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もはや失望感しかない、安倍首相「桜名簿」シュレッダー本音答弁

NYタイムズワシントンポストなど海外でも報じられている「桜を見る会」の出席者名簿の破棄問題。安倍首相がシュレッダー担当の障がい者雇用の職員による事情であるかのように答弁したことに関し、「やはり」と失望の思いを表明するのは、メルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者で、さまざまな福祉活動に関わるジャーナリストの引地達也さんです。引地さんは、不必要な部分に属性を持ち出すのは、「差別に近い感覚」だと指摘し、マスコミにも見られるこの国の「常識」に異を唱えます。

安倍首相の「障がい者雇用」答弁に大きな失望

悲しいかな、安倍晋三首相の障がい者雇用に対する本音を見せられ、「やはり」という感覚は、政府全体やこの国の「常識」に対する失望感にもつながってくる。それは「桜を見る会」に関し国会で飛び出した「障害者雇用」答弁である。

同会の招待者名簿を内閣府が野党議員から資料請求を受けた1時間後にシュレッター廃棄を決めたことについて安倍首相は12月2日の参院本会議で「シュレッダー空き状況や、担当である障害者雇用の短時間勤務時職員の勤務時間などとの調整を行った結果、使用予定日が5月9日となった」と答弁書を読み上げる形で堂々と示されたのである。

政府側で練られた原稿に「障害者雇用」を使うからには、それなりの理由があるはずで、それは政府側の本音とすれば「障害者雇用の職員を配慮した結果」を強調し、免罪符にでもしたかったのだろうか。しかし、それは全く的外れの差別に近い感覚だと言いたい。

この答弁から「障害者雇用」を省いたとしても、説明は成り立つのになぜ「障害者雇用」を入れたのだろうか。この表現された文脈を社会はどのように受け取るか、想像してみただろうか。

もちろん、障害者雇用に関しては、その障害に応じての配慮が必要ではあるが、それは男女がいる社会に男女のトイレがほぼ平等に配置されているのと同じ配慮であり、殊更強調する必要はないはずだが、それを口にしてしまうメンタリティに向かうべき社会の認識とのギャップを感じてしまう。

特に障害者雇用を推進し、基本的には当事者の立場で日々考え、時には受け入れ側の企業と一緒に悩む立場からすると、その配慮で悩む部分があれば、それは企業内の人事案件や教育案件の一環であり業務の一部でもある。

企業が外部からクレームを受けても「障害者雇用であるから」という説明は成り立たないと知っているのが民間の立場。だから属性は関係ないのである。

れいわ新選組の舩後靖彦・参議院議員は「障害者雇用のために破棄に時間がかかった理由のように語られるのは不適切であり、非常勤職員の弱い立場を利用したとも受け止められる内容と感じるので、残念に思う」とのコメントを発表した。 もっと言えば、障害者雇用だけではなく、非常勤職員への責任の押し付け、ともなる。経緯を説明したにせよ、一国の首相がおそらくその業務にあたった1人か2人の障害者雇用の職員をさらすように引用する感覚が、私にはわからない。

この指摘は障害者雇用のスタンスとしてどんな政府であったも是正してもらいたいからだと理解してもらいたい。政権の揚げ足を取る行為のように思われるのも悲しい。普遍的な当事者の視点では、米国の伝統的な障害者団体イースター・シールズが示すガイドラインがある。

“Omit mention of an individual’s disability unless it is pertinent to the story.”「(記事の)ストーリーに関係のない場合、個々の障害についての言及は省略する」。これは報道向けではあるが、首相の答弁も同様で今回の「桜を見る会」の問題のシュレッダー処理の文脈の中で、職員の属性はまったく関係ないだろう。

言ったことはしょうがないから、やはり認識をあらためてほしいと思う。そうでなければ、ダイバーシティとか、インクルージョンを唱えている政策がすべて嘘に受け止められてしまう。そして、先ほどの報道のガイドラインから考えれば、もう少し私たちは属性を気にせずに自由に交流しあう方向に行ってもよいのではと思う。

先ほどの舩後議員の記事で、朝日新聞は「筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者で重い障害を持つ」という形容詞を付けていたが、彼は前回の参議院議員選挙で当選した1人の国会議員である。それぞれのバックグラウンドはその人の行動原理にはなるだろうが、それは「必要に応じて」説明すればよい話で、記事の冒頭から舩後議員を説明することは、熟慮が必要だ。インクルーシブな社会に向けて首相も政府も報道も、そして私自身も自らの行動と認識を顧みながら進めていかなければならないと思う。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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