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同意も制限もなし?個人情報を守る気などないデジタル改革関連法案

デジタル庁設置や個人情報保護法改正案を盛り込んだ「デジタル改革関連法案」は、約27時間半の審議だけで衆院を通過。現在は参院で審議が始まっています。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、著者でジャーナリストの内田誠さんが、関連法案の中でも特に、個人情報保護法の改正について、問題点を指摘。同意もなく、厳格な要件もない「相当な理由」で目的外でも個人情報が利用される恐れがあり、わずかな審議で成立させていい法律ではないと不安を表明しています。

参院で審議が始まったデジタル改革関連法案について新聞はどう報じてきたか?

きょうは《毎日》から。5面に参院で審議が始まったデジタル改革関連法案についての記事が載っています。試しに《東京》のサイトで検索を掛けると、「デジタル」「法案」「目的外利用」で7件ヒットしました。うち2件はサムネイルを拾ってきていただけでしたので、実質5件となります。これらを対象に見ていきます。まずは《毎日》5面の記事の見出しと【セブンNEWS】第6項目の再掲から。

デジタル法案 個人情報に懸念
目的外利用 なお曖昧
参院審議入り

デジタル庁設置や個人情報保護法改正案を盛り込んだデジタル改革関連法案が参院本会議で審議入り。政府・与党は看板政策の早期成立を急ぐが、野党は「本人の同意がないまま個人情報が目的外に使われるおそれがある」などと反発。慎重審議を求める声も。

以下、記事内容の概略。立憲民主党の杉尾秀哉議員は「デジタル庁が集約した個人情報が、内閣情報調査室を通じて官邸に吸い取られるのではないか」と質したのに対し、菅首相は「内閣情報調査室に新たな権限を付与するものではない」と反論。杉尾氏はさらに、個人情報の目的外利用・提供について、「相当な理由」などの要件の厳格化が必要だと指摘したが、平井デジタル改革相は「「相当な理由」は、個人情報(の目的外利活用)の有用性が個人の権利・利益の保護の必要性を上回ると考える時のみ認められる」と答弁。

個人情報保護に詳しい三宅弘弁護士は「利用や提供に対する縛りが厳格化されなければ、本人の同意がないまま、政府による個人情報の目的外利用・提供が拡大する恐れがある」と指摘。「官邸に自治体などの個人情報が吸い上げられ、国が住民を監視する『デジタル監視法案』になりかねない」と。

●uttiiの眼

木で鼻を括ったような答弁の様子を見ると、この法案は、民間と行政機関、地方自治体でバラバラだった個人情報保護制度を一元化し、その間の情報のやり取りを容易にすることを通して、最終的には政府が個人情報を一元管理し、「必要」に応じて自ら利用し、あるいは民間に利用させることを可能にしようというものだということが感じ取れる。

最初から個人情報保護の観点とは真逆の方向での「改革」だということだ。国会で十分議論すべきは、そのような個人情報管理制度のなかでも、個人の情報が当人の同意のないまま独り歩きすることをどうやって防ぐかという点に注がれなければならないはずだ。政府・与党は多数にものを言わせ、とにかく成立させてしまおうという狙いが透けて見えるような気がする。

【サーチ&リサーチ】

*先月末の記事から始まるが、それ以降は4月2日付、3日付、そして今日付けの、実質合計4本。

2021年3月30日付
政府がまだ4月中の成立を目指していた時期の解説記事。法案全体をまとめた分かりやすい説明がなされている。

「法案の柱は、政府のデジタル施策の総合調整を担うデジタル庁の9月新設。同庁は首相がトップを務め、国のデジタル政策の予算分配などの権限が集中する。ばらばらになっている各府省や自治体の情報システムも統一・標準化する。民間、行政機関、独立行政法人の3つに分かれている個人情報保護法も統合。条例で個別に定める自治体の個人情報保護制度も共通のルールに改められる」

*個人情報を収集・管理する方式は統合されても、情報自体にアクセスできるのは所管の省庁や自治体だけであり、デジタル庁の職員が見ることはできないというのが政府の説明。しかし…。

「個人情報保護法の改正案では「業務の遂行に必要で相当な理由のあるとき」は本人の同意なしで個人情報の目的外使用や提供をすることを行政機関に認めている。統合される行政機関個人情報保護法に以前からある条文だ」と。

*要は「業務の遂行に必要で相当な理由」があれば、アクセスした上で、目的外の「利用・提供」ができることになっている。具体的には、個々人の病歴や所得、資産など、自治体が持っている情報を「一元化」で政府が吸い出し、利用することができるわけで、本来、様々条件付けた上でなければ、許されないこと。

2021年4月2日付
衆院内閣委で可決。「5法案・63本を一括して扱いながら、審議時間は約27時間半。本人の同意なく個人情報が政府に集約される懸念は残る」と。

2021年4月3日付
衆院内閣委での拙速採決に野党などが抗議。さらにこの記事には中心となる5法案の名前が記されている。

「5法案」とは、「デジタル社会形成基本法案」「デジタル庁設置法案」「デジタル社会形成関係整備法案」「預貯金口座登録法案」「預貯金口座管理法案」の5本。さらに「地方公共団体情報システム標準化法案」は今後審議入りする(この法案だけ6日に衆院総務委員会に付託)と。5法案のうち後の3本には、マイナンバーを国家資格や口座にひも付け、マイナポータルから口座登録を可能にする内容を含む。

●uttiiの眼

バブル経済の頃、あるフリーの「不動産業者」を取材したことがあった。電話1本で富裕層に別荘などを売る商売だったが、そんなことが可能だったのは、大枚を払って手に入れた様々な名簿を掛け合わせ、営業を掛ける相手先のリストを作り上げていたからだった。資産があって、別荘を買ってくれそうな対象者がリストアップされていれば、あとは電話を掛けるだけ。使われた「リスト」は“美味しいカモのリスト”として、さらに他の業者に高値で転売されていく。

デジタル改革関連法案が成立すれば、津々浦々の個々人の病歴や資産状況のデータにクエリー(データベースに対する要求)を掛け、あの不動産業者が苦労して手に入れていたようなリストを、たちどころに何種類も作ることが可能になる。情報は、「カネのなる木」そのものと言って良いだろう。もちろん、行政機関、とくに警察は、こうした情報へのアクセスに大きな魅力を感じるだろう。とてもではないが、チャチャっと通して良い法案ではない。

image by:show999 / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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