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プーチンに弄ばれ、習近平に差を広げられ、ネタニヤフから顔に泥を塗られた“口だけトランプ”。裸の王様が退潮させた米国の存在感と影響力

トランプ大統領の再登板で幕を開けた2025年。ウクライナやガザでの「暴力」が止むこともなく、国際秩序の不安定化が加速するばかりの1年となってしまいました。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、トランプ政権下で露呈した調停外交の構造的欠陥を詳細に分析。さらに米国のプレゼンス低下と中国やロシアの影響力拡大がもたらす世界の行方を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:“トランプ旋風が吹き荒れた2025年‐混乱と変化が入り混じった国際情勢の現状とこれから

吹き荒れた「トランプ旋風」。混乱と変化が入り混じった2025年の国際情勢

いろいろなことが起き、混乱が広まった2025年。今年はいろいろな意味で【トランプyear】だったのではないかと思います。

1月に大統領に返り咲き、その後、相互関税を武器に世界秩序の改編を試みてみたり、前回の大統領時よりも欧州との距離をとってみたり…。Pro-TrumpとAnti-Trumpのふるい分け実験を行うかのように、各国に圧力をかけ続けた1年間だったように見えます。

パリ協定からの再離脱の宣言や、UNへの挑戦状、国際機関の活動の総見直しなど、予想された通りの動きも見られ、中国との対峙という外交・通商面でのショーも期待通りに進められました。

第1次トランプ政権時との大きな違いがあるとしたら、吹き荒れる紛争の嵐への対応ではないかと思います。

第1次政権時にもシリア内戦の問題があり、2017年4月7日に59発のトマホーク巡航ミサイルを「化学兵器、特にサリン兵器の使用疑いに対する警告」としてシャイラート空軍基地に撃ち込んだという事案があったり、今次政権でも顕著なイランへの非常に厳しく敵対的な外交姿勢を取ったりすることはありましたが、いわゆるアメリカの利害に関わると考えられる国際紛争は存在せず、安全保障面での動きはなかったように感じています。

それが今次政権下では、就任前からロシア・ウクライナ戦争は存在し、ハマスによるイスラエルへの同時多発テロ事件と人質事件に端を発したガザ地区に対するイスラエル軍の報復やレバノンのヒズボラとの対峙、ミャンマーの混迷、スーダンの内戦など、複数の紛争・武力衝突が世界各地で勃発している状態に就任当初から対応を迫られるという事態に直面しています。

オバマ政権以降、自らの第1次政権を経て、バイデン政権下で進められた【アメリカの海外における紛争への介入縮小とプレゼンスの低下】が鮮明になり、アメリカが退いた後の力の空白に中国とロシアが滑り込み、かつグローバルサウスと称される新興経済国の台頭が鮮明になる多極化した世界に戻るに際し、【アメリカの軍隊・部隊は出さないが、世界中の紛争をいったん止める停戦には積極的にコミットする】という姿勢の下、複数の国際紛争の調停に乗り出しました。

現政権においては【常に平和を築き、たとえ意見の違いが深刻な国とも協力を探る】というモットーの下、ロシア・ウクライナ戦争、イスラエルとハマスの仲介(ガザ地区における停戦と人質解放)、タイとカンボジアの国境紛争、ルワンダとコンゴ民主共和国との和解に乗り出し、そのうち、すぐに破綻したとはいえ、タイとカンボジア国境紛争に一旦は静けさを取り戻しましたし、非常に状況は不安定極まりありませんが、今年10月10日に合意に至ったイスラエルとハマスの間での停戦合意も、一応、ハマスが残る人質を全員解放し、残念ながら命を落とした人質の遺体をイスラエルに返還し、イスラエルはその引き換えにパレスチナ人の政治犯などを釈放するという“合意の第1段階”の完了に漕ぎつけるという成果を導き出しました。

