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米「北爆」危機の裏で森友問題に浮上した、今井秘書官という黒幕

緊迫する北朝鮮情勢を理由に、幕引きを図られようとしている観もある森友学園問題。このまま真実が明かされること無く有耶無耶のまま闇に葬られてしまうのでしょうか。メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんはそうした動きに異を唱えるとともに、同問題のキーパーソンかもしれないというある男性に注目し、疑惑の真相に迫っています。

今井尚哉総理秘書官が昭恵夫人担当の責任者なのか

シリア北朝鮮情勢の緊迫化で、日本独自の防衛戦略を求める声が強まっている。そんななか、しばしば聞かれるのが「森友問題などを議論している場合ではない」という右派論客の声だ。

だがそこに、総理夫妻への疑惑から目をそらせようという意図がないとはいえまい。森友問題を忘れたら、戦争に巻き込まれる危険性がなくなるのなら話は別である。

政府が防衛に万全をつくすのは当然のことだ。だが、森友問題を単に不埒な教育者がしでかしたことと矮小化し、北朝鮮の脅威を理由に幕を引こうとする動きには賛成しかねる。

教育政策の歪みや、権力の腐敗構造が表面に出てきたという意味で、あだやおろそかにできないのが森友学園の問題なのである。

さてそこで、今回は、一人の重要人物に注目して、同学園への国有地払い下げをめぐる疑惑を見てみたい。

安倍首相の振り付け役といわれる政務担当総理秘書官今井尚哉氏がその人だ。昭恵夫人と総理大臣夫人付職員にばかり目が向きがちだが、彼こそがキーパーソンかもしれないのだ。

「本来、総理夫人の担当は政務担当総理秘書官なんです」。メディアに対し、3月24日の記者会見で、今井秘書官に注目するよう促したのは民進党の江田憲司代表代行だ。

なぜその言葉に重みがあるかというと、江田氏自身が橋本龍太郎内閣における政務担当総理秘書官だったからだ。

首相の秘書官は通常7人いるが、そのうち6人は事務担当。ただ一人の政務担当は「首席秘書官」と呼ばれ、ふつうは、長年にわたり議員秘書として仕えてくれた人物を首相が選任する。

江田氏は例外で、当時の通産省官僚でありながら、橋本首相に呼ばれて首席秘書官になった。

その点では今井氏も同じだ。安倍首相に乞われ経産省から官邸にやってきた。第一次安倍政権で事務担当の秘書官をつとめたさい、その仕事ぶりを安倍首相が見込んだということだろう。第一次政権が突然崩壊したあとも二人は個人的な親交を深めてきた。

経産省から派遣された内閣総理大臣夫人付の常勤職員2名は組織上、内閣総務官室に所属する。したがって、その表向きの上司は総務官である。

総務官は内閣の庶務的な仕事を担っている。内閣総理大臣夫人付も同様かというとそんなことはない

江田氏は、夫人付の事実上の上司は政務担当総理秘書官」であると断言し、こう解説する。

それは当然のことで、総理夫人のところにはいろいろなイベントへの出席依頼、祝辞・メッセージ依頼が来ます。総理夫人は総理の分身・代理と見られるわけですから一私企業の依頼に応えるのは極力控えますが、一方で、それまでの総理家とのいろいろな関係・経緯も踏まえながら判断する。それは政務担当秘書官にしかできません。

つまり、安倍家の内部の事情や人間関係の機微をよく知る特別な人間しか、夫人関係の仕事をどう処理するかの判断はできない。総理夫人付の谷査恵子氏については「いかに優秀でも、財務省本省との連絡調整を独断でやることは絶対にあり得ない」というのだ。

だとすると、財務省理財局に、森友学園からの要望に関して問い合わせることを了承したのは今井秘書官であり、ひょっとしたら、「善処を依頼する電話の一本くらいしたかもしれない

今井氏は安倍官邸の中核といえる存在だ。小泉首相における飯島首席秘書官と同じく、「官邸のラスプーチン」といえるような影の権力者だ。

もちろん、秘書稼業ひとすじだった飯島氏と、経産省エリート官僚の今井氏とは、たがいに剛腕というレッテルで一括りにできても、仕事のやり方がまったく違うだろう。あえて付け加えるなら、元経団連会長・今井敬氏、元通産事務次官・今井善衛氏は今井秘書官の叔父である。

