった。それゆえにこそ、国民会議で野党の合意をとりつけた形をとり、いい結果をもたらさなかった場合の責任を分担したかったのだ。

正式には「社会保障制度改革国民会議」と名付けられたこの協議体。与野党の税調会長や、政調・国対の政策担当者で構成される実務者会議と、清家篤氏(元慶應義塾長)、伊藤元重氏(東京大学名誉教授)ら12人による有識者会議からなり、有識者の意見を参考に実務者会議で各党の考えをぶつけ合い、その結果を高市首相や関係閣僚、各党党首らが参加する「親会議」に報告するという建て付けで、2月26日以来合計30回をこえる会議が開かれてきた。

この有識者会議について、メンバーの一人、永濱利広氏(第一生命経済研究所首席エコノミスト)がYouTubeの新番組「SIGNAL」で、こんな驚くべき発言をした。

有識者会議では、はじめから消費減税について議論しませんということでした。消費減税をやることは決まっているから、給付付き税額控除について議論しましょうと。

有識者会議の顔ぶれは、長年にわたり財務省の審議会で委員を務めてきた人々が多数を占め、減税を議論すればきわめて慎重な結論になるのはわかりきっている。長濱氏の話をそのまま素直に受け取るなら、清家座長は「もう決まっていることだから」と、反対意見が続出するであろう消費減税の議論をあえて封印した。だとすれば、そこに、官邸の意思が働いているのは間違いない。

高市首相が「食料品の消費税ゼロは私の悲願」と初めて公言したのは、衆院解散を表明した今年1月19日の記者会見だった。積極財政派ではあるが、それまで消費税については「社会保障財源」という自民党の基本線を大きく崩す発言はほとんどなかった。野党陣営がこぞって掲げる消費減税公約の“争点つぶし”とみられたのは仕方のないことだった。

その戦略が当たり、総選挙で圧勝したのに、なぜか高市首相はさっさと税制改正の政府案を提出することをせず、国民会議での議論というクッションを置く手法をとった。

そもそも「社会保障制度改革国民会議」は、税という国民の“負担”があってはじめて社会保障の“給付”が成り立つという考え方のもと、民主党・野田政権時代に、財務省がひねり出した装置である。立憲民主の代表だった野田氏が昨年9月、自民・公明・立憲の三党で「給付付き税額控除」を協議する場として当時の石破首相に提案し、合意に達したのも、財務省という共通基盤があったからだ。

この記事の著者・新 恭さんを応援しよう

メルマガ購読で活動を支援する

自民党の選挙公約を実行するための舞台となった国民会議

昨年10月21日、首相に就任した高市氏はこの流れを引き継ぎ、所信表明演説でこう述べた。

超党派かつ有識者も交えた国民会議を設置し、給付付き税額控除の制度設計を含めた税と社会保障の一体改革について議論してまいります。

当時まだ少数与党だった国会を乗り切るために野党を政策決定の場に巻き込んでいくという狙いが高市首相の頭にあった。その後の総選挙で消費減税を掲げて圧勝したことから、それは人気維持のために実行せねばならない政策となったが、最大の壁は財政健全化を金科玉条とする財務省の存在だった。

そこで高市首相は消費減税を給付付き税額控除までの“つなぎ”と位置づけ、あえて財務省の“器”である国民会議で議論することを選択した。こうして国民会議は自民党の選挙公約を実行するための舞台となった。

実務者会議の議長に就いた小野寺五典氏は議論百出するであろう各党の意見をまとめ、めざす「2年限定ゼロ税率」の結論に導く役割を高市首相に託されていた。言うまでもなく、小野寺氏は、「ラスボス」と呼ばれた財務省出身の宮沢洋一氏に代わって党税調の会長をつとめる高市首相の“忠臣”だ。

会議をコントロールしやすいよう参政党やれいわ新選組、共産党など「消費税廃止」「大幅減税」を叫ぶ勢力を最初から排除し、中道改革連合、公明党、立憲民主党、国民民主党、チームみらい、日本保守党を招き入れてスタートしたが、シナリオ通りに実務者会議が進む道理はなかった。

「恒久的に食料品の消費税ゼロ」(中道、日本保守党)、「消費税は一律5%」(国民民主)、「消費税率は据え置き」(チームみらい)などと、もともと各党の考えはバラバラ。

しかも、積極財政政策を打ち出して高市首相が就任して以来、株価上昇とは裏腹に大幅な円安と物価高に見舞われ、消費税を引き下げても効果は薄いという見方が専門家の間でも強まってきた。

さまざまな意見が飛び交い、収拾がつかない中、小野寺氏は「議長案」なるものを各党に提示した。

令和9年4月1日から2年間、軽減税率の対象となる飲食料品の消費税率を1%とする。1%相当分の範囲内で、所得に連動したきめ細やかな給付を令和9年度に導入し食料品の消費税率を「実質ゼロ化」する。