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「中身はともかく戦争を止めることが先決」という問題姿勢

ガザについては、合意の第2段階の実施に向けた非常に困難なやり取りが続けられていますが、イスラエルによるジェノサイドともいえる蛮行を一時的に止めることには貢献していると考えます。

ただ、以前にもお話ししましたが、紛争調停に係る軸、言いかえると【具体的に何を目指すのか?】、【そのためにはどのような条件が必要か?】、【誰がいつまでに何をしなくてはならないのか?】といったビジョンがなく、同じ内容を目の前にしても、それぞれが全く違った解釈をするという危険な現実も浮き彫りになってきています。

それゆえに、一度、停戦に漕ぎつけたタイとカンボジアの国境紛争は再燃して今、解決の糸口が見えづらい状況に陥っていますし、イスラエルの暴走を止めることが出来ていないことに端を発する“停戦合意の破棄と違反”が相次ぎ、ガザを巡る解決の糸口は全く見えない状況です。

外交・安全保障政策に“軸”がないことに加え、トランプ政権誕生前まで仲介の労を取ってきた国々の働きを軽視し、自らが表舞台に出て、状況をかき回している様は、アラブ諸国(特にカタールとエジプト)やトルコ、マレーシアをはじめとする数々のASEAN諸国を苛立たせていますし、同盟国たる欧州各国の役割と存在を軽視することで、ロシア・ウクライナ戦争の解決に向けてStand by Ukraineで一枚岩のサポートを見せなくてはならないところで要らぬ亀裂を生み、その亀裂が欧州からの対米不信感(対トランプ不信感)の拡大という“望まざる状況”を作り出していることも、実際の紛争の調停と解決のための努力を空回りさせ、その穴を中国や百戦錬磨のプーチン大統領に上手に突かれてしまい、就任当初よりも混乱極まる国際情勢を生んでしまっているように見えます(実際に紛争調停の任に就いているものとして、そのように痛切に感じます)。

皮肉な言い方になってしまうかもしれませんが、トランプ政権の外交・安全保障政策に共通の軸が存在するとしたら、それは【中身はともかく、戦争を止めることが先決】という姿勢で、非常に目立ち、メディアうけが良いと考えられる停戦合意の調印にはこだわる姿勢を一貫して示す半面、合意の履行についての詳細や紛争解決後の復興プランなどの詳細についてはとことん先送りし、合意の履行を支えるはずの“アメリカのコミットメントの内容や有無”については曖昧な姿勢を貫くという共通項は存在します。

この“アメリカ(仲介国)が合意の履行を保証する”という不可欠な要素が存在しないか曖昧なままであることで、合意の実現性に対する信頼度が落ち、【合意履行に際して問題が発生した時には必ず米国が再度介入して問題解決の音頭を取る】という約束の不在により、当事国が再度、お互いのsaving facesのために紛争に突入するという悪循環を生んでいると感じています(タイとカンボジアの国境紛争の再燃がまさにこのケースです)。

【合意の履行のバックアップと紛争再発時の解決へのコミット】という点で意外にうまくやっているのが中国の仲介・調停の役割です。

バイデン政権時のアメリカ政府を震撼させたサウジアラビア王国とイランとの間の和解と外交正常化の仲介や、ハマスも含めたパレスチナ14団体間の和解と協力を定めた北京宣言を成立させ、united Palestineの構築を後押しした事例がそれにあたりますが、これらはどちらも継続・深化しており、合意の実施を経済的なスキームを駆使して支え、戦略的パートナーシップという形で保証するという仕組みが出来上がっています。

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直接的には発言せず背後で手ぐすねを引いている中国

今、アメリカ主導でのガザ和平第2段階の条件内に【ハマスをガザの統治構造から排除するとともに、ハマスの武装解除を成し遂げる】という内容がありますが、それらの実行に抵抗しているのはハマスだけではなく、実はunited Palestineの絆を通じて、一構成員の排除を外野から明示されることへのグループとしての強い反感と抵抗が要因としてあると言われています。

