病歴や犯罪歴といった極めて機微な個人情報を、本人の同意なく企業が取得できるようになる。そんな規制緩和を盛り込んだ個人情報保護法の改正案が、参院本会議で可決・成立しました。AI開発を名目としたこの改正には、情報漏洩や悪用への強い懸念がつきまといます。『きっこのメルマガ』では、著者で人気ブロガーのきっこさんが、この「個人情報の大安売り」とも言うべき法改正の危うさと、匿名化を拒んだ政権の姿勢に鋭く切り込んでいきます。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
個人情報の大安売り
世界から大きく遅れているAI(人工知能)の今さらの開発のため、企業が病歴や犯罪歴などの個人情報を本人の同意なく取得できる規制緩和の特例を設けた「個人情報保護法の改正案」が10日の参院本会議で、与野党の賛成多数で可決、成立しました。この人権無視の最悪の改正案に賛成したのは、自民党、日本維新の会、国民民主党、チームみらい。国民のために反対したのは、立憲民主党、公明党、参政党、共産党、れいわ新選組、沖縄の風、社民党などでした。
病歴や犯罪歴、人種や宗教や思想信条などの「要配慮個人情報」の取得について、政府がこれまで「本人同意」を原則として来たのは、こうした情報が漏洩した場合、差別や偏見を招く恐れがあるだけでなく、犯罪などに悪用されるケースもあるからです。そのため、今回は立憲民主党などが「要配慮個人情報」を特例の対象外とするように求める修正動議を提出しましたが、自民と維新による国民無視の「数の暴力」で否決されてしまいました。
まだ記憶に新しいですが、6月5日の参議院予算委員会で、高市早苗首相が突然「私どもの事務所にも、膵臓癌のステージ4を去年告知されましたが、今も元気に働いている木下という秘書がおります」と発言しました。サナエトークン問題やネガキャン動画問題の中心人物である木下秘書の参考人招致を妨害するための卑劣な印象操作だったと見られていますが、この時は「病歴の公表には本人同意が必須。高市首相は木下氏の同意を得た上で答弁したのか?」と厳しく追及されました。
企業に個人情報がそのまま渡る
しかし、これからは、あたしたち全国民の病歴や犯罪歴、人種や宗教や思想信条などが、本人の同意なく企業が自由に取得できるようになってしまうのです。こうした個人情報を国が自由に取得できるのも恐ろしい国民監視ですが、今回の改正案では、民間の企業がAI開発のために自由に取得できるようになると言うのですから、もはや「個人情報の大安売り」です。
政府は「こうした特例は統計情報等の作成に限られるため個人の特定の恐れは少ない」と説明して来ましたが、この説明を読めば分かるように、企業へは個人情報がそのままマルッと渡るのです。「10万人のうち精神疾患の病歴があるのは約1000人」という統計データが渡るのではなく、「10万人のうち精神疾患の病歴があるのは、何丁目何番地の誰々さん、何丁目何番地の誰々さん、何丁目何番地の誰々さん‥‥」という個人情報が渡るのです。
そして、それを見て企業が「10万人のうち精神疾患の病歴があるのは約1000人」という統計を作成するわけです。そのため、作業の途中で情報漏洩が起これば、精神疾患の病歴がある人たちの住所と氏名の一覧が世に出てしまうわけです。奇しくも、この原稿を書いている7月13日、宮城県精神保健福祉センターは、精神障害者が支援を受けるための申請に必要な書類117件を紛失したと発表しました。
この書類には、住所や氏名の他に、病歴やマイナンバーなどの個人情報が明記されていたそうです。この書類を拾った人が良い人で、すぐに警察に届けてくれれば良いのですが、もしも悪い人だったら、金儲けだけでなく犯罪に使われる可能性もあるのです。そして、これと同じことが、これからは全国単位で発生する恐れがあるのです。
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機微な情報は「宝の山」
病歴や犯罪歴など極めて機微な個人情報は、見る人が見れば「宝の山」です。たとえば、大手の生命保険会社などであれば、国民の病歴が分かるリストなら何億円払ってでも手に入れたいでしょう。他にも、個人の趣味嗜好などが分かる情報が満載のリストであれば、数多くの業種のマーケットで引く手あまたになることウケアイです。
こんな最悪の規制緩和をしたら、大量の個人情報を取得する目的でAI開発のベンチャーを設立する守銭奴も湧いて来そうですし、こうした名簿売買と言えば反社グループの独壇場です。そして、AI開発のためだと言って多くの国民の病歴や犯罪歴などが明記された個人情報を取得して、犯罪に二次利用することなど容易に想像できるでしょう。
特に犯罪歴の場合は、他人に知られたくないと思っている人が大半だと思いますし、中には自分の犯罪歴を隠して現在の仕事に就いている人も一定数はいるでしょう。このような状況で、本人の同意もなく第三者である民間企業がそうした個人情報を取得できるようになれば、その情報を悪用しようと考える人が出て来ても不思議ではありません。
なぜ匿名化を拒んだのか
今回の改正案において、何が一番の問題なのかと言えば、こうした病歴や犯罪歴に漏れなく住所と氏名がくっついている点です。企業がこうした情報を取得できるとした特例は「AI開発のための統計の作成など」と目的が限定されているのですから、そうであるのなら元のデータから住所と氏名を消して「匿名のデータ」にしても問題ないはずです。
そこで、立憲民主党や公明党などは「データ流出や悪用のリスクが高いので、せめてデータの匿名化を義務づけるべき」と主張しました。あたしはモットモだと思いました。しかし、担当する松本尚(ひさし)デジタル相は、データの匿名化について「名寄せの必要性や技術的困難性を考えると今回はやむなしという部分がある」と答弁して突っぱねたのです。
ここで注目すべきは「今回はやむなし」という言葉です。つまり、松本デジタル相も、実際にはデータの匿名化は必要だと考えているのですが、今回はそこまでやっている余裕がないので仕方ない、と回答したわけです。さらに松本デジタル相は、14日の閣議後の記者会見で「個人情報がいろんなところに漏れてしまうという懸念があることは十分承知している」とも述べています。
松本デジタル相は「できる限り国民の懸念を払拭して行く」とも述べましたが、そもそもの話、松本デジタル相も個人情報漏洩の危険性はすでに認めており、本来ならば立憲民主党や公明党が主張するように「データの匿名化」が必要だと考えていたのです。しかし「漏洩防止よりAI開発優先」という高市政権の方針、そして今国会で1本でも多く法案を成立させたいという高市首相のワガママに従い、国民など二の次の生煮え法案や緊急性ゼロのどうでもいい法案ばかりを絶賛連発中なのです。
実際、この改正案が施行されるまで2年間も余裕があるのですから、病歴や犯罪歴に関するデータを匿名化することはできると思います。立憲民主党や公明党の主張を受け入れて「データの匿名化が完了し次第、施行する」としていれば、多くの国民の懸念は払拭できたのです。それなのに、個人情報を大安売りしてまで法案成立という自分の実績を最優先した国民無視の高市首相。自民党は一体いつまで、使用済み核燃料の処理方法も見つからないまま原発を稼働させるような無責任な政策を繰り返して行くのでしょうか?
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