いよいよ目前に迫った米朝首脳会談。そんな国際情勢の中、日本では「蚊帳の外」「バスに乗り遅れるな」というフレーズが飛び交い、世界の動きから取り残された日本を揶揄するかのような表現です。メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、この言葉が使われるようになった経緯を紹介しつつ、過去にこの言葉をスローガンに他国の後追いをし、失敗を繰り返してきた日本の姿勢を今こそ糺すべきだと厳しく論じています。
気になる「バスに乗り遅れるな」というフレーズ
気になるのです。実に気になる。
なにがと言えば、急転直下決まった米朝首脳会談などの動きについて、「置き去り」「蚊帳の外」「バスに乗り遅れるな」という言葉が飛び交っているからです。
主語は「日本」です。
米朝のほか、韓国、中国、そしてロシアまでが関わる中で事態が動いているというのに、日本だけは関係のないポジションを取ったままでいてよいのか、それで拉致問題の解決はあるのか、仲間はずれにされているのではないのかという、焦り丸出しの表現です。
このうち気になるのは、「バスに乗り遅れるな」というフレーズです。
世界恐慌の余波がまだ収まらない1930年代なかば頃、ソ連が進める社会主義とドイツ、イタリアで勃興した国家社会主義だけが不況脱出に成功しているかのように受け止められ、日本でも同様の全体主義的な「新体制」を求める声があがりました。
そして、「いま参加しなければ間に合わない」「取り残される」と政治の背中を押すスローガンとして使われたのが「バスに乗り遅れるな」でした。それが日独伊三国同盟への道を開く結果となり、日本が敗戦への歩みを加速したのはご存じの通りです。
その反省もないままに、「バスに乗り遅れるな」は性懲りもなく使われ続けてきました。
1990年夏の湾岸危機の時も、根拠法の整備すら未着手なのを忘れて、「早く自衛隊を出さなければ米国に同盟関係を破棄される」といった言辞が、それも外務官僚の口から繰り返し発せられたものです。
2015年の前半には、中国が設立を宣言したアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加の是非をめぐり、「バスに乗り遅れるな」を連発したマスコミもありました。
そこで不思議に思うのです。
どうして日本人は他国の後追いばかりに狂奔するのだろうかと。
自分たちから始めることが苦手だとしても、動き始めた事柄に国益をかけて当事者として関わり、望ましくないと思えばやめるという主体的な考え方があれば、慌てふためく必要などないはずです。
日米同盟にしても、米国にとってもっとも双務的な同盟国は日本であり、日本なしには世界のリーダーたり得ないことを知っていれば、日本の平和主義に沿う形で米国を動かし、当事者として朝鮮半島の平和の実現に臨むことができるはずです。
そのように行動する日本を、北朝鮮も中国も軽んじるはずがありません。
おのれの姿を客観視できず、周りの動きにばかり目を奪われる日本とは、そろそろおさらばしたいものですが、なにから手をつければよいでしょうか。(小川和久)