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巨人・阿部慎之助前監督の謝罪会見から見えた、現代人の「言葉遣い」と「責任感の希薄化」

SNSやメディアの発達によって、著名人の発言や謝罪会見は瞬く間に拡散され、多くの人々の検証や批評の対象となる時代になりました。言葉の選び方や表現の微妙な違いから、その人の姿勢や責任感までも読み取ろうとする傾向が強まっています。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、ある謝罪会見をきっかけに浮かび上がった「他人事のような話し方」に着目し、近年の日本語表現やコミュニケーションの変化について考察します。

他人事な人たち

5月25日の夜に流れた「読売ジャイアンツの阿部慎之助監督を現行犯逮捕」という速報に、一体何事かと驚いた人は多かったと思います。そして、続報によって少しずつ明かされて行く事実関係と悪意あるデマが入り乱れ、SNSは毎度おなじみの場外乱闘フレーバーとなりました。ネット上の論点は、あまりにも速い巨人のクビ判断、児童相談所の対応の是非、何でもAIに相談する最近の風潮など、論点は多岐に渡りました。

しかし、未だに何が真実なのかは分かりません。正確な会話の内容も暴力の程度も何も分かりませんし、何よりも所詮は他人の家庭内の問題です。そのため、あたしは、この事件の内容に関しては、特に個人的な意見を言うつもりはありません。しかし、この事件の内容とは関係なく、とても気になったことがあるので、その点だけを取り上げさせていただきます。それは、翌26日に行なわれた阿部慎之助氏の会見での日本語が、あまりにも変だったことです。以下、一字一句正確に文字起こししたので、じっくりと読んでみてください。

阿部慎之助氏「まあ私の家族のトラブルで、多くの野球ファンの方、そしてプロ野球関係者の方、会社‥‥‥‥に、多大なご心配とご迷惑を、かけました。え~、そして伝統ある巨人軍ていう監督の名も汚(けが)してしまって、とても深く、謝罪したい気持ちでいっぱいでございます。ま、このような形で皆様に謝罪できること、感謝しております。本当に申し訳ありませんでした」

あたしは揚げ足取りなどするつもりはないのですが、これ、まるで日本語など知らない外国人がグーグル翻訳とかで作った文章みたいだと思いませんか?「伝統ある巨人軍ていう監督の名も汚してしまって」は単純な言い間違いだとしても、これに続くのが「とても深く」です。自分の犯した罪を具体的に述べ、それに「とても深く」という言葉が続けば、この後に来るのは、普通は「反省しております」ですよね?

でも阿部氏は「とても深く、謝罪したい気持ちでいっぱいでございます」と言ったのです。百歩ゆずって「とても深く、謝罪させていただきます」とかならともかく「謝罪したい気持ちでいっぱいでございます」って一体何なのでしょうか?その上「ま、このような形で皆様に謝罪できること、感謝しております」という意味不明な「感謝」を述べてから、ようやく「本当に申し訳ありませんでした」と謝罪。

まず冒頭が「私の不祥事で」や「私の問題で」ではなく「私の家族のトラブルで」と言っている時点で「他人事感マンマン」ですが、それだけでなく、「●●したい気持ちでいっぱい」とか「感謝」とか、現役時代のヒーローインタビューで多用したようなポジティブなフレーズが混じっているため、あまり謝罪しているようには聞こえません。それに、これでは何が言いたいのか意味が分からないので、長女のChatGPTを借りて「謝罪文」を作成してもらえば良かったのに‥‥、なんて思ってしまいました。

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かつて、おかしな日本語を話すと言えば、自分たちだけに分かる新語や造語を使いまくるJKを中心とした若い世代でした。しかし現在は、それなりの年齢に達している大人たちの中にも、おかしな日本語を使う人がジワジワと増えて来たのです。そしてその多くは、自分のことなのに、まるで他人のことであるかのように話す人たちなのです。3月にもこのメルマガで取り上げましたが、この春、TBSラジオが制作したラジオCMに、その傾向が顕著でした。

以下、3月の原稿を手直しして再掲しますが、その1つ目は、若い女性と落ち着いた声の男性が、女子社員と部長という役柄で会話しているテイのラジオCMです。

女子社員「部長!今度の若者向けプロモーション、TBSラジオを使ってみません?」

部長「ラジオかぁ~、でも今の時代、若者に届けるならデジタル広告が主流じゃないのか?」

女子社員「おっしゃる通り、だ~か~ら~、最近のTBSラジオはデジタル広告メニューも充実しているらしいんです!」

ナレーション「TBSラジオでは、デジタル広告予算から出向するスポンサー企業も増加中。ターゲット年代やエリアに合わせて、幅広いプランニングをご提案します。詳しくは『TBSラジオ CM』で検索して、TBSラジオプロモーションガイドまでお問合せください」

