香港への国家安全維持法導入により中国が払う代償は、予想以上に大きなものとなりそうです。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、米国が定めた香港自治法により中国がドル基軸体制から締め出される可能性を示唆。その事態が現実となった日には、「中国は死を迎えるしかない」と断言しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2020年8月19日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
【中国】ドル経済圏から追放される中国の焦り
● 焦点:「鉄のカーテン」再びか、ドル圏から締め出し恐れる中国
新型コロナ以後、アメリカは中国通信大手のファーウェイや監視カメラメーカーのハイクビジョンなど、中国企業を国際市場からの締め出す動きを加速させ、さらには動画投稿のTikTokやメッセージ交換のウィーチャットなど中国製アプリを使用禁止する方針を打ち出し、中国への攻撃を強めています。
そして、今度は、基軸通貨ドルを中心とする国際通貨システムから中国が締め出される可能性が高まりつつあります。
ロイターの記事によれば、「中国がドル決済の枠組みから遮断されたり、米政府が中国の膨大なドル建て資産の一部を凍結ないし差し押さえたりするような最悪シナリオが、中国の当局者やエコノミストの間でここ数カ月、公然と論じられるという異例の光景が見られるようになった」といいます。
アメリカは7月14日、香港自治法を成立させました。これは、中国が香港に国家安全維持法を強制的に施行したことを受けたもので、香港の自由や自治を侵害した個人や団体に対して、ドル資産凍結などの制裁を課すことができるというものです。そして、その個人や団体と取引がある金融機関も、アメリカの制裁対象になります。
いうまでもなく、国家安全維持法の施行にかかわったのは中国共産党の幹部たちであり、とくにアメリカ共和党は制裁対象として、中国共産党・最高指導部の韓正副首相(香港担当)らを視野に入れているとされています。
こうした中国共産党幹部らを制裁対象に指定した場合、彼らと取引している銀行も、アメリカから制裁対象とみなされるということです。中国共産党の最高幹部が指定されたら、ほとんどの中国の銀行がアウトになるのは必然でしょう。たとえば、彼らの給与振り込みを扱っている銀行などが制裁対象になるわけです。
香港自治法で定められている具体的な制裁手法としては、
- 米銀による融資の禁止
- 外貨取引の禁止
- 貿易決済の禁止
- 米国内の資産凍結
- 米国からの投融資の制限
- 米国からの物品輸出の制限
などの8項目です。つまり、制裁対象に指定された中国の人物や団体も、それらと取引する中国の銀行も、アメリカでの資産が凍結され、さらにはドル決済が一切できなくなるということです。
中国には中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行という4つのメガバンクがあります。記事によればこの4大銀行が保有するドル資金は1兆1,000億ドル(約118兆円)という巨額なものです。
4大銀行がドル決済できなくなれば、これらのドル資金は何の意味もなくなります。また、ドルを調達することも不可能になるため、中国企業が海外でドル建てで借りた借入金も返済不可能になり、デフォルト危機に陥ることになります。
ドル決済から排除されることを懸念して、中国では人民元の国際化を急いでいます。国際貿易をドル決済ではなく、人民元決済にすることで、ドル経済圏から脱して、人民元経済圏を新たに築こうとしているわけです。
● 中国銀、米制裁に備えて人民元決済システムへ移行を=報告書
2016年10月、中国の人民元がIMFのSDR(特別引き出し権)の構成通貨になりました。中国は人民元を国際通貨にするために、SDRの構成通貨になることを強力に推し進めてきた結果です。
しかし、こうして国際通貨となった人民元ですが、世界での決済シェアは2%程度しかありません。2019年8月時点で2.22%で、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円に次ぐ5位です。日本円よりも決済シェアが低いのです。
そのため、中国はデジタル人民元を発行し、もっと使い勝手を良くして国際的な決済シェアの拡大を目論んでいます。
とはいえ、中国はこれまで厳しい資本移動の規制を行ってきました。海外への外貨持ち出しが制限され、そのために中国人による「爆買い」も沈静化したわけです。そうした資本移動の規制が、人民元の普及を遅らせてきたのもたしかです。
資本移動を自由にすると、中国からキャピタルフライトが起こる可能性が高く、そうなれば人民元の価値は暴落します。経済的な統制が取れなくなることが、中国共産党がもっとも恐れることです。
民意によって選ばれたわけではない中国共産党の一党独裁に、正当性を与えるのが「絶対無謬性」です。中国共産党は絶対に間違えない。だから中国の憲法前文には「国家は党の指導を仰ぐ」とされており、最高法規よりも中国共産党の指導のほうが上なのです。
その中国共産党の無謬性が揺らぐとなると、一党独裁の正当性を失うことになります。だから中国共産党にとって、資本移動の自由は絶対に認められず、いつまでも統制経済を続けなくてはならないわけです。
加えて、デジタル人民元についてですが、ファーウェイやTikTokでも問題になったように、すべての情報が中国共産党に握られる危険性があるため、どこまで導入する国が増えるかという疑問もあります。
インドなどは、多くの中国製アプリを使用禁止にしました。国家の安全保障にかかわる問題だからです。デジタル人民元を使用することで、中国にさまざまな機密情報が流れてしまう可能性が否定できません。そうなれば、中国に弱みを握られ、意のままに操られてしまう危険性も否定できないでしょう。
● インド、中国製アプリ使用禁止をTikTok以外にも対象拡大
そもそも通貨というものは、国家の信用力によって成り立つものです。イギリスとの国際公約を破って香港の「一国二制度」を実質的に破棄した中国が発行するデジタル人民元に、どれだけの信用力があるというのでしょうか。
2015年6月から始まった中国の株式大暴落では、中国政府は大株主が株を売却することを禁止し、違反者は逮捕すると脅しました。これは資本主義国では考えられないような措置ですが、これも共産党支配の正当性を守るためです。中国共産党の一党独裁体制を守るためには、何でもするというのが、中国なのです。
だから、中国共産党にとって不利な事態になるようなことがあれば、100%間違いなく、市場原理などは無視して、なりふり構わずさまざまな規制をかけてきます。それはデジタル人民元にしても同じです。現在の中国においては、中国共産党の存続こそが最大の目的だからです。
ドル経済圏から中国が排除されれば、人民元は再びローカルカレンシーに後戻りです。基軸通貨のドルと交換できなくなれば暴落するしかなく、中国国内の外資は逃げ、他国との貿易も大幅に縮小せざるをえなくなります。そういう時代がもう目の前に迫っているのです。
昔の周人は黄土高原のステップ(草原)地帯にたどり着いた時点から、資源と居住環境問題に直面しましたが、それはここ数千年来、ほとんど変わっていません。
今では毛沢東時代の「自力更生」の時代とはまったく異なり、ヒトからモノ、カネまですべてが他力本願の時代になっています。現在の中国最大の弱みは、他力本願以外には、存立不可能だということです。
そのような中国が、ドル基軸体制から切り離されれば、それは経済的にも中国共産党としても、死を迎えるしかないということになるのです。
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