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「皇室典範改正案を最優先」という罠。麻生太郎が“高市早苗と維新の蜜月”を終わらせた決定的瞬間

野党の全面的な審議拒否で空転状態に陥っていたものの、ようやく正常化への道筋が見え始めた今国会。しかしその背景では、連立の行方をも左右しかねない駆け引きが繰り広げられていたようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、麻生太郎氏と高市首相、日本維新の会の攻防を詳しく分析。その上で、自民党内で進む権力構造の変化と、今後の政局の行方について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:麻生太郎が仕掛けた「皇室典範」の罠

麻生太郎が高市に渡した引導。「皇室典範改正案」優先で露呈した“維新との連立”の限界

高市首相の資質と政治姿勢、そしてその傲慢さが招いた必然的な国会の“空転”は、ついに政権を追い詰める事態となってきた。

野党が求める予算委員会の集中審議や党首討論への出席を自己都合で拒み、維新に約束した議員定数削減法案など二つの法案を「数の力」で強引に審議入りさせた結果、国会は衆参両院で完全に停止した。だが、それだけではない。今回の空転は、お決まりの「与野党対立」に加え、「自民vs維新」の「与党内対立」という複雑な政局を露呈させた。高市政権は、今、その綻びの渦中にある。

インドから帰国した高市首相を待ち受けていたのは、維新の“焦り”と“怒り”だった。維新との連立を重視する高市首相が、強引な国会運営を促してでも成立させようとした維新の看板政策「衆院議員定数削減法案」と「副首都構想関連法案」に赤信号が灯っていたのだ。

仕掛け人は自民党副総裁、麻生太郎氏。その意を受けて動いたのは森英介衆院議長だ。7月1日の午前11時、与野党の幹部を国会内の部屋に集めた席上で、森議長はこう言い放った。

「皇室典範改正案については、静謐な環境での今国会成立を最優先に取り組んでほしい」

「衆院議員定数削減と副首都構想関連の2法案については、野党の審議参加に向けて“互譲の精神”で話し合ってほしい」

衆院で野党5党がこぞって審議拒否をするきっかけとなったのは6月26日の議院運営委員会で、衆院議員定数削減と副首都関連法案を、野党側の反対意見にかまわず強引に審議入りさせたことだ。むろんその背景には、これら看板政策を是が非でも実現させたい日本維新の会の突き上げと、高市首相の意向があった。

麻生氏ら自民党主流派が今国会での成立をめざす「皇室典範改正案」が閣議決定され、国会に提出されたのは7月1日。野党の審議拒否がこのまま続くと、この“本命”の政策が通らなくなる恐れがでてくる。「日本国民の総意に基く」と憲法第1条で定められた「天皇」に関する法案の性質上、野党不在のまま強行採決するわけにはいかないのだ。

麻生氏としては絶対に受け入れがたい事態だった。事態を打開するために打つ手は一つしかない。麻生派の事務総長として長年、麻生氏を支えてきた森英介衆院議長を動かすことだ。

森議長ら両院の正副議長は皇室典範改正についての「立法府の総意」をまとめ、概ね野党の賛同が得られていた。それを受けて政府が提出した改正案の中身には反対論があるものの、「総意」をまとめた森議長が「皇室典範改正案を最優先にしてほしい」と呼びかけることは不自然ではなく、なにより、議員定数削減法案と副首都法案を“二の次”とすることによって、野党の強硬姿勢を和らげる効果を見込んだのだろう。

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麻生太郎の計略にまんまとはまってしまった維新の痛恨

もちろん維新は反発した。最も恐れていたことが起きてしまったのだ。こういうことにならないよう、7月1日の特別委員会で、野党欠席のなか、一気に採決にまで議事を進めてしまう算段だった。ところが、その日の午前中に森衆院議長が動いたことによって、自民党は採決を見送る口実ができ、維新はしぶしぶそれをのまざるをえなくなった。

維新の藤田文武共同代表が「法案審議の順番や日程を議長の影響力で差配することは正しいやり方なのか」と疑問を呈したが、時すでに遅し。麻生氏の計略にまんまとはまってしまった。森衆院議長、鈴木幹事長、山口議院運営委員長といった国会の主要メンバーを麻生派から配置した“高市包囲網”が威力を発揮したといってもいい。

