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なぜ人は「〇〇すると『必ず』××が起こる」表現を使うのか?

そんな筈ないとわかっていても「俺(私)が〇〇すると『必ず』××が起こる」という言い回しを使ってしまいませんか?「××」の部分はよくないことが多いのは、ある種の「戒め効果」だと考えるのは、メルマガ『8人ばなし』の著者・山崎勝義さんです。そして無関係であっても、「凶事の前に必ず起こること」として多くの人に共有されると、それは「フラグ」と呼ばれるものになり、そこから将来「夜に爪を切る」と同様の表現が生まれていくと説いています。

『必ず』のこと

こんなフレーズをよく耳にする。「俺が外出する時は、必ず雨が降る」。誰かがあることをすれば、必ず悪い結果となる、というのである。

普通に考えさえすればこのようなことはあり得る筈がないとすぐ分かる。ところが、こういった類の言い回しが我々の日常会話の中に極々自然に存在していることもまた紛れもない事実である。

仮に、現実に即して先のフレーズを言い改めるなら、大凡、「俺が外出する時は、雨が降ることもあれば、降らないこともある訳だが、どうも雨の日が多い気がして仕方がない」といったところであろう。

にもかかわらず、どうしても「必ず」と言いたくなる心理は一体どういうものなのだろうか。そして、その「必ず」の後には決まって悪い結果がついて来るというのはどういうことなのだろうか。

人間は――まことに勝手なことだが――どうやら負の記憶の方が強く印象に残るようなのである。幸より不幸、成功より失敗、無事より被害といった感じである。実に執念深いと言うか、被害妄想的である。

こういった負の経験と記憶の結び付きが、何の確率的根拠もないままに、ある種人間の当たり前になってしまっているのにはそれなりの理由がある様に思われる。おそらく、それは「過ちは繰り返さない」という自発的戒め効果のようなものであろう。

しかしながら、悔いて何とかなるような事ならともかく、例えば冒頭フレーズの「雨」の類に至っては自分では如何ともしがたい自然現象であるため、この戒め効果も意味はない。本来、自己を戒めるという目的が拡大援用され、自責の念と後悔と損が自分にとって負の感情を喚起させるという、まことに自己本位的な共通点から一緒くたにされた結果である。

今、このような「必ず」的論法に新しいアイデアが移入され、新概念として一般に定着しつつある。所謂「フラグ」である。このフラグという概念は実に興味深い。というのも、それ自体(つまりは、ある特定の状況下における、特定の人物による、特定の言動)には吉凶の別がないにもかかわらず、「必ず」や吉事か凶事(特に凶事)を招来するものとして認定されているからである。その典型例としては「死亡フラグ」などがそうである。

しかもその認定過程がちょっと面白い。まず、第一に先行コンテンツ(ゲーム、アニメ、映画、ドラマ等)がある。その劇中の登場人物がある状況下において、特定の言動の後、死んでしまう。これを、死んでしまったのはあの状況下でのあの言動が原因である、と因果を逆に遡ってフラグ認定候補とするのである。しかし、それだけでは不十分で、この因果関係が多くのユーザー、視聴者、鑑賞者によって「ある、ある」「ありそう」「ありがち」といった具合に共感を得なければならない。こういった集団共感を得て初めてフラグ認定となるのである。

ひょっとしたら、これらのフラグも何十年かすれば、今で言う縁起が悪いこと、例えば「夜に爪を切る」だとか「畳の縁を踏む」のようにレトリックの一つとして堂々と日本語表現の一角を占めるようになっているかもしれない。

その時、その起源に思いを馳せれば「如何にも21世紀の日本っぽいな」と誰もが感じざるを得ないのではないだろうか。

image by: shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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【著者】 山崎勝義 【月額】 ¥220/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

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