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累積赤字54億ドルから純利益48億ドルへ。中国半導体メーカーが演じた鮮やかな大逆転劇

半導体市場でいま、中国企業の存在感が急速に高まっています。米国が最先端技術をめぐる対中規制の柱としてきたのが半導体の輸出規制でしたが、AI普及に伴うメモリ品不足を背景に、あのアップルが警戒対象であるはずの中国製半導体の調達を模索し始めました。『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者でジャーナリストの富坂聰さんが、米中の技術攻防に終止符を打ちかねないこの動きと、赤字続きだった中国半導体メーカーが演じる大逆転の実態を読み解きます。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです

中国製半導体に吹く追い風は地方財政をも潤すのか

劇的な大逆転と言えるのだろうか。中国企業の存在感が、いま半導体市場で急速に高まっている。

コロナ禍で激化した米中の最先端技術をめぐる対立で、アメリカ側がこれまで最も力を入れてきたのが半導体の技術に絡む輸出規制であった。

高性能半導体へのアクセスを制限することで中国が先端技術へアプローチする道を断とうという試みだった。そして中国が独自の半導体生産に乗り出すと、今度はその生産に不可欠な技術から中国を遠ざけようと、あの手この手を講じてきた。

そうした攻防に一つの終止符が打たれようとしている──。そんなことを予感させる情報が世界を駆け巡っている。

アップルが動いた理由

口火を切ったのは英『フィナンシャル・タイムズ』(以下、FT)の6月27日の記事だ。タイトルは、「アップル、ブラックリスト登録された中国企業からのメモリチップ購入を模索」である。

米アップル社が、あろうことか、〈中国の長鑫存儲技術(CXMT)からメモリチップを購入するための許可を求めて、トランプ政権へのロビー活動を行っている〉という内容だった。

なぜ、アップルがアメリカ政府の警戒する中国から、あえて半導体を調達しようとしているのか。

前提となっているのはiPhoneやマックブックの製造に必要な半導体メモリの世界的品不足という問題だ。AIの普及にともない半導体メモリに対する需要が高まり、市場での品不足が顕在化、半導体メモリの価格を上昇させている。

今市場では、アップルがマックブックやiPhoneを値上げするのは時間の問題との観測が広がっている。値上げを見越して既存のiPhoneにニーズが広がり、価格を押し上げるという現象も起きている。

アップルが何とか大幅な値上げを避けたいと考えるのは、新製品の値上げ情報が広がると同時にアップルの株価が急落したことからも理解できる。

つまりアップルが「中国企業の半導体メモリの購入を模索」するのは、値上げを回避するための窮余の一策であり、ある種の「背に腹は代えられない」選択だったというわけだ。

7月8日にはFTが第2弾ともいうべき続報を打つ。記事の中で〈アップルは中国国内で販売するデバイス向けに、CXMTのDRAMチップのテストを開始した〉と報じた。
前回のロビー活動から約2週間、現在は具体的なテストの段階に入ったという。

今世界で起きている半導体メモリの不足という現実は、本来は警戒の対象である中国製半導体にまで門戸を開かなければならない深刻な問題だと理解できる。そして、こうしたアップルの動きは、実は氷山の一角でしかないのだ。

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世界第4の勢力への躍進

実際、ここにきて中国半導体メーカーの好調は数字にもはっきりと表れ始めた。

先述したCXMTに加え、中国には長江存儲科技(YMTC)という代表的半導体メモリのメーカーがある。

現在、2つの中国メーカーは世界市場で韓国のサムスン、SKハイニックス、そしてアメリカのマイクロンに次ぐ第4の勢力と位置付けられている。

半導体メモリは大別してDRAMとNANDに分かれるが、今年第1四半期のNANDの世界シェアはYMTCがシェアを13%にまで伸ばし、サムスン、SKハイニックスに次ぐ第三勢力として米マイクロンと肩を並べた。

YMTCの世界シェアは昨年同期比の8%から13%へと躍進した。

またDRAM市場ではCXMTがシェア8%で、やはり4番目につけた。ちなみにDRAM市場のシェアの内訳はサムスンが38%、SKハイニックスが29%、マイクロンが22%とトップスリーの強さが目立っている。

赤字続きからの鮮やかな逆転

注目すべきは、現在の半導体メモリの不足がCXMTの財務状況を激変させているという事実だ。

FTは記事の中で、〈同社の新規株式公開(IPO)目論見書によると、今年第1四半期の純利益は330億元(約48億ドル)に急増。これは、過去10年間に積み上げてきた370億元(約54億ドル)の累積赤字からの鮮やかな逆転劇〉だと表現している。

記事で「逆転」という言葉が使われたのは、CXMTが〈過去10年近くにわたり数10億ドルを燃やし尽くしてきた(=赤字を積み上げてきたという意味)〉ことがあるからだ。

アメリカから半導体を遮断されるという危機感から、同社には中国政府から巨額の補助金が投入されてきた。たとえ赤字を垂れ流しても国産半導体は維持しなければならなかったためだが、今それが巨額の利益を生む企業へと変貌しつつあるというのだから、確かに「大逆転」だ。

前述したように同社が準備しているIPOでは、同社を支援してきた地方政府である合肥市に〈1兆元以上の利益がもたらされることになり、それは同市の年間GDPにほぼ匹敵する額〉(同FT)だというから笑いが止まらないだろう。

もちろん現段階で本当にアップルが、CXMTやYMTCから半導体メモリを調達できるようになるか否かは定かではない。ただアップルがiPhoneを値上げすれば米経済への影響は小さくない。またアップルが中国製半導体に食指を伸ばさなければならないほど需給がひっ迫したメモリ市場では、中国製に対する追い風が吹き続けることはほぼ間違いないのだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年7月12日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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