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トランプや高市早苗など論外。民主主義再興のカギを握る「最良の学校」とは?

国家権力の「暴走」により、主権在民が形骸化していると言っても過言ではない先進各国。我々国民が民主主義を取り戻す方法は、果たして存在するのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、杉並区長として2期目を務める岸本聡子氏の「地域主権」という考え方や、欧米で広がる地域政治の潮流を紹介。その上で、日本政治が再び活力を取り戻すための道筋について考察しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:もはや「地域」からの民主主義の再興の広がりを気長に待つしかなさそうな日本政治の惨状

プロフィール高野孟たかのはじめ

1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

「惨状」と言う他ない。「地域」からの民主主義の再興の広がりを気長に待つしかなさそうな日本政治

6月28日に行われた東京都杉並区長選挙で再選を果たした岸本聡子が、2022年6月の前回選挙で初当選した半年余り後に出した本のタイトルは『地域主権という希望』(大月書店、23年1月刊)だった。

今にして思うと、このタイトルはかなり予言的で、日本を筆頭として欧州でも米国でも、中央政治の舞台では真っ当な意味でのリベラル政党が後退するどころか変質し壊滅し絶滅にまで追い込まれつつある中で、もしやこれからリベラル再興の芽が出てくるとすれば、それは地方政治の草の根に足を踏ん張った、総じて若い、女性がかなりの比率を占める首長たちの実践とその横への連携を通じる以外に道はないのではあるまいか。

「地方自治は民主主義の最良の学校である」というのは、英国の政治家ジェームズ・ブライスの名言として日本の多くの公民教科書にも載っていて、それだけが独り歩きして「永遠の真理」であるかに思われているのかもしれない。

しかし、民主主義の本家と見做されてきた米国の大統領が自ら選挙制度への不信を煽り、議会と裁判所を侮辱し、デマを振り撒き、暴力を恣にするという前代未聞の人類史的な危機事態に直面し、またそれに同調するようなポピュリスト的政治勢力が欧州や南米や日本でも横行し始めている時、今や世界はプライスの名言を神棚に飾って置くだけでは済まず、それを真面目に実践することを通じて自分らで民主主義を立て直すしかなくなっている。

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舌を噛みそうな「ミュニシパリズム」なる言葉が意味するもの

岸本が同書の「はじめに」で述べているところは要旨次のようで、ここに同書の趣旨は凝縮されている(P.4~5)。

▼区長としてはまだよちよち歩きの段階ですが、私がこれから杉並区で取り組もうとしている変革が、世界規模の大きな潮流の中にあるものだということを、区民に限らず全国の皆さんに知っていただきたい。

▼ひとことでいえば、「公共」の役割と力を取り戻すこと、そして、地域の住民が主体となって、自分たちの税金の使いみちや公共の財産の役立て方を、民主的な方法で決めていくということです。

▼この数十年、世界中で、国や自治体が本来持っていた公共的な役割をどんどん縮小し、水道や電力など住民生活に不可欠なインフラ事業まで、民間企業に委託してしまう民営化の流れが続いてきました。

▼私が長く暮らしていたヨーロッパでは近年、こうした民営化の流れを止め、住民が地域の公共財産を自分たちで民主的に管理する仕組みを作り直そうとする動きが各地で生まれています。

▼こうした住民運動を母体として自治体ごとの市民政党がつくられ、首長や地方議会の選挙で勝利し、国の政府やEUといった大きな権力にも敢然と物申していく――このような現象は、「再公営化」「ミュニシパリズム(地域主権主義、自治体主義)」、そして「恐れぬ自治体(フィアレスシティ)」という言葉で捉えられています……。

ミュニシパリズム(Municipalism)は、地方自治体を意味するmunicipalityからの派生語だが、その語も日本では馴染みがないので、片仮名で表記しても通用しない。訳せば上述のように「地域主権主義、自治体主義」ということになる。しかし「地域主権」と訳してもまだ馴染みの薄い言葉であることに変わりはない。

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「地域主権」を基本政策に掲げた日本で初めての政党

実を言うと、「地域主権」を基本政策に掲げた日本で初めての政党は、1996年9月結成の旧民主党に他ならなかった。その結党宣言は、次のような左右対称表を掲げ、この左側は明治以来(当時で)約100年続いてきた「国権主義」の政治であり、これを100年目にして「大転換」してこの右側の「民権主義」の政治を創出するのが、同党の歴史的使命であると規定した。

官僚主導による      ←→ 市民主体による
強制と保護の       ←→ 自立と共生の
上からの民主主義と    ←→ 下からの民主主義と
そのための中央集権    ←→ そのための多極分散
垂直統合型の       ←→ 水平協働型の
国家中心システムは    ←→ 市民中心社会のシステムを
すでに歴史的役割を終えた。←→ 築き上げなければならない。

そしてこの民権主義、今日的に言えば「市民中心社会のシステム」を作り出すための基本政策の1つとして「地域主権の確立と行財政の改革」を掲げた。

これには、自民党の右寄りの人たちは猛反発し、「何を言うんだ。主権は国家が国民からの付託によって担うのであって、それとは別に地域に主権があるというのは妄言で、憲法の上からもおかしい」などという声があった。しかし、我々に言わせると彼らの言い分こそ「国家絶対」の国権主義者らしい妄言である。