中国は直接的には発言せず、ただイスラエル、特にネタニエフ首相への批判と非難に終始するだけで、和平合意の履行に対する支持も非難も行わない姿勢を貫いていますが、これは言い換えると、アメリカ主導のプロセスに対して反対勢力を纏めるべく、背後で手ぐすねを引いている、というようにも表現できるかと考えます。

トランプ大統領による紛争の仲介努力は、これまで停滞していて行き詰まり感が否めなかった各案件を前に進め、話し合いの場を強引にでも設置させることで、再び当事者間に“停戦”や“和平”に向けた意識付けをすることに大いに貢献したと考えますが、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの戦いのケースのように、リーダーとの個人的な繋がりを前面に押し出して、調停を進めようとしたことについては、ポジションとネガティブの両面があると考えます。

個人的なつながりを前面に押し出すことで、イスラエルのネタニエフ首相を振り向かせて、話を聞かせる環境を作りましたし、「停戦・和平協議の実施に乗り気ではなかった」プーチン大統領を対話の席に就かせ、かつ久々の米ロ首脳会談に漕ぎつけ、完全にdeadlockに陥っていたロシア・ウクライナ戦争において“話し合いによる解決”という外交的な選択肢を再浮上させたことは大きな功績だと思います。

しかし、個人的なつながりに重きを置きすぎる傾向により、ネタニエフ首相が聞く耳を持たなかったり、(イスラエルの)国内情勢に鑑みて、【ネタニエフ首相が100%トランプ大統領に従うことができないという状況】があったりする場合、意図した方向に導くことが叶わず、ジレンマに陥るという危険性を不必要に生み出してしまいました。

自分とアメリカが肩を持ち、国際社会からの激しい非難にも関わらず、ネタニエフ首相とイスラエルを庇護しているにもかかわらず、ネタニエフ首相が自らの思い通りに動かないことには苛立ちを隠せず、ビビ(ネタニエフ首相)が自分の顔に泥を塗っているとさえ感じ始めており、最近は「和平案の実行に抵抗し続け、平和に向けての動きを自ら止めるのであれば、アメリカはネタニエフ首相とイスラエルを見捨てざるを得ない」とまで発言しています。

これは、苛立ちと共に、上下院において超党派で広がる対イスラエル・対ネタニエフ首相非難の拡大という傾向を受けての変化とも言えますが、ネタニエフ首相とイスラエルにとってあまり旗色の良い状況にはなっていません。

そのような状況をベースに、アラブ諸国とイスラム教国は、これまでにないほど結束を固め、イスラエルによる組織的な対ガザ市民・パレスチナ人虐殺行為と非人道的行為を激しく非難し、イスラエル包囲網をどんどん狭めています。

トランプ大統領が中東和平の強力な武器とし、かつイランをアラブから再度引き離すために用いたかったアブラハム合意に対しても、UAEなどの既存の締約国も、鍵となるサウジアラビア王国も反対の意を示し、グループとして「即時停戦とイスラエルによるパレスチナ全域および周辺国への武力行使を即時停止の上、パレスチナ国家の樹立を認め、2国家解決が図られるまでは、イスラエル政府との交渉は一切行わない」として、イスラエルとのつながりを断つ決定をしました。

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「プーチンの戦略」の上で踊らされているトランプ

これはイスラエルとアラブ社会との融和を通じて、イランを孤立させ、中東地域の安定を実現するというトランプ大統領の方針が根本から狂うことを意味し、このままの状況では、トランプ大統領のアメリカは(大きな投資先としての)アラブを失うだけでなく、中東に対するロシア・中国の勢力拡大を許すことに繋がるため、大きな懸念を抱き、それがイスラエルに対する圧力の強化に繋がるというサイクルが生まれ、複次的な緊張の高まりがみられます。