維新の吉村代表の次の発言からも悲壮な危機感が伝わってくる。

「この国会において皇室典範の改正と副首都、定数削減、これは当然やり切るべきだと思います。有権者と約束したことでもあるし、自民党にとっても公約でしょ。やらないのなんて、ありえないですけどね。今国会で、閉じずにやり切る。そこにつきます」

やや陰りがみえるとはいえ依然として高い支持率を誇る高市首相。衆院選で大勝利に導いた自信から、一時は麻生氏の支配力を削ぐため衆院議長への就任を要請し「一強」体制の構築に突き進もうとした。しかし、麻生氏はむしろそれを逆手に取り、高市応援の大義名分を掲げる「国力研究会」なる議員グループを発足させて、党内支配力をさらに高めた。

いまや、高市首相に付き従う勢力は自民党内に少数しかなく、むしろ維新との関係が頼りというありさまだ。

皇室典範改正案を維新の二つの目玉法案より優先させるという麻生氏らの狙いは、「高市・維新」を軸とした権力構造に楔を打ち込むことにある。維新がそれを気に入らないのならさっさと連立から出ていけばいいと思っているのだ。

もともと、菅義偉氏と近しい関係を続けてきた維新に対して、麻生氏は好感を抱いていない。維新に譲歩する高市首相の姿勢が気に食わない麻生氏は「もう高市には協力できん」と周辺に不満を漏らしたと伝えられている。

周知のとおり、麻生氏はかねてから国民民主党を連立パートナーにしたいと考えてきた。維新が離れても、国民民主と組めば、参院も少数与党から脱し、政権は盤石になる。その国民民主は比例代表を45議席削減する定数削減法案を死活問題として反対し、副首都法案についても「特別市設置法案」という対案を出して一線を画しているのである。麻生氏にとって、維新の2法案は排除すべき障害でしかないだろう。

維新は麻生氏と自民党主流派の真意を悟り、皇室典範改正案の優先審議を容認する代わりに、定数削減法案と副首都法案も今国会で成立させることを確約するよう、「覚書」を要求した。だが、それに応じたら、野党がますます反発を強めるのは間違いない。

焦る吉村代表は7日、高市首相と会談した。直前まで「覚書」を自民党に要求していた維新だが、出てきた結果は真逆のものだった。高市首相は、とりわけ野党の反対が強い衆院議員定数削減法案の「今国会での成立」を諦め、先送りするよう吉村代表を説得、維新は泣く泣く合意したのだ。

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安堵と悔しさが入り混じっているように見えた首相の背中

強硬路線を転換させたのは、皇室典範改正案すら今国会での成立が危ぶまれる事態に直面し、これ以上の国会空転は政権の致命傷になりかねないと判断したためだ。いくら維新が泣きついてきても、もはや状況を覆す力は首相に残されていなかった。誹謗中傷動画などについての国会の追及をかわすため党の協力が必要な高市氏は、維新を切り捨てる決断をしたのである。

二人とも会談後の会見では、「詳細についてはお答えを差し控えさせていただく」(高市首相)などと繰り返したが、首相の背中には維新との関係維持という重荷を投げ出した安堵と、麻生氏ら自民主流派に屈した悔しさが入り混じっているように見えた。二つの法案の成立を悲願としていた維新にとって、これは政策実現の敗北であり、連立の存立基盤が崩壊した瞬間である。

それにしても、これまでの強硬姿勢は何だったのか。首相は維新との信頼関係を維持するために大切な2法案の成立が危ぶまれる状況に追い込まれ、結局は「国会のことは国会で」という建前を崩して自ら先送りを決めた。怒り狂っていた維新も、麻生氏の描いたシナリオ通りに「アクセル」を緩めさせられたのだ。

つまるところ、世論の風向きを頼みとする高市首相が、古き自民党の政治力学を駆使する麻生氏の軍門に下り、その掌の上で転がされているという現実が浮き彫りになった。

麻生氏は今後、来年9月の自民党総裁選を見据えて本格的に連立の入れ替えを画策してくるだろう。風前の灯となりつつある維新との関係。自民党内に味方が少なく、維新のふかす“アクセル”を力にしてきた高市首相は、いよいよ麻生氏に逆らえなくなってきた。

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