ヨーロッパではEUの統合が進む中で、従来は多くの国で「国家」に集中しているのが当たり前だった「主権」が、例えば通貨発行権はEUへ、紛争予防・調停・平和維持の機能はOSCE(全欧安保・協力機構)へなど、超国家の広域機関への移譲が行われ、他方、人々の生活に密着した様々な政策の決定、制度の運営、予算の配分などは地方自治体へと大胆に移譲され、それでも残るどうしても国全体で調整を図らなければならない問題だけを引き続き国家が引き受ける――という、言わば「主権の3方面への分解」が始まっていることを知らなければならない。

日本の憲法は言うまでもなく、その前文で「主権が国民に存することを宣言」している。

主権者である国民は、国家レベルの事柄は第41条に定められているように「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関」である「国会」を通じて政治家に政策や法律や制度を作らせ、内閣を通じて行政組織にそれを実行させるわけだが、それのみが主権行使の道筋である訳ではなく、第92条以下の地方自治の項が定めているように、地方の首長と議員を選び(93条)、条例を制定させ(94条)、時には住民投票を行う(95条)などして身近な事柄を自ら治める。

さらに、国連の改革が進みそれに準ずる東アジアにおける安全保障体制や貿易・投資、通貨安定のための多角的連携協定が整うことがあれば、そこへ向かっての主権の一部を譲渡し制限することも、当然視野に入れておかなければならない。

96年民主党の結成に至る政策議論の中では、例えば筒井信隆=元衆議院議員(社会党ニューウェーブ→民主党)が、「旧左翼は『大きな政府』、新保守は『民営化で市場に任せる小さな政府』、それに対して新リベラルは『小さな政府・大きな自治体』で両方の失敗を乗り越えるのだ」という整理の仕方を示し、「地域主権」の捉え方として皆の賛同を得たものだった。

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下品で稚拙なトランプとは「真逆」のマムダニNY市長

岸本聡子は、20代で日本のNGOで働き始め、そこでオランダ人のパートナーと出会ってヨーロッパに移住。そこでも国際NGOの調査・研究スタッフとして仕事を続け、当時すでに欧州各地で起こっていたミュニシパリズムの運動を直接に体験した。

当時は市長を握って先進的なミュニシパリズムの行政を進めていたスペインの「バルセロナ・コモンズ」をはじめとするその具体的な話は、上述の彼女の著書に詳しく述べられているが、それからすでに3~4年が過ぎてすでに首長が交代していたりするので、その一々を紹介することはしない。欧州のミュニシパリズムがどんな風に湧き起こってきたのかを知りたい方は、直に同書を繙いて頂きたい。

今まさに世界中から注目されているミュニシパリズムの急先鋒は、米国ニューヨーク市のゾーラン・マムダニ市長とワシントン州シアトル市のケイティ・ウィルソン市長で、共に今年1月に就任して半年が過ぎたところである。

マムダニはウガンダのインド系家庭に生まれて7歳の時に米国に移住した、1991年生まれ34歳のムスリム。2020年からNY州議会で民主党議員を務め、同時に「米民主的社会主義者(DSA=Democratic Socialists of America)」の会員として活動してきた。

他方、ウィルソンは1982年生まれ44歳で、公共交通機関の労働組合の共同創立者として運動を率いてきた。「民主的社会主義者」と自称しているがDSAのメンバーではないらしい。

保育の拡充と無償化、中低所得者向けの住宅確保、市内バスの遅延解消のための道路整備や料金無料化など、2人の政策には共通点が多い。が、踏み込みが鋭いのはやはりマムダニで、富裕層への課税強化の具体策の1つとして、市外・国外に居住しながらNY市内に高級セカンドハウスを保有する超富裕層に課税する新しい州の制度を、NY州のホークル知事に働きかけて早くも一部実現させている。

富裕層への課税強化には、その権限を持つ州との連携が欠かせず、同知事も民主党であることがプラスに作用しているのは事実だが、その条件を巧みに活かしてわずか半年で公約を確実に実現させている手腕がすごい。

彼はまた雄弁家でもある。彼が7月4日の独立記念日に当たって行った演説は、この250年の間にどれほどたくさんの人々が海を渡って「アメリカ」に辿り着きその偉大さ作り上げるために参加してきたかを淡々と振り返ったもので、そのマムダニを「共産主義者は最大の敵だ」と罵ったトランプ大統領の下品で稚拙な同じ日の演説と好対照をなしていた。

★ マムダニ演説の動画&テキスト:「Remarks as Prepared: Mayor Mamdani Delivers Address Marking America’s 250th Birthday

イギリスでも、グレーター・マンチェスター市長だったアンディ・バーナムが、労働党の党首になりイギリス首相となることが確実になった。

バーナムは、1970年生まれの56歳ながら、過去に労働党内閣で大臣を務め、党首選に2回出馬したこともあるベテラン政治家で、地方の首長からのし上がって来たというのとはちょっと違うが、しかしこれも、一旦地域政治に身を移して実績を作り一気に中央に返り咲いたという意味では、地方から中央を攻める1つの例である。

日本では、俄かづくりの「中道」が野党第一党として機能せず、そこをいくらいじってもまともなリベラル政党が出来る訳がないことがますます明らかになる中、「地域主権という希望」の広がりを気長に待つしかないのかもしれない。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2026年7月13日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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