アメリカの現地時間10月1日夜、ラスベガスのコンサート会場で起こった銃乱射事件は、10月3日17時現在で犠牲者59名、負傷者527名という空前の大惨事となりました。これを受け、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の著者で在米作家の冷泉彰彦さんが、現地で報じられている事件の背景と犯人像、ISISと関係していたという報道の信ぴょう性について報告しています。
ラスベガス乱射、その背景は?
国際観光都市ラスベガスで恐ろしい事件が起きてしまいました。著名なカジノつきホテルの「マンダレイ・ベイ・ホテル」の32階に宿泊した男が、そこから、通りを1本隔てたコンサート会場へ、何百という弾丸を撃ち込んだのです。実行犯は、スティーブン・パドックという64歳の男性、ラスベガスの北東約80マイル(130キロ)にあるメスキートの、リタイアメント・コミュニティー在住と伝えられています。
現時点での犠牲者は59名、負傷者は500名+という空前の惨事となってしまいました。
現在とりあえず報じられている範囲では、パドックはフロリダの人間であったのが、ギャンブル好きが高じてベガス近郊に移住したらしく、ベガス地区でも何度か転居をしているようです。動機に関しては、今のところ何の発表もありませんが、もしかしたらギャンブル中毒の結果、資金繰りに窮して自殺する際に、大変な事件を起こしたという可能性もあります。
一方で、一部の報道によればこのパドックの父親というのが、60年代から70年代を代表する銀行強盗で、近年亡くなっているという話があります。もしかしたら、FBIの手を逃れて一家で逃亡する一方で、パドックは父親が強盗して奪ってきたカネでギャンブルをしてきたのかもしれません。そうではなくて、パドックというのは手堅い会計士だったという証言もあるようですが、詳細はやがて明らかになるでしょう。
ちなみに、同居していたアジア系のオーストラリア人と言われている女性が共犯を疑われていましたが、犯行の時点ではフィリピンに滞在しており、アリバイがあることが判明しています。
狙われたのは、ホテルから約400メートル離れたカントリーミュージックの3日にわたる音楽祭が行われていた野外コンサート会場で、会場には約2万2000人の聴衆が集まっていたそうです。ちなみに、パドックはベガスでのコンサート愛好家だったそうですが、もしかしたら、このコンサートを楽しむ立場の人間で、結果的に人生に絶望した結果、好きなコンサートの会場へ飛んでもない数の凶弾を撃ち込んでしまったのかもしれません。
一部には、パドックは事件直前にイスラム教に改宗していたとして、ISISが英雄視するメッセージを発信していますが、保守的なFOXニュースにしても、その信憑性については疑問視しています。あくまで現時点での話ですが。
第一報では、銃撃戦の結果として犯人が死亡という報道もあったのですが、警察は発砲場所を突き止め、部屋のドアを爆破して突入したところ、容疑者は死亡していたということです。つまり、自殺説が濃厚です。
ところで使用された火器ですが、余りに強力であったことから、違法改造ライフルの可能性が指摘されています。そうなると、NRA(全米ライフル協会)は、個別の件だとして現行野放しになっている連射ライフルの規制は不要という主張をするということを恐れなくてはいけないのですが、その後の報道では「全て合法入手」ということで、一部には「銃規制論議」を始める動きもあります。
ですが、トランプ政権は極めて銃にフレンドリーな性格を持っていますから、本格的な銃規制の動きになるのは期待薄と言えます。そのトランプは、3日(火)にハリケーンで被災し連邦政府への不満が高まっているプエルト・リコを訪問した後、4日(水)には犠牲者の追悼のためにベガスに来るそうです。
とにかく、トランプは銃規制論議には消極的ですし、仮にギャンブルやカジノの問題が議論される場合も、そもそも大統領自身がカジノ業界出身ですから、真面目な議論にはならないでしょう。何ともやり切れない話です。
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