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トヨタも焦った。中国EVの「一人勝ち説」は本当か?

近い将来、ガソリン車の製造販売を禁止するとの方針を公表し、EVを普及させるためさまざまな優遇措置を次々打ち出している中国。このような政府の後押しなどもあり、中国のEV市場は将来有望との見方が大半ですが、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんは、「作っても売れない」と悩む中国EVメーカーの声を紹介するとともに、「今現在のようなバラマキ政策は長くは続かない」と冷静に指摘しています。

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年1月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め1月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。

【中国】太っ腹なバラマキでその気にさせて補助金打ち切り。「中国EV一人勝ち説」は本当か

EV開発 中国の本気

自動車業界は、数年前からEV(電気自動車)をめぐって大きく動いており、去年末、ついにトヨタも動き出しました。2030年までに電動車の生産台数を550万台にすると発表したのです。

現在のトヨタ自動車の世界での販売台数は約900万台であり、その約半数を2030年までには電動車にするというのです。この場合の電動車には、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)が含まれています。

そして、トヨタにこの決断をさせたのが中国だ、というのが日本の主な論調です。フランスとイギリスが、2040年までにガソリン車の販売を禁止させ、EVのみにすると公表し、インドは2030年までに国内でのガソリン車販売を禁止する方針を発表。これらを受け、中国も近い将来ガソリン車を禁止すると公表しました。

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中国政府は、EVを急速に普及させるために、EV生産業者に様々な優遇措置を設けて生産を促進しています。外資系メーカーには、これまで認められなかった3社目の合弁を解禁したり、出資規制を緩和する計画も表明しました。

一方で、メーカーに対して生産制限も設けるようです。以下、「プレジデント・オンライン」の報道を引用しましょう。

中国政府(工業情報化部)は2017年6月13日に、「乗用車企業燃料消費・新エネルギーポイント管理辧法(草案)」を発表した。この「ポイント管理」とは、乗用車を生産する企業は、一律に一定の比率の新エネルギー車を作らなければならず、新エネルギー車を生産しない場合、他社から枠を購入して比率を達成しなければならないという内容だ。注目すべき点は、新エネルギー車の占める比率(ポイント比率)が、2018年までに8%、2019年が10%、2020年を12%と設定されていることだ。

 

トヨタが中国でのEV戦略を転換した理由

こうして無理やりEVを作らせて世界のEV先進国になろうとしていることは明らかです。

生産者への特典ばかりではありません。購入者にも様々な特典があります。まず、新エネルギー車を購入した際は多額の補助金がもらえます。例えば、日本円で370万円ほどのEVを購入する際は、日本円にして最大で100万円余りが政府の補助金として支給されるため、購入者の負担は260万円ほどで済みます。

また、ガソリン車のナンバープレートは抽選で、3年挑戦し続けても当選しなかった人でも、EV車なら抽選なしで1カ月ですぐにもらえます。

さらに、ガソリン車は大気汚染のための乗車規制があり、ナンバーの下一桁で週一回、車に乗ってはいけない日が定められていますが、新エネルギー車にはそれがありません。乗り放題です。

そんな優遇策のおかげで、中国内にはEV車メーカーが群雄割拠状態です。その代表的な存在が深センに本拠を置く「BYD」です。もとはパソコンなどに使用する電池メーカーでした。

外資系自動車メーカーも中国のEV市場を狙って、次々と多額の投資を行っています。フォルクスワーゲン、ルノー日産、フォード、ゼネラル・モータースなど、世界の主な自動車メーカーはすべて中国市場を狙っています。中国のEV市場は政府の強烈な後押しもあり、将来有望な市場だという見方が大半です。

しかしその一方で、早くもEV関連の補助金が打ち切りになるとのニュースも流れてきています。

中国:EVなど新エネルギー車の地方補助金打ち切りを計画-関係者

「ウォールストリート・ジャーナル」によれば、少なくとも購入の際の補助金は2020年に打ち切られることが決定しているようです。

「作っても売れない」―悩む中国のEVメーカー

さらに、中国政府が大盤振る舞いをして中国のEV市場を世界にアピールしたことで、世界の自動車業界がその気になり、中国国内では速くもEV車が大量生産されており、去年の広州モーターショーではEV車の新モデルも多く発表されていました。そして今、中国のEVメーカーは「作っても売れない早くも悩んでいるというのです。

