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なぜ「スパコン社長」は逮捕されたのか?中島聡が恐れる巨大な闇

スーパーコンピュータの開発に携わっていたベンチャー企業「PEZY Computing」の社長・齋藤元章氏の逮捕は、世界中のIT業界や投資家たちに衝撃を与えました。これを受け、メルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者で世界的プログラマーの中島聡さんは、「ベンチャー企業が出資金を用途以外に使うことは日常茶飯事なのに、なぜ逮捕にまで至ったのか?」という疑問を呈し、その理由を考察しています。

「PEZY Computing」社長はなぜ逮捕されたのか?

ベンチャー企業「PEZY Computingの齋藤元章氏が助成金詐取容疑で東京地検特捜部に逮捕されたという情報が話題になっています(参照)。この手の事件があると、これまでもてはやしていたマスコミが手のひらを翻したように叩きに来るというのは、ホリエモンの時も小保方さんの時にもありましたが、まだ裁判で有罪判決が確定したわけでもない今の段階から批判するのはあまり良くないと思います。

この件に関しては、色々と複雑な思いがあります。

この事件の前から、「PEZY Computing」には注目していました。スーパーコンピュータを作るためにベンチャー企業が半導体から作ってしまうというのは簡単な話ではないし、その実績も素晴らしいからです。今後、その技術をディープ・ラーニングの高速化に活用できるのであれば、シリコンバレーの投資家が競って投資するユニコーン($1 billion 以上の企業価値を投資家から認められたベンチャー企業)になっても不思議はないと思っていました。

しかし、一方では「国からお金を引っ張って来るのが上手な企業だな」とも感じていました。国のお金(特にスパコン関連のお金)は、通産省との結びつきが強いNECや富士通などの大手 IT ゼネコンに流れるのが常な日本において、ベンチャー企業として国のお金を引っ張ってこれるというのは、(同じベンチャー企業の経営者として)とても羨ましく思えました。特別なコネでもあるのだろうとも想像していました。

創設者の齋藤元章氏に関しては、良い意味でも悪い意味でも「ちょっと変わった人だな」と感じていました。日本人には珍しい「出る杭」そのものである点は素晴らしく、これに関しては、非常に高く評価していました。少し問題があると感じていた点は、「AIの進化が老化や食料問題やエネルギー問題を解決するだろうと豪語している点です(参照:Exponential Computing | Motoaki Saito | SingularityU Japan Summit)。私自身も大風呂敷を広げてビジョンを語るのは好きな方ですが、技術的な根拠なしに広げ過ぎると逆に信頼されなくなります。あんなことを言わなければ、本気で投資対象として見ても良いと感じる投資家も多いだろうし、とても勿体無いと思っていました。

今回の逮捕に関しては、ものすごく違和感を覚えます。ベンチャー企業が投資家から集めたお金を本来の目的以外に使うなどは日常茶飯事で(会社の存続のために何としてでも運営資金を調達して来るのが CEO の役割です)、そこにまで投資家に口を出されては、市場の変化に応じた柔軟な経営が出来なくなります。PEZY Computingに出資していたNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は普通の投資家と違い、特定のプロジェクトに対して委託開発のような形でお金を出すために、今回のような問題になったのでしょうが、罰金ではなくいきなり逮捕というのはあまりにも不合理です。

唯一考えられるのは、東京地検の本来の目的は別の所にあり、まずは証拠隠滅の防止のために別件逮捕に踏み切ったという解釈です。これも私の「机上の推理」でしかないので、全くの的外れかも知れませんが、そうでなければ、おっかなくてNEDOからお金など集める人はいなくなるのではないかと思えるぐらいの事件です。

週刊誌あたりは、すでに色々と書き始めているようですが、もう少し確かな情報が出て来るまでは、先入観を持たずに見守りたいと思います。

image by: Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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