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重要なのは対中戦略。北方領土「2島先行返還」が大正解な理由

「日ソ平和条約交渉加速のために北方領土2島先行返還」という、賛否を呼んだ安倍首相の新戦略ですが、日本にとって「正解」なのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、日ソ友好化の流れが、日本と領土問題を抱える中国対抗策として優れる点を、過去の大戦で大敗した日本や、勝利したアメリカ、中国それぞれの戦略事例をあげて詳しく解説しています。

2島先行返還の【戦略的】意義

前回の「70年続く北方領土問題を2島だけ返還で終結させたいロシアの本音」では、安倍総理が14日、驚くべき発言をされたことに触れました。その発言とはこちら。

「そして1956(昭和31)年、(日ソ)共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。本日そのことでプーチン大統領と合意いたしました。

「日ソ共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる」ことで、「プーチンと合意した」そうです。「日ソ共同宣言」とはなんぞや????一言でいえば、「平和条約締結後に歯舞色丹島を返す」という宣言です。両国で批准されていて、法的効力があります。

安倍総理のこの発言がなぜ「驚き」なのでしょうか?そう、日本の立場はこれまで、「4島一括返還」だった。日ソ共同宣言は、「4島返還に言及していない。「2島返還」なのです。これ、日本側は2島先行返還」といいます。つまり、「先に2島を返してもらい、後で残りの2島を返してもらう」。一方ロシア側は、「2島返還で終わり」という立場。

これ、予想通り、たくさんの批判がでています。当たり前ですね。しかし、私自身は【戦略的】に、安倍総理の決断を支持しています。どういうこと?

戦略のない日本

「戦略」は、「戦争に勝つ方法」という意味です。「戦術」は、「具体的な戦闘に勝つ方法」という意味です。

皆さんご存知のように、日本軍は個別の戦闘では連戦連勝だった。ところが、大戦略がなかったので、結局敗れました。「大戦略がない」とはどういうこと?海軍は、「アメリカが日本の敵だ!」と主張。陸軍は、「ソ連が日本の敵だ!」と主張。これ、どっちかにしないとダメでしょう?両方敵にまわしたら勝てるはずがありません

その点賢明なアメリカ。この国には、主要な敵が2国ありました。ナチスドイツとソ連です。アメリカは、まずソ連と組んでドイツをつぶした。その後、かつての敵だったドイツ、日本、さらに中国と組んでソ連をつぶしたのです。

私は自虐史観の持ち主ではありませんが、「事実として」アメリカは戦略面で日本よりすぐれています

今の日本がおかれている立場

日本には戦略が必要です。

「戦争に勝つ方法」

ところで、日本は、どこかの国と戦争をしているのでしょうか(もちろん、「戦闘」という意味ではありません)?しています。日本は、2012年11月から中国と戦争状態なのです。なぜ?

2008年、リーマンショックから、アメリカ発「100年に一度の経済危機」が起こります。アメリカは沈み、中国は浮上した。中国は、「アメリカは大いに沈み、わが国が国益を追求しても、手出しできないだろう」と思った。それで起こったのが2010年の「尖閣中国漁船衝突事件」。この後、中国は全世界にむけて、「尖閣はわが国固有の領土であり、核心的利益である!」と宣言しました。

2012年9月、日本は尖閣を国有化した。これで、日中関係は、「戦後最悪」になってしまいます。2012年11月、中国はロシア韓国に反日統一共同戦線戦略」を提案します。皆さん、もう暗記しておられますね。その骨子は、

全日本国民必読!絶対完全証拠はこちら。

反日統一共同戦線を呼びかける中国

中国の戦略を簡単にいえば、

です。

1937年に日中戦争がはじまった。中国は、アメリカ、イギリス、ソ連から支援を受けていた。つまりこの戦争は、事実上、

の戦いだった。こんなもん勝てるわけがないでしょう?中国は今回

日本を破滅させようとしているのです。これが、ここ6年間日本が置かれている状況です。この重大事を99.9%の日本人は知らず、モリカケ問題などで騒ぎながら、時を過ごしてきた。しかし、幸い安倍総理と側近の皆さんは、中国の戦略を知っているようです。

日本の対中戦略は?

中国の戦略がわかれば、日本は戦略をたてることができます。中国は、

が戦略ですね。ですから日本の戦略の基本は

となります。そして、安倍総理はそうされてきた。2015年4月の「希望の同盟演説」で日米関係はとても良くなった。トランプさんともいい関係を維持している。2015年12月の「慰安婦合意」で日韓関係はよくなった。2016年12月のプーチン訪問で、日ロ関係は劇的に改善された。安倍総理は、中国の戦略をいったん無力化することに成功しました。しかし、戦いはまだつづいているのです。

これは、大戦略の基本であって、中国の体制が変わるまでブレるべきではありません。この中で、一番「無理!」と思うのは、韓国でしょう。最近も、

など、日本への挑発がつづいています。私もこういうニュースを聞くたび、胃がキリキリ痛む。それでも、中国に勝ちたければ、韓国との関係も良好にたもたなければならない。もちろん、徴用工問題や慰安婦問題で妥協する必要などありません。それでも、怒りを抑えて冷静でなければならない。私たちは、何をやっているか知っておく必要がある。私たちが韓国に激怒するときニッコリ微笑むのは習近平なのです。

ロシアとの関係改善がなぜ必要か?

世界には、3つの大国があります。アメリカ、中国、ロシアです。この中で中国は、「アメリカ、ロシアを味方につけて日本を破滅させよう!」としている。そこで日本も、「アメリカとロシアを味方につけて中国に対抗しよう」というのが、基本的な戦略になる。それで、ロシアとの関係改善が不可欠なのです。

ところが日ロ関係はとても悪かった。まず、日本は、クリミア問題でロシアに制裁している。経済の話ができなくなった。それで、日本政府高官は、訪ロするたび、「島返せ!」としかいわなくなった。ロシア側は非常に立腹していました。

しかし安倍総理は、「経済協力を進めることで関係を改善していこう」という路線に転換した(制裁で、簡単ではないにしろ)。それで、日ロ関係は急速に改善されていきました。

日本は、アメリカ、ロシアと仲がいい。中国の立場が軟化してきたのは、これが理由です。今年、米中貿易戦争がはじまり、中国の態度はさらに融和的になりました。これは、日本の戦略勝ちですが、中国に関しては、「戦は詭道(ウソ)なり」なので、一瞬も油断できないのです。

2島先行返還の戦略的意義

日本は、12年11月から中国と戦争状態にある。それで、すべての事象は、【戦略的】にみる必があります。

安倍総理は、「日ソ共同宣言を交渉の基礎として平和条約締結を目指す」といっている。これは、「平和条約を締結した後2島を返してもらう」という意味。実現すれば、日ロの戦争状態は集結し、両国関係は大きく改善するでしょう。日ロの関係がいい。これが対中国で最重要です。

ここまで話を聞かれて、「北野さんは、28年モスクワに住んでいたからこんなことをいうのではないですか???」と疑問をもつ人もいるかもしれません。そうではありません。日米ロで組んで、中国に対抗するという戦略は、リアリズム神ミアシャイマーさんも、世界最強の戦略家ルトワックさんも主張しています。証拠に、ルトワックさんの言葉を引用しておきましょう。ルトワックは、その著書『自滅する中国』の中で、日本がサバイバルできるかどうかはロシアとの関係にかかっていると断言しています。

もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。

今回は、「2島先行返還」の「戦略的意義」でした。

image by: 首相官邸

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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