トランプ大統領としては、アメリカ国内の支持基盤でもあるプロイスラエルのキリスト教福音派や、ユダヤ人コミュニティーへの気遣いもあり、容易にイスラエルを切り離すことが出来ずにいますが、その曖昧な姿勢はアラブ社会からの非難の的になり、このままではアメリカは親米だったアラブを失い、国際社会におけるパワーバランスに大きくかつネガティブな変化をもたらすことになってしまうかもしれません。

最近、あまりガザについて語っているトランプ大統領を見ていない気がしますが、次に何らかの発言を行う際、どのような内容になっているのかは、とても注意深く聞き、理解する必要があるかと考えます。

ロシアのプーチン大統領に対する感情については、第1次政権時から明らかにプーチン大統領へのあこがれにも近い感情があり、「誰も話し合えないブラディミールと話すことができるのは私だけ」という自負とアピール看板もあって、プーチン大統領との話し合いを重視するがあまり、その実現のためにはプーチン大統領の言いなりになっているとの印象が拭えず、再三提示している“停戦案”も、明らかにロシア寄りの内容になっているだけでなく、その受け入れをウクライナに迫るという、明らかに仲介者としての中立性を欠く言動を繰り返す原因になっているように見えます。

アラスカ州アンカレッジで開催された久々の米ロ首脳会談でもそうですし、その後、何度も発表されては打ち消される追加首脳会談、そして“開催については拒否しない”とプーチン大統領が伝えたウクライナ・ゼレンスキー大統領との首脳会談の開催の可能性…いろいろと手を変え品を変えトランプ大統領の関心を惹き、いろいろと条件を突き付けては、ウクライナおよびその背後にいる欧州との調整をアメリカに任せ、代替案または妥協案が提示されれば、トランプ大統領を怒らせないぎりぎりのラインで拒絶して、ひたすら時間を引き延ばし、その間にウクライナに対する攻撃を強めて陣地の拡大に努めるという、プーチン大統領の戦略の上で踊らされているのが、トランプ大統領によるロシア・ウクライナ戦争の仲介の現状かと考えます。

「トランプ大統領は関税措置の発動や経済制裁の強化などを口にするが、実際には発動できないだろう」

「トランプ大統領はロシアとの直接的な対峙を願っていない」

「トランプ大統領は、一刻も早く戦争を終えること、それに自分が貢献したことをアピールすることにしか関心がなく、停戦後のウクライナの処遇にはさほど関心がないだろう」

「合意をまとめかけたら挙って口を出してきて、進捗を止めてしまう欧州各国に対して、トランプ大統領は少なからず苛立ちを隠さなくなっている。でも欧州に戦後処理の責任とコストを負わせるために、欧州各国を無碍に扱うこともできない。ならば、欧州の説得はアメリカにやらせればいい。それをロシアは高みの見物をし、その間に着実に陣地を拡大することに専念すべき」

いろいろな計算と仮定がプーチン大統領の頭の中で構成され、うまく掌の上でトランプ大統領とアメリカを躍らせて、着実にロシアによるウクライナの属国化という、ロシアにとっての根本的な脅威の除去という目的に邁進しているのが現状と思われます。

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中身なき停戦合意の弊害が顕著となったタイとカンボジアの紛争

それにトランプ大統領も気づいているはずですが、とはいえ、プーチン大統領の仮定通り“ウクライナの今後”にはあまり関心がないことは図星だと思われることから、ロシア寄りの条件を合意案に散りばめて、ウクライナに受け入れを迫り、欧州には「口出しをするならコストも負担せよ」と迫って、年内の幕引きを狙っているようですが、恐らくロシア・ウクライナ戦争は5年目を迎えることになりそうです(この読みが当たるかどうかは、このメルマガが皆さんの手元に届くころに、トランプ大統領がゼレンスキー大統領に突き付けたクリスマス合意の要求がどうなっているか次第です)。

12月24日にゼレンスキー大統領は20項目からなる停戦合意案を公表していますが、まだウクライナ東南部4州の帰属問題を含む領土問題や、「ウクライナに対する安全の保証」の具体的な内容が棚上げになっていることから、早期の決着はかなり困難かと考えます。

しかし、領土問題については、アメリカが提案していた「東南部4州を自由経済圏として設定し、ロシア・ウクライナ双方が自由に経済活動を実施する」というアイデアには前向きな姿勢を示すことで、ウクライナ側からの歩み寄りをアピールしており、それにどうアメリカ政府が反応するか、そしてロシアがどう反応するのかが決め手かと思いますが、果たしてどうでしょうか?