このCM、聴いたことのある人も多いと思いますが、あたしが気になったのは、女子社員の二度目のセリフの中の「充実しているらしいんです!」の部分です。自分から上司に「TBSラジオを使ってみません?」と提案してるのに、文末が「らしいんです」って、とても社会人とは思えない無責任ぶり、他人事ぶりです。

ま、上司に対して「だ~か~ら~」なんて言っちゃうような女子なので、あえて社会的常識が欠落した「おバカなキャラ」に設定されてるのかもしれませんが、もしもあたしが上司なら、間違いなく「ちゃんと調べてから提案しなさい」と指導します‥‥というわけで、続きましては、2月から4月まで良く流れていたこんなCMです。

ナレーション「TBSラジオ主催、伊藤蘭コンサートツアー2026、ツアータイトルは『ダンスオン、ラブオン』!」

BGM(雪がとけて~川になって~♪)

ナレーション「全国6都市、9公演のホールツアー、東京公演は5月30日、31日、SGCホール有明で開催、あの伝説の紙テープ応援OK!」

BGM(もう1回なんたら~♪)

伊藤蘭さん「皆さ~ん、伊藤蘭です。コンサートでは、アルバムの最新曲や、お馴染みのキャンディーズ曲も歌いますので、皆さんお誘い合わせの上、遊びに来ていただけたら嬉しいと思います」

ナレーション「詳しくは『伊藤蘭 コンサート』で検索!」

このCMも聴いたことのある人が多いと思いますが、あたしが気になったのは、伊藤蘭さん本人のセリフの「嬉しいと思います」です。自分のことなのだから「皆さんお誘い合わせの上、遊びに来ていただけたら嬉しいです」でいいのに、何でわざわざ他人事のような言い方をしているのでしょうか?

もちろんこれは伊藤蘭さんが自発的に言っているのではなく、ご本人は用意された原稿を読んでいるだけなので、何の責任もありません。でも、そうであっても、最初にこの原稿を読んだ時点で、どうして伊藤蘭さんは「この『思います』っておかしくないですか?」と指摘しなかったのでしょうか?それとも、指摘したのに「そのまま読んでください」と指示されたのでしょうか?

あたしが不思議に思うのは、こうしたCMはプロットから完成までに何人もの人の目や耳を通過して来るのに、その過程において誰一人として、この「らしいんです」や「思います」に違和感を覚えなかったのか?‥‥という点です。たとえば、生放送でパーソナリティーがうっかり変な言い方をしちゃったのなら分かりますが、これらはラジオで繰り返し流されるCMなのですから、少しでもおかしな部分があったら誰かしらが指摘して修正するはずです。

それなのに、誰一人として指摘しなかったということは、もしかして言語感覚がおかしいのはあたしのほうで、今どきはこうした他人事のような表現こそが一般的な時代になってしまったのでは?‥‥なんて思ってしまいました。最近は四方八方から揚げ足取りの猛禽類が獲物を狙っていて、ターゲットにされた人は何を言っても言葉尻を取られて炎上させられちゃう時代です。そこで、その対策として、あえて他人事のような表現を使い、自分の身を守る人が増えて来たのでしょうか?

そもそもの話、この「他人事」という言葉だって、本来の読み方は「ひとごと」一択でした。でも、口が酸っぱくなるほど「ひとごと」だと教えても「たにんごと」と誤読する人が後を絶たないため、いつの間にか「たにんごと」と読んでもOKってことになっちゃったのです。これではまるで、ドナルド・トランプが国際法など無視して他国への武力攻撃を繰り返したため、とうとう誰も「国際法違反だ!」とは言わなくなってしまった「無理が通れば道理が引っ込む作戦」と同じではありませんか。

しかし、同じ日本語でも平安時代の人たちと現代人のあたしたちがまったく違った言葉を話しているように、言葉は時代とともに変化して行くものなのです。郷に入れば郷に従えで、そのうちあたしが「きっこのメルマガの読者が増えてくれると、あたしも嬉しい気持ちでいっぱいだと思いま~す♪」とか言っても、誰も違和感など覚えない時代が来るのかもしれませんね(笑)。

(『きっこのメルマガ』2026年6月3日号より一部抜粋・文中敬称略)
 
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