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「愛子天皇」は認めず「赤の他人に近い男子」が皇位継承権を持つ?皇室典範改定で与党が押してしまった日本人の新たな“覚醒スイッチ”

7月17日の参院本会議で可決され、高市政権の目論見通り今国会で成立した改正皇室典範。しかしその議論に費やされた時間は、決して充分なものとは言い難いものであったことは否めません。今回のメルマガ『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、典範改正に至る過程を振り返りつつ総括。さらに「この国にとって天皇制とは何か」という根源的な問いを投げかけるとともに、日本の将来を見据えた国民的議論の必要性を説いています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

「立法府の総意」はどこへ消えたのか。皇室典範改定の動きに思う

今号の配信日17日は、今国会の会期末にあたりますが、与党は1週間から10日ほど会期を延長する方向で調整に入ったようです。

前号の「今週のメインコラム」の中で、皇室典範改定を巡る国会審議の動きについて触れましたが、今号でもこちらのコーナーで少し補足をしておきたいと思います。本件については、11日に、Xに以下のような投稿を行いました。

https://x.com/ktsujino/status/2075750003478516089

やや過激に表現しましたが、かなりバズりました。この投稿を引用してさらに次のような投稿も行いました。

https://x.com/ktsujino/status/2076463272589734114

本件に関するこれまでの経緯をざっと整理すると、もともとは、1947年のGHQ占領下で、11の旧宮家が皇籍を離脱したことに端を発していると言えます。これによって皇族数が減り、将来的に皇室が絶えてしまうリスクが懸念されるようになったことから、再度皇族数を増やす必要があるとの問題意識で、2005年の小泉内閣の時に、皇室典範改定に関する本格的な議論が始まりました。

当時の有識者会議では、女性・女系天皇を容認する提案も行われています。しかしその後、秋篠宮家に悠仁様が誕生したことにより、この議論は事実上中断され、その後2012年になって、旧民主党の野田内閣の時に、女性皇族が婚姻後も皇族として残る制度について議論が行われました。しかし、これも政権交代により立ち消えとなりました。

その後、2017年に上皇様の退位に伴う「特例法」が成立した際、国会は「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」について速やかに検討するよう政府に求める付帯決議を採択し、2021年、政府の有識者会議が、

  1. 女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案
  2. 旧宮家の男系男子を養子として皇族とする案

の2案を軸とする報告書を取りまとめました。断続的とはいえ、ここまでは時間をかけて比較的丁寧な議論が積み重ねられてきたと言えます。

今回の皇室典範改定の動きの何が問題かと言うと、大きく

  1. 手続き面での問題 と、
  2. 内容の問題、

に分けられると思います。まず手続き面での問題としては、決め方があまりにも拙速です。6月30日に衆院に法案として提出されてから、7月10日の審議で費やされた時間はわずか3時間余りで衆院本会議を通過、15日に参院での審議が始まって翌16日には参院特別委員会で可決、17日には参院本会議で可決・成立する見通しです(*本原稿は16日に執筆)。

何が何でも今国会での成立を急ぐ理由が不明確ですが、裏には、麻生副総理の個人的な執念があるということについては前号でも触れました。与党内で麻生氏と熾烈な主導権争いをしている高市氏も、今国会で皇室典範改定を実現することについては、麻生氏と完全に一致した動きをしています。

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日本の将来にとって重要な「天皇制とは何か」という国民的議論

そして内容の問題としては、もともと与党が「立法府の総意」と言っていた取りまとめ案の段階では、皇族数確保の具体策として、先述した2021年の有識者会議で提案された2案、すなわち、

  1. 女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する案
  2. 旧宮家の男系男子を養子として皇族とする案

を示すところまでで、皇位継承権については言及されていませんでした。しかし、国会審議に提出された与党案では、皇位継承権について、養子本人の男系男子に資格はないものの、「養子となった後に生まれた男子(養子の子孫)は皇位継承資格を持つ」と明記されていたのです。野党の立憲民主党は、主にここについて「だまし討ち」と強く反発していました。

結局、今回の改定では、皇室典範第1条の「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」についてはそのままで、2005年に提案された女性・女系天皇誕生の道は閉ざされたままです。

また、現在9条で皇族が養子を迎えることを禁じていますが、今回の改定によって、今上天皇の一親等である愛子内親王が天皇になることはできない一方で、36~38親等も離れた実質的には赤の他人に近い男子が、皇位継承権を持つことになる可能性が生まれることになりました。

とにかく、今回の皇室典範改定の議論では、女性・女系天皇の是非、養子の是非、女性皇族やその家族の身分についてなど、積み残しの課題が多く、一部の権力者や極右政治家の思惑ばかりが先行した印象で、立法府の総意はおろか、とても国民の総意に基づいた内容とは言えません。元宮内庁長官の羽毛田信吾氏なども、テレビの取材に応じて苦言を呈しています。

関連記事:元宮内庁長官が語る「血統も大事だが“象徴天皇”とは何かを常に念頭に」「上皇さま“退位”には象徴天皇への“国民の理解”あった」

私も、衆議院で審議・採決が行われる日の朝、以下を投稿しておきました。

https://x.com/ktsujino/status/2075385918501142538

するとその後、共産党の塩川議員がまさにこの点を単刀直入に質問していました。思った通り、答弁にあたっていた木原官房長官は、まったく答えられずに立ち往生してしまいました。

https://x.com/ashitawawatashi/status/2075415800379474311

今回の皇室典範改定を巡る動きを見ていて強く思うのは、先ほどのXへの投稿で述べた通り、本来であればこれを機会に「そもそも天皇制とは何か」ということに関する国民的議論をしっかりと盛り上げた方が良いということです。

天皇制は、歴史的にも日本という国の根幹をなす制度だと思いますが、明治維新までの時代と、明治維新以降の時代、そして太平洋戦争以前と以降でその意味合いが大きく変遷しています。

特に太平洋戦争後は、「象徴天皇」という新しい概念で天皇制そのものの意味合いが大きく変わりました。私自身は戦後生まれですが、生まれた時から、この「象徴天皇制」というものを特に疑問に思うこともなく、思考停止のまま受け入れてきた面があります。

しかしながら、今あらためて考えてみると、実はこの象徴天皇制は、日本国憲法と並んで、戦後、平和主義国家としての道を歩んできたこの国のアイデンティティともいえるかけがえのないものではないでしょうか。もちろん、全く違う意見も含めて様々な意見があるでしょうから、今あらためて、「この国にとって天皇制とは何か」ということを歴史も遡りながら議論することは、日本の将来にとって非常に重要なことだと思います。

そういう面では、今回、与党が皇室典範の改定を乱暴に仕切ったことは、日本人にとって、新たな「覚醒のスイッチ」になったかもしれません。

※ 本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年7月17日号の一部抜粋です。このほか、「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください。

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image by: 宮内庁

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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