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日本のタクシー業界は「白タク解禁」で駆逐されてしまうのか?

消費者の節約志向や公共交通機関の利便性の向上などで、苦境に立たされている日本の「タクシー業界」。さらに政府の規制改革推進会議が近く「白タク」(営業許可を受けず、自家用車を使ってタクシー営業する車)の解禁に向けた答申を出す方向で調整していたり、日本にも上陸している配車アプリ「Uber」が一般人の“白タク化”を加速させるなど、ますます生き残りが難しい状態となっています。今後、タクシー業界は生き残りをかけてどんな戦略・戦術を展開していけばいいのでしょうか。無料メルマガ『ビジネスマン必読!1日3分で身につけるMBA講座』では著者でMBAホルダーの安部徹也さんが、実際のデータを交えつつ詳しく分析しています。

タクシー業界に迫る“破壊的イノベーション”―既存のタクシー会社はどうすれば生き残れるのか?

タクシー業界は、経済の先行き不安からくる消費者の節約志向や、新たな路線開発や相互乗り入れによる電車などの公共交通機関の利便性の向上、またITや通信技術の発達による移動の必要性の低下、さらには健康志向の高まりでワンメーターほどの短い距離であれば歩く人々の増加など様々な要因で利用者が減少し続け現在厳しい状況に立たされています。


出典:国土交通省「タクシー事業の現状について」

また、もともとタクシー業界は規制の波に翻弄されてきた歴史もあります。

2002年にはタクシーの数量規制が廃止され多くの事業者が参入。2001年には20万8,053台だった車両数は、相次ぐ新規参入により2007年には22万2,522台まで増加します。

一方で輸送人員はほぼ変わらなかったために、タクシー1台当たりの1日の収入は3万951円から2万9,044円まで落ち込みを記録しました。

さらにタクシー業界に追い打ちをかけたのがリーマンショック

2008年9月、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズの破綻に端を発した世界的な金融危機は、タクシー業界にも暗い影を落とし、タクシー1台当たりの1日の収入は2万6,005円まで急落して多くのタクシー企業が危機的状況に陥ることになったのです。

このようなタクシー業界の惨状に、政府は再び規制を強化する方向に舵を切り直し、2009年10月1日にはタクシー適正化・活性化法の施行に踏み切りました。

その後、タクシー業界を取り巻く厳しい環境と規制の強化で車両数は減り続け、2013年度には19万2,753台まで落ち込みますが、逆にタクシー1台当たりの1日の収入は2013年度には2,000円以上増加して2万8,355円まで回復するなど、再び上昇基調を辿り始めているのです。

アメリカで起こっているタクシー業界における“破壊的イノベーション”

規制の再強化で既存のタクシー会社は一息ついたところですが、決して将来的に楽観視できるような状況ではないでしょう。

特に今後は同業による激しい顧客争奪戦ばかりでなく、異業種から強力なライバルが現れて市場の競争構造が大きく変わることも十分に考えられるのです。

それが現実に起こっているのがアメリカ

アメリカでは、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)といった配車アプリが急成長しています。

配車アプリとは、自家用車で収入を得たいドライバーと利用者のマッチングを行うサービスです。

たとえば、利用者が配車アプリを開くと、近くで利用できるドライバーが複数表示され、これまでの利用者による評価や車種などを元に自分の望みのドライバーを選ぶことができます。

また依頼を受けたドライバーには、利用者が乗り込む予定の位置情報と時間、そして目的地が伝えられ、そのままナビゲーションで利用者をピックアップして目的地へと向かうことができるのです。

利用者は乗車前に料金がアプリ上で確認することができ、目的地に到着後クレジットカードで代金が決済される仕組みになっています。

しかも料金が通常のタクシーよりも割安に設定されていることから、利便性と低価格でUberやLyftといった新たなサービスが急速に支持を拡大しているのです。

このような配車アプリというイノベーティブなサービスの登場によりタクシー業界は破壊され、サンフランシスコで最大手のイエローキャブ社が倒産するなど、その影響は主要なプレイヤーにまで及んでいるのです。