ただ、これまでにいろいろと耳に入ってきている内容に鑑みると、かなり合意は困難な気がします。

中身のない停戦合意(詳細は先送り)の弊害が今、顕著に表れているのがタイとカンボジアの国境紛争です。

トランプ大統領がASEAN首脳会議と併せてマレーシア入りするのに合わせて(でも、実際にはトランプ大統領は首脳会議には出席せず、東京に向かったような記憶が)、急ピッチで準備を進め、何とかアンワル首相(マレーシア)隣席の下、タイとカンボジアの首脳をひな壇に座らせ、トランプ大統領が仲介する形で停戦が成立したというお膳立てがされましたが、停戦合意の実施についての諸条件を含む詳細はほぼ中身がなく、かつこの合意内容の履行をバックアップ(保証)するための仲介国アメリカのコミットメントの有無そして内容についての合意もなく、すべて「詳しくは後日」というアレンジになったことから、その後起きた偶発的な衝突(カンボジアが国境地帯に敷設していた地雷でタイの兵士が負傷した事件や、散発的な武力衝突の発生など)を機に、両国間の衝突はエスカレーション傾向にあり、タイの世論調査でも「カンボジアとの戦争もやむを得ないと考え、もう後には退けない」という声が多かったことから、戦争の拡大への懸念が両国内で高まっています。

今のところ、マレーシアのアンワル首相が急ぎ仲介に乗り出して、何とか外務大臣級の協議の場を設けるに至りましたが、その際、アメリカ政府やトランプ大統領に関する内容の言及はなかったことで、いろいろな憶測を呼ぶ事態になっています。

恐らくアメリカは望まざる客と認定されているのだと推測しますが、同時にここに中国の影が存在するのでないかと考えます。

ASEAN首脳会議時の急ごしらえの仲介と和平合意の設えでは、地域における中国の影響力への対抗という目的もあったのか、中国はプロセスから排除されていましたが、地域の国々からは強い抵抗があるものの、やはり地域の安定には中国のある程度のコミットメントは不可欠と考えたのか、または、状況の悪化を見かねて、アメリカを押しのける形で中国が、マレーシアを通じて、影響力を行使しようとしているのかは分かりませんが、ここ数日のタイとカンボジア間でのやり取りの様子を見ていると、確実に中国が何らかの形で絡んでいると思われます。

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結果的にアフリカからも追い出されることになるアメリカ

これが何を意味するかと言えば、2025年、トランプ政権がアジアを軽視してきたことと、タイとカンボジア間の紛争調停に関与しながら、結局は放置したことへの地域からの怒りと苛立ちが高まり、それをうまく中国がつかみ取り、地域におけるバランサーの役割を、ここでも手に入れたのではないかと推察します(本当はこの役割を日本が果たしてほしいと強く願っているのですが、ちょっと出遅れましたかね?)。

「ウクライナとガザが片付いたら、次はアジアだ」とトランプ政権の外交担当の皆さんは息巻いているようですが、ウクライナとガザの案件がいつ片付くかは見通せず、さらにはタイとカンボジア間の仲介の失敗を受け、トランプ政権のアジア軽視のイメージが、中国による情報工作もあって、強化されているため、実際に台湾問題や中国による南シナ海での態度などをダシにアメリカが“アジアに回帰”した際、果たして本当にアメリカが活躍できる余地があるかどうか?またアメリカの地域外での活動を支援するアジア諸国(特に東南アジア諸国)がどれほど存在するかは全く見通せないと感じます。