週刊文春(4月13日号)は、「東芝『原発大暴走』を後押しした安倍首相秘書官 今井尚哉」という記事を大々的に掲載した。

原発の海外輸出に向けて突っ走る東芝がいかに経産省の今井氏を頼りにしていたかを、担当者の手帳や、原発部門の幹部たちが交わしたメールを暴露することで明らかにした記事である。

福島原発事故から約3か月後、東芝の原子力フロントエンド営業部グループマネジャーから送られた社内メール。

トルコプロジェクト関係の皆様 本日付で、今井審議官はエネ庁次長兼任発令が出ましたので、お知らせいたします。…原子力システム輸出について、エネ庁次長としての立場で、より一層熱心に主導されます。

東芝が、政府における原発輸出政策の推進役として今井氏に大きな期待をかけていたことがよく分かる文面だ。

その後、秘書官として官邸に戻った今井氏は3.11以降、滞っていたトルコへの原発輸出プロジェクトを本格的に再開させるため安倍首相に進言して2013年5月、二人一緒にトルコ、UAEを訪問している。

今井氏については、原発再稼働がらみで、いくつもの武勇伝が報じられている。たとえば、3.11の事故後、脱原発を公言していた大阪市の橋下徹市長を説得して再稼働に方向転換させたのは今井氏だという。

多くの記事を総合すると、これは確かなようだ。今井氏の機嫌を損ねたら、総理への面会を取り次いでくれないし、総理に上げたい情報も今井氏のところで止まってしまう。そして総理は、こよなく今井氏の戦略を信頼しているということである。

首相の首席秘書官が、非公式ながら権勢をふるう立場になるのは、あるていど仕方のないことかもしれない。江田憲司氏にしても、いまだに橋本政権時代の話を持ち出して議論することが多いのは、重要情報が集まる権力中枢の居心地が忘れられないからだろう。

だが、安倍内閣というのは、橋本内閣とは比較にならないほど官邸の支配力が強い。なぜ、そうなったのか。

こういう時に役に立つのは、官邸に入り込みやすい親安倍ジャーナリストの著作である。

田崎史郎氏の『安倍官邸の正体』は、「正体」というほどのものを掘り出しているわけではないものの、さすがに官邸内部の仕組みについては詳しい。「最高意思決定機関としての『正副官房長官会議』」について書かれたくだりに注目してみよう。

首相官邸でほぼ毎日、首相・安倍晋三を中心に開かれている重要会議の存在を知る人はごく限られている。…「隠し廊下」を通って、ある時間に首相執務室に集まってくるのは官房長官・菅義偉、副長官…の四人。これに執務室隣の秘書官室にいる首席秘書官・今井尚哉が加わって計六人…

第二次安倍政権になって始まった短時間の会議だが、少数のメンバーがカジュアルな雰囲気で話し合うだけに、ものごとがスピーディーに決まりやすい。田崎によれば「首相官邸で日本を方向づける最も重要な装置」なのだそうだ。

どうやら、重要案件は安倍首相をはじめとするこの6人が決め、その寡頭制に各府省の大臣や与党議員は唯々諾々と従っているようだ。結論ありきでやみくもに国会を強行突破しようとする政治姿勢の元凶はここにあるのではないか。

そのメンバーの一人であり、とりわけ安倍首相のおぼえめでたき今井秘書官が、たとえば「谷から連絡させるからよろしく」とでも声をかけたなら、財務省理財局はそれなりに対応せざるを得なくなるだろう。

もし、安倍総理と一体となって思考する今井が、森友学園に関してなんらかの動きをしていたとすれば、ことは重大である。昭恵夫人というより安倍総理自身の関与とされても仕方があるまい。

財務省も国交省も、面会記録などの資料を破棄したと言い張って、国民に真実を隠したままである。よほど不都合なことがあるのであろう

この問題が発覚する端緒を開いた豊中市議、木村真氏は3月30日に参議院議員会館で開かれた集会において、「具体的な政治家の圧力がなかったかのように言われているが、私は安倍首相が関与していたと思っている」と語った。

安倍首相の意思を把握していなければ、今井秘書官が総理夫人付職員に、財務省とやりとりすることを認めるはずはないだろう。そう考えれば、おのずと、この問題の真の主役が浮かび上がってくる。

 

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