世界の名だたる自動車メーカーが、中国でEVを生産しようと巨額の投資をしている真っ最中に、中国のEVメーカーが「作っても売れない」と嘆いているのです。以下、「ウォールストリート・ジャーナル」の記事を引用しましょう。

それでも、自動車メーカーは取り組みを加速させている。米フォード・モーターは先週、中国に7億5,600万ドル(約850億円)を投じてEV新工場を建設すると発表した。米テスラは上海にEV工場を建設する計画だ。

 

確かに、政府の政策である程度の需要は保証される。広州など交通量の多い都市では、ガソリン車用の新規ナンバープレートは厳しく制限されているためEVの魅力が増している。当面は多額の補助金も利用できる。例えば「宝駿 E100」の購入時に消費者が支払うのは5,400ドル(約60万円)だけ。米ゼネラル・モーターズ(GM)と上海汽車集団(SAICモーター)の合弁会社には政府からさらに8,760ドルが支払われる。

 

フィッチ・レーティングスの副ディレクターを務める楊菁氏は、電池などEVに不可欠な部品の原価は下がっているが、補助金が打ち切られれば多くのメーカーはEVで利益を上げるのが不可能になると指摘。メーカーは「市場シェアのために目先の採算を犠牲にする」か、単にEV事業からの撤退を余儀なくされるとの見方を示した。

 

一部の中国自動車メーカーの業績は好調だ。だがEVの先駆者である比亜迪(BYD)と北京汽車工業(BAICモーター)の1~9月の販売台数はそれぞれ19%減、26%減となった。両社は中国EV市場で合わせて半分近くのシェアを占めており、EVに傾注し過ぎたことが災いしたとアナリストらはみている。

 

「作っても売れない」― 悩む中国のEVメーカー

中国のその場しのぎの政策に、自動車業界も振り回されています。ここ数年、習近平が世界での存在感をアピールするために、世界各国を回っては支援金を大盤振る舞いし、ボーイング社の飛行機を28兆円も買ったり、支援金をばらまいたりしました。また、インドネシアでの新幹線の受注にも成功しました。しかし、新幹線は完成することなく放ったらかされています。

自動車業界で存在感を示すために、各国の自動車メーカーが競って開発しているEVを利用して、メーカーにも消費者にも補助金を出して中国市場を拡大し、EV市場で世界一となりたい気持ちはわかりますが、バラマキ政策は長くは続きません

結果的には国内を混乱させ技術をムダにしてしまうだけです。世界は、中国政府のこうした短絡的な思いつき政策に振り回されないよう警戒する必要があるでしょう。

一個人のビヘイビアから社会の慣行に至るまでを見ると、中国人に関しては少なくとも次の3つのことを知っておく必要があります。

ひとつは朝令暮改の国だということ。それは中国の振り子とも言われ、政策や決定は簡単に変更されます。もう一つは責任転嫁。うまくいかないことはすべて他人のせいにします。最後は他力本願。できればすべて他人に頼りたい、果報は寝て待てという算段です。改革開放の初期は、いかにして外資を導入し、中国の発展に寄与させるかが最重要課題でした。

改革開放後、中国に新境地を求めた外資がどっと押し寄せてきたことがありましたが、政策は頻繁に変わるしトラブルも多く、ついには合弁相手である中国企業にすべてを乗っ取られて退散するというケースも少なくありませんでした。中国は人治国家で法治国家ではないのです。

日本の対中投資も対中輸出もGDPの約3%程度しかありません。そのため、たとえすべてのビジネスが水泡に帰しても、国家が破綻するまでには至りません。一方で、台湾の対中投資はGDPの約50%にものぼり、「産業の空洞化」現象まで引き起こすほどです。

世界のいかなる国も、中国は人類最後にして最大の市場という「説」に惑わされて、対中投資に夢中になりますが、うまくいったケースは少数です。外資のやり方を見た中国企業が、このぐらいなら自分でもできるとわかると、技術だけでなく、会社も資金も全部乗っ取られてしまうのです。

中国の経済を見ると、これからは徐々に債務国に転落していくとの予測がされています。バラマキ外交も限界です。中国市場に進出したい企業は、中国は朝令暮改の国であり、いかなる政策があっても簡単にはそれに乗ってしまわないよう注意する必要があります。

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image by: J. Lekavicius / Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2018年1月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実』(2018年1月16日号)より一部抜粋

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