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誰も報じない「安倍外交」の崩壊。米中直接取引に舵を切ったトランプと、まだ踊り続ける高市首相の末路

トランプ政権が『自由で開かれたインド太平洋(FOIP)』構想から静かに手を引き始めています。米国防省はインド太平洋司令部の名称を元の太平洋司令部へと戻し、米中の直接取引を優先する姿勢を鮮明にしました。それは安倍晋三元首相の遺産とされる戦略の臨終を意味します。『高野孟のTHE JOURNAL』では、著者でジャーナリストの高野孟さんが、米外交専門誌の論説を手がかりに、FOIPとQUADが葬られていく実像と、いまだ古い枠組みの上で踊り続ける高市早苗首相の姿を鋭く読み解いています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです

プロフィール高野孟たかのはじめ

1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

米外交専門誌が断言する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という安倍晋三の遺産の臨終

米国のトランプ政権は、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という奥歯にモノが挟まったような言い方をしながら、実際には米国を盟主とし日豪でその両脇を固め、インドをも巻き込んで「中国包囲網」を形成しようとする外交・軍事戦略を、廃棄した。

本誌は、米国防省が「インド太平洋軍」の呼称を元々の「太平洋軍」に戻すと発表したとの6月18日付読売ワシントン支局発の短い記事に着目し、先々週号(No.1371)でこれをいささか先走って全面展開してFOIP概念の臨終について論じた。が、その後、米国の権威ある外交政策・国際問題専門誌『フォーリン・ポリシー(FP)』が「なぜトランプのペンタゴンは”インド太平洋”〔概念〕を遺棄するのか」と題したデレク・グロスマン=南カリフォルニア大学教授の論説を掲載したので、本誌の論調が決して先走りでなかったことが裏付けられた。

翻って、この大事な第一報を載せた読売新聞自身はこれの重大性についてそれ以後全くフォローしておらず、私の目配りの限りでは他紙はどこもこの問題を取り上げることさえしていないため、高市早苗首相のインド訪問についての報道・論評も底の浅いものになり終わっている。そこで、以下にFP記事の要旨を紹介する。

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INDOPACOMは元のPACOM

グロスマン教授は次のように述べている。

▼驚いたことに、米国防省は、ハワイを拠点として太平洋とインド洋東部の米軍〔陸海空&海兵の〕各部隊を統括する「インド太平洋司令部(INDOPACOM)」を元の「太平洋司令部(PACOM)」の名称に戻すと発表した。ペンタゴンに言わせれば、PACOMには深い歴史的なルーツがあり、この地域で兵役に従事する者にとって誇りと共通精神の対象である。

▼それはその通りだろうが、この名称変更は、トランプ大統領が中国に対する競争意識を抑制して関与と取引の関係に持ち込みたいという志向に沿ったものである。

▼実は、2018年にPACOMからINDOPACOMへの名称変更を決めたのは1期目のトランプ自身である。……その目的はFOIPというトランプ政権のビジョンを促進することにあった。トランプがFOIPを最初に表明したのは、17年のベトナム訪問中のことで、その時からFOIPは米国の公式の戦略となった。そのビジョンは元はと言えば日本の安倍晋三元首相に由来するもので〔注〕、彼は、豪州、インド、日本、米国などの民主主義国家が協働して、権威主義国家=中国が南シナ海を”北京の湖”に変えようとするのを防ぐのだと言っていた。※〔注〕しかしこのビジョンは安倍のオリジナルではなく、ワシントンの誰かが英語で執筆して安倍の名前で発表させたものであったことは、No.1371で述べた。

▼INDOPACOMの名称は、中国の台頭を抑える上でインドが中心的な役割を果たすべきだとするワシントンの信念を表すものだった。しかし、今日ではもはや、それらの考えはトランプの外交政策の中心から外れている。その一因は、インドとパキスタンの間の4日間戦争を解決する上で助け舟を出したのは自分なのだから、俺がノーベル賞を獲れるよう手助けしろという要求をモディ首相が断ったことに、トランプが腹を立てたことにある。

▼またトランプは〔今年に入ってからは〕イランとの交渉の鍵を握る仲介者としてアシム・ムニール=パキスタン軍最高司令官を頼りにしてきた経緯もあり、その分、ニューデリーとの関係は疎遠になっている。

▼さらに、このPACOMの名称復活が、トランプが先月訪中し、習近平主席との間で両国関係の安定化を図った直後に発表されたことにも着目すべきである。両国間にはまだ合意に至らない大きな問題がいくつも残るけれども、この訪中を通じてトランプは、中国の台頭を封じ込める地域連合を組織化することよりも、米中2国間で直接関与し取引関係を結ぶことをますます優先するつもりであることを表明したのである。つまり、INDOPACOMという看板の廃棄は、地理的〔な範囲〕ではなく戦略的〔な対中姿勢の〕転換を意味している……。

「QUAD」の枠組みも消滅か?

このように、トランプの米国がFOIP概念から身を引き始めると、当然、それを支える骨組みとしての「日米豪印4カ国の安保対話(QUAD)」もまた衰退していくことになろう。上記論説の筆者グロスマンは、同じくFPに4月23日付で寄稿した別の論説「消滅の瀬戸際に立つQUAD」で、この組織がトランプ政権の終わりを待たずに消えていくと予測している。

こうして、安倍信者からは安倍政権の最大の外交的成果として翼賛されるFOIPとQUADは、他ならぬトランプの手によって葬られようとしている。そのことを知ってか知らずかあの安倍の遺産がまだ有効だと思い込んで、そこで踊ろうとする高市早苗首相の時代遅れな姿が哀れである。(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年7月6日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: 首相官邸

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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