このアメリカのプレゼンスの退潮は、アフリカでも顕著になってきています。先日、歴史的な合意とアピールしたルワンダとコンゴ民主共和国との間の和解合意で久々にプレゼンスを示したアメリカ政府ですが、スーダン内戦の仲介に失敗したことと、東アフリカ諸国を悉く中国(とロシア)に取られ、あまりアメリカおよび欧州各国が活動できる余地がなくなっている現実を前に、どのような巻き返しを図ろうとしているのかは不明です。

いろいろと政府関係者にも聞いてみるのですが、皆揃って具体的なイメージは持っていない印象で、このままだと経済・技術支援を柱とした戦略的パートナーシップ攻勢で支持を広める中国と、内戦を有利に進めるために軍事的な支援を必要とするアフリカの政府または反政府軍をすでに取り込んでいるロシア(ワグネルの活動を含む)に、東部アフリカのみならず、現在、クーデターベルトと化している西アフリカから中央アフリカのエリアまで、中ロの影響の下に置かれ、結果的にアメリカ(と欧州)がアフリカから追い出されることになるかもしれません。

そのようなことになると、支配下には置かれないものの、アフリカと広域アジアが中ロの影響圏色が強まり、世界におけるパワーバランスの構図が大きく変わります。

そして、ラテンアメリカ・カリブ海諸国の趨勢ですが、これまで長きにわたり“アメリカの裏庭”として、かなり強引にアメリカの影響圏に置かれ、反米勢力はアメリカによるあからさまな工作活動と内政干渉によって、非常に難しい立場に置かれることで、アメリカ色が強まるという結果を生んでいましたが、それがトランプ政権下で繰り広げられるラテンアメリカ・カリブ海諸国への圧力と一方的な非難により、ちょっと事情が変わってきている印象です。

特に最近、危険度が高まっているアメリカによるベネズエラへのあからさまな威嚇行為と“麻薬カルテルの撲滅”という言い訳の下で、公海上での船舶の拿捕と撃沈をはじめ、横暴が繰り返されていることから、ラテンアメリカ諸国の反米感情が高まってきており、ブラジルのルーラ大統領は「アメリカがベネズエラに行っていることは非常に危険な賭けで、このままアメリカはラテンアメリカを失うことになる」という懸念が高まっています。

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「裏庭」さえも失うことになりかねないアメリカ

この地域と言えば、かつてのキューバ危機の舞台にもなり、米ロが核戦争一歩手前の危機に至った事案として挙げられていますが、今回のアメリカによるベネズエラへの一方的な圧力と武力行使の可能性への言及は、ロシアや中国、イランなどの反米勢力(地域外)がベネズエラ側について、アメリカと対峙するという危険な事態を作り出しています。

もし、偶発的な事態が起きた場合、特にアメリカ軍がベネズエラの船舶などに攻撃を加えた場合などには、一気に戦争が勃発し、世界を二分するような戦いが繰り広げられる危険性が高まりますが、その場合、アメリカは裏庭さえも失うことになるかもしれません。非常に懸念しておりますが、とんでもないことにならないことを祈るばかりです。

2025年ももうあと数日となりました。年末年始に何か大変なことが起きるのではないかという不穏な情報が入ってくるのはいつものことなのですが、ongoingな大戦争が年越しをし、タイとカンボジアの紛争再発の火種がくすぶり、そしてアメリカがベネズエラに手出ししそうな状況に直面している今、いつコントロール不能な状況が表出することになるか、とても懸念をしつつ、いつでも対応できるようにon-callの状態が続きそうです。

直ぐに大戦争になるようなことはないと考えますので、しばらくはお休みいただけるかと思いますが、年末年始のお休み後は、変わりゆく世界に私たちは備えておかなくてはならないと考えています。

皆さま、どうぞよいお年をお迎えください。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2025年12月26日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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