韓国の全国同時地方選挙が行われ、現在の政権与党である「国民の力」が圧勝しました。そのなかで、韓国の文在寅大統領の側近だったチョ・グク前法相を相手に不正疑惑を暴露して注目された金泰佑(キム・テウ)候補も当選しました。無料メルマガ『キムチパワー』では、韓国在住歴30年を超える日本人著者が、キム・テウ氏の戦略を紹介し、今後のビジョンを語っています。
チョ・グク狙撃手が区庁長となる
6月1日に行われた第8回全国同時地方選挙で、政権与党の「国民の力」が圧勝した。3・9大統領選挙に続く全国選挙2連勝だ。今回の選挙は広域団体長(道知事、市長、郡守など)と国会議員の補欠選挙と教育監(ソウル市や忠清南道など道の教育全般を担当する長)を選ぶ選挙だった。
ここで「国民の力」はソウルを含め全国12の広域団体長選挙で勝利し、民主党は光州、全羅南道、全羅北道の3か所に京畿道、済州道を加えた5か所で勝利し、保守:進歩が12:5というスコアとなり、保守陣営「国民の力」が圧勝することになった。
そんな中、進歩性向の「票田」であるソウル江西区(カンソグ)で、いわゆる「チョ・グク狙撃手」と呼ばれる保守の「国民の力」金泰佑(キム・テウ)候補が当選した。キム当選者は6月2日午前6時、51.3%得票率で相手の民主党キム・スンヒョン候補に勝った。46歳と若手の江西区区庁長となる。
キム当選者は2020年第21代総選挙(国会議員選挙)当時、江西乙(カンソ・ウル)にて民主党のチン・ソンジュン候補に敗れたが、今回の選挙ではチン議員の補佐官出身であるキム・スンヒョン候補を相手に勝利した。
保守政党である「国民の力」の立場としては、12年ぶりに江西区庁長の座を奪還することになった。
江西区は今年3・9大統領選挙でも民主党のイ・ジェミョン候補(49.17%)が「国民の力」尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補(46.97%)を上回ったところだ。
尹錫悦政府発足直後に行われた今回の選挙なので、「国政安定論」に民心が傾いたという分析が出ている。
キム当選者は検察捜査官(検察捜査官というのは検察官のもとで捜査や事務などを補佐する役割)出身。李明博・文在寅政府にかけて青瓦台特別監察班を務めた。
特にムン政府の民政首席室で起きた不正疑惑を暴露し注目された。チョ・グク当時民政首席を相手にした「ユ・ジェス前釜山市経済副市長監察もみ消し疑惑」が代表的だ。ユ・ジェス前副市長の収賄疑惑は今年3月、最高裁で有罪が確定した。
キム当選者は、大統領選挙の尹錫悦陣営に公益情報提供特別委員会の委員長として合流した。
彼は江西区と特別な縁故はないが、政府要職をあまねく務めた経験を強調し「地方自治体長の業務ノウハウと人的ネットワークこそ地域の宿願事業を成し遂げるのになくてはならない武器」として票心(票を入れようとする人々の心)を攻略した。
主要公約としては全面再開発・再建築拡大が挙げられる。金泰佑当選者は呉世勲(オ・セフン)=ソウル市長およびウォン・ヒリョン国土部(日本で言う建設省)長官と歩調を合わせて迅速な開発計画を引き出すという計画だ。
特に立ち遅れた禾谷(モゴク)・登村洞(ドゥンチョンドン]一帯を全面開発し「子供たちが自由に走り回れる町」にするという構想だ。彼の公約には賃貸住宅の高級化戦略なども含まれている。
キム当選者は「76万YouTuber」としてもよく知られている。文化・芸術隆盛公約事業の一つとして「(移転する)江西区の区役所敷地に「ニューメディア産業支援センター」を建て、若者のコンテンツ競争力を育てることができるよう支援する」とし「直接ニューメディアノウハウも伝授する考え」と話した。若さのなせる業と言えるだろう。
おりしも文政権下で何年も沈滞していたチョ・グク裁判がいよいよ始まったようだ。
そんなおり、(区庁長自体には力はないが)「チョ・グク狙撃手」と呼ばれる金泰佑氏が区庁長として当選したことは真実をあからさまにする上で少なからぬ追い風となる見込みだ。
今回の選挙では保守陣営が圧勝したことはしたのであるが、問題の李在明(イ・ジェミョン)が仁川のヤンゲというところで国会議員の補欠選挙で当選してしまったため、こいつが国会議員として在籍している間は大庄洞(デジャンドン)土地・建設不正疑惑を暴けないことになってしまった。
今回落選すれば政治生命は終わったも同然だったが議員としてやれることになり、またもや次の大統領選挙に出てくる可能性が開かれた。
しかし不正があまりにも明らかななゆえ、尹錫悦政権5年の間に李在明に関する諸々の捜査は進められるものとみられる。
専門家の手に全てをゆだね、われわれはただ黙ってビールでも飲んでいればいいのかもしれない。
(無料メルマガ『キムチパワー』2022年6月3日号)
image by: Shutterstock.com