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インドは日本の思惑に乗るほど甘い国か?高市早苗という“安倍外交の後継者”が夢見る「中国包囲網」の現実

首脳同士の親密さを強調する演出が、あたかも「成果」のように語られがちな日本の外交。しかし、そのような手法で本当の「実」は得られているのでしょうか。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』ではジャーナリストの富坂聰さんが、高市首相の訪印とインドの対中政策の変化を分析。その上で、いまだ「中国包囲網」という幻想から抜け出せない日本の対外認識の危うさについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:いまだ「中国包囲網」という幻想から抜け出せない安倍外交の後継者

インド訪問でも露呈。いまだ「中国包囲網」という幻想から抜け出せない安倍外交の後継者

日本の外交を見ていて不思議な気持ちに襲われることがある。

外交とは「好きな国」と「嫌いな国」を分け、「嫌いな国」をみんなで一緒に嫌うことなのか。また外交の成果とは「好きな国」と「親しげ」であるか否かを競うことなのか、と。

思い出すのは中曽根・レーガン時代に互いを「ロン、ヤス」と呼び合った演出だ。ただ当時は日米貿易摩擦が燃え盛っていたこともあり、「親しさ」は一定の価値を持っていた。

この演出に違和感を覚えるようになるのは安倍首相がロシアの大統領を「ウラジミール」と呼びかけるあたりだ。そのおかしさは安倍外交の後継者を自認する高市早苗首相に引き継がれた。

イギリスの前首相を「キア」と呼んだのは、さすがにちょっと恥ずかしかった。

そして今回、7月1日から3日まで訪れたインドで、同国のナレンドラ・モディ首相から「妹」と呼ばれた高市首相は、モディ首相を「兄」と呼び返すことで親しさをアピールした。

冒頭に呈した疑問は、言うまでもなく、「その兄から、『妹』の日本は一体どんなメリットを受け取ったのか?」である。

もちろん強調されている成果がないわけじゃない。例えば、日本が得意な「中国を念頭」に経済安全保障で「協力を強化することで一致した」というものだ。

これを額面通りに受け取れば、今回の訪印で「中国包囲網」という安倍政権時代からの見果てぬ夢が前進したということになるのだろう。

実際、共同通信がニューデリー発で配信した記事の見出しは「インドへ2兆円規模の民間投資 首脳合意、中国の威圧に対抗」となっていて、「中国の威圧に対抗」とはっきり書かれている。

だがインドは、日本のそんな思惑にうっかり乗ってくるほど甘い国なのだろうか。

その答えは明らかに「No」だ。それどころかここ2年ほどのインドの動きから見えてくるのは、むしろ中ロへの接近だ。

例えば、2025年9月2日に天津で行われた上海協力機構首脳会議でのモディ首相の振る舞いだ。ホスト国・中国の習近平国家主席が一人一人出席する首脳を出迎える場面で、モディ首相はわざわざ後ろからくるロシアのウラジミール・プーチン大統領を待って、習主席と3人で握手するという場面を演出。世界を驚愕させた。

日本の首相がインフレ気味の笑顔で2兆円を投資したいと近寄ってくれば、それを冷遇する意味はない。モディ首相も笑顔で歓待するだろう。しかし繰り返しになるが、そこで問われるべきは、外交の「実」がどこにあったのか、なのだ。

日本の大手メディアが外交の成果を報じ、ネットで高市首相が「現地で水を飲まなかった」とか、会見で「女優ライトが使われた」ことが騒がれているころ、ロイター通信は早々と、インドのその裏の顔を暴露して話題をさらった。

記事のタイトルは、「インド、中国系電力機器4社に政府プロジェクトへの入札参加許可」(2026年7月3日)だ。

インドが2020年に国境で中国軍と衝突して以来中国企業を実質的に排除してきた政府事業に再び中国を招くというのだから、中印接近の象徴的な動きだ。

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「中国排除」政策を墓場から掘り返してはこないインド

実は、この「緩和」の動きをロイターは今年1月、すでに「インド、政府契約入札に中国企業の参加禁じた措置を廃止へ=関係者」という記事で予告していた。

つまり「緩和」は既定路線であり、どのタイミングで発表してもよかったのだが、それをわざわざ高市首相が去った直後に発表した意味は大きい。どう考えても中国に対するメッセージだからだ。

中国は、高市首相のインド訪問を「中国への対抗」と受け止めていて、定例会見で質問を受けた外交部の報道官も、「(日本は)自由や開放を叫びながら心の中では対立と対抗を考えている」と反発した。

つまりインドは中国が日印に向ける警戒心を和らげるためにも、このタイミングで対中規制緩和を発表したのである。

記事の前半でも書いたように、インドのこうした中国接近の兆候は、この2年ほど頻繁に繰り返されてきた。

実際、中国企業の政府案件への参加の道が開かれる前の3月10日には、投資規制も緩和されている。

では、2020年の中印両軍衝突から徹底して中国製品を排除してきたインドが、どうしてにわかに中国を受け入れる方向へと舵を切ったのだろうか。

その謎を解くカギは2025年3月24日に配信されたロイターの記事にある。タイトルは「インドの国内製造奨励制度、終了へ 中国対抗も効果振るわず」だ。つまり4年間やってきた「中国排除」の結果、それが損だと学び、政策を大きく転換したということだ。

ちなみに国内製造奨励制度は、インドが「中国依存脱却」を進める外国企業を獲得するための取り組みで、4年前に始まったばかりだった。

つまり日本が今、「中国以外の…」と繰り返している、その受け皿としてスタートした制度であり、それをインドは、すでに1年前に「失敗」という烙印を押し、葬っているのだ。

そのインドがいまさら「中国を念頭に」と持ち掛けられたところで、もう一度「中国排除」政策を墓場から掘り返してくるだろうか。

モディ首相の「妹」を見る目は、きっと冷ややかだったのではないだろうか。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年7月5日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: 首相官邸

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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