Googleがタクシーの概念を根底から覆す可能性も

さらに業界を大きく変え、将来的な脅威となりそうなのが、Google

Googleはネット検索からビジネスをスタートさせますが、今では様々な事業にまで手を広げています。

その中でも特に力を入れている事業の一つが自動運転技術

もし、この自動運転技術が実用化されればGoogleは無人でタクシーを走らせることが可能になります。


出典:国土交通省「タクシー事業の現状について」

国土交通省の調査によれば、タクシーのコスト構造は人件費が7割ということなので、タクシービジネスの大半を占める人件費をゼロにすれば劇的な経費削減が実現できます。

そのうえ、Googleは傘下のYouTubeを活用して車内で広告を流せば、企業から得る広告代で運賃を賄うというビジネスモデルも十分可能であり、もしタクシーの無料化が実現されれば、その衝撃は配車アプリの比ではないことは想像に難くありません。

現状、日本のタクシー業界にとってはまだ対岸の火事で済まされるかもしれませんが、近い将来確実に日本市場にもこのような新たなビジネスモデルが大きな影響を与えることになるのは間違いないでしょう。

既存のタクシー会社は破壊的イノベーションに対してどのように対抗できるのか?

さて、来るべき業界の大変革に備えて日本のタクシー会社はどのような戦略で生き残りを図るべきでしょうか?

大きく分けて2通りの戦略が考えられるでしょう。

まず一つ目はとことん付加価値を追求していく差別化戦略

もはや、“通りを流して顧客を拾う”という従来のビジネススタイルでは事業が立ち行かなくなることは火を見るより明らかです。

そこで一人一人の顧客のニーズを深堀りして徹底的に応えていくサービスを提供していかなければならないのです。

特に最近では将来に危機感を抱いた多くのタクシー会社でユニークなサービスが展開されています。

たとえば、子育てに手間のかかる家庭の負担を軽減するために特別な研修を受けたドライバーがチャイルドシートやジュニアシートなどをタクシーに備えて対応する「子育てタクシー」や、事前登録を行った妊婦の顧客に対して急に陣痛が始まった時など、不測の事態に迅速に対応できるよう専門の研修を受けた乗務員を配属する「マタニティ・タクシー」など、比較的ニッチなマーケットで顧客の“かゆいところに手が届くサービスを提供するタクシー会社が増えてきているのです。

実際に日本交通では、事前に住宅や電話番号、出産予定の病院などを登録すれば、陣痛時に優先的に配車する「陣痛タクシー」の登録者が2017年3月末現在、累計でおよそ12万人にまで達したそうですし、国際自動車の陣痛時から乳児検診まで使える「マタニティ・マイタクシー」は2017年4月末現在で累計8万4,000人に達するなどビジネスとしての大きな広がりを見せています。

また、日の丸交通の「子育てタクシー」も月間予約件数が前年同月比2倍に迫り好調に推移するなど、差別化戦略が確実に結果につながっている状況が見て取れます。

このような差別化戦略に対し、もう一つの戦略は、徹底的にコストの優位性を追求するコストリーダーシップ戦略になります。

前にもお伝えしたようにタクシー業界では、コストのほとんどを人件費が占めています。

そこで日本のタクシー会社においても、トヨタなどの自動車メーカーと連携して自動運転の実用化を早期に実現することが期待されているのです。

加えて、人工知能(AI)とビッグデータを駆使して、たとえば、金曜日の夜の銀座で雨が降った場合はタクシー利用が高まるなど、いつ、どこで、どのような条件下で利用があるのかという需要の先読みを行って、自動運転のタクシーを運行することができれば、燃料費も究極まで削減することが可能となり、現在のように初乗り410円という安い運賃でも高い収益を上げられる仕組みを築き上げることが可能になるでしょう。

今後タクシー業界では生き残りを賭けて二極化が進む

これまでお伝えしてきたように、今後日本のタクシー業界においても、異業種からの参入で市場のルールが変わり、主要プレイヤーが入れ替わる可能性を秘めた“破壊的イノベーション”が起こる可能性が高まっています。

破壊的イノベーションが一旦起これば、コスト構造が高止まりしている既存プレイヤーは圧倒的に不利な戦いを強いられることになります。

そこで、現在のタクシー会社が“破壊される市場”で生き残るためには、顧客のニーズに徹底的に応える差別化戦略かコストを極限まで削減するコストリーダーシップ戦略が鍵を握るといえるのではないでしょうか。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 安部徹也 【発行周期】 ほぼ 週刊

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