税率を「ゼロ」にできないのはレジが対応できず改修に1年かかるという理由。「1%」なら半年ですむという。高市首相は当初、この案に乗り気ではなかったが、その1%分を中低所得者に給付することで「実質ゼロになります」と政府・与党の幹部から説明を受け、ようやく納得したという。

しかし、野党からは「全く議論していない中身だ」と反発の声が上がり、消費税引き下げより、即効性のある「低・中所得者向けの現金給付」を優先すべきだとの声が噴出した。

消費税が景気を冷やす元凶であるのは周知のとおりだ。だが、それを撤廃したり恒久的に減税するのではなく、2年間限定というのは始末が悪い。「1%」を実行するのに必要な財源は5兆円といわれ、それを2年続けたら10兆円もかかってしまう。10兆円を一律で全国民に給付すれば、一人当たり8万円余りになる。4人家族なら32万円を超える。家計はうるおい、景気上昇に寄与するだろう。

ところが、このインフレ下の消費税減税だと、原材料費や人件費の高騰を理由に、企業は価格を容易に下げないだろうし、物価高への不安の先立つ人々が消費を増やすとは思えない。むしろ、スーパーで食材、総菜、弁当を買って家で食べる動きが助長され、飲食店、外食産業はますます苦しくなる。

この記事の著者・新 恭さんを応援しよう

メルマガ購読で活動を支援する

痛々しいほどだった「悪戦苦闘」する小野寺五典氏の姿

結果として、22回にわたる実務者会議がたどりついたのは「集約断念」だった。小野寺議長は「中間とりまとめ」に、議長案と、野党各党の主張を併記し、高市首相の判断を仰ぐという形に持っていかざるを得なくなった。そして、当然のことながら高市首相は議長案を選択し、7月30日、党の臨時役員会で「食品消費税1%」を正式表明した。

不思議なのは、高市首相がこの役員会の後、記者団に明確に方針を発表したにもかかわらず、この減税案はまだ自民党の税調や政調会、総務会での議論を経ていなかったことだ。この強引な姿勢に党内からも批判の声が上がり始めた。

党税制調査会の幹部会合後、逢沢一郎氏。

異論、明確な反対の声が多かった。にわかには賛成しがたい。

同、稲田朋美氏。

給付に変える選択肢もあるのではないか。

X投稿で、河野太郎氏。

私は、食料品の消費税減税には反対で、給付による対応をすべきと考えています。消費税減税には指摘されているように、さまざまな問題があります。まず、年間五兆円といわれる必要な財源の目途が立ちません。

8月3日に開かれた党税制調査会と社会保障調査会の合同会議では、首相の応援議員が大挙してつめかけ、減税への賛成意見を表明、反対派との間で議論が紛糾したが、最終的には小野寺氏に対応が一任され、事実上、了承された。

減税に反対して税調の「インナー」と呼ばれる非公式幹部会合のメンバーを辞任したばかりの小渕優子氏は会議の後、次のように語った。

今日もはっきりした財源は示されなかった。農家や中小規模事業者にさまざまな影響が出てくるが、どう対策するのか具体的な議論ができていない。いろいろなデメリットがあるにもかかわらず、国民に伝えなくていいのか。

高市人気に陰りが見え始め、ようやく独断的な政権運営への党内の不満がオモテに出てきた感がある。首相の意向に沿えるよう悪戦苦闘する小野寺氏の姿は痛々しいほどだった。

ともあれ、高市首相もこの減税政策が大した効果をもたらさないことくらい認識しているはずである。だからといって、支持者の手前、いまさら「給付」とは言えない。公約を実行する強い女性宰相を演じ続けるためには、コロコロと政策を変えるわけにはいかないのだ。

2年後、つまり2028年の夏には参院選がある。ちょうど、食料品の税率を1%から8%へ戻すかどうかが政治の焦点になっている頃だ。一転しての大増税。自民党は選挙を戦えるのか。「2年後には私が責任を持って確実に税率を元に戻す」と首相は強調するが、「一寸先は闇」と言われる政界で、軽々しくそんなことを言っていいのだろうか。

支持率急落に直面した高市首相がすがりつく「2年限定」の減税策。経済政策というより、「公約を守る首相」のイメージを作り上げるための政治的な道具に成り下がっている。野党から実効性の欠如を突かれ、結局は政権の独断で決めるなら、「国民会議」とは一体何だったのか。

もとより公約は大事だが、世界の情勢は刻々と変化しており、時に応じて変えることも必要だ。「政治の論理」だけで、将来に禍根を残す決定を下すべきではない。目先の人気取りではなく、日本経済の現実を見据えた冷静な議論が今こそ求められている。

この記事の著者・新 恭さんを応援しよう

メルマガ購読で活動を支援する

image by: 首相官邸

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け