韓国の電気自動車「アイオニック5」が大きな事故を起こしました。その悲惨さは通常の自動車事故とは比較にならないものだったようです。その詳細を無料メルマガ『キムチパワー』で、韓国在住歴30年を超える日本人著者が分析し伝えています。
バッテリー熱暴走
韓国、現代自動車の電気自動車に「アイオニック5」というのがある。町中を走っていてもよく見かけるようになった。かなり売れているようだ。この「アイオニック5」の事故の話である。
6月4日午後11時、釜山江西区南海高速道路西釜山料金所で電気自動車アイオニック5が料金所衝撃吸収帯に衝突した。
車両は火災が起きて黒く焼けた形だけが残っており、運転手と1人の同乗者は全員車内で死亡した状態で発見された。料金所前方の道路分離壁と衝撃吸収台に正面から衝突した事故だった。
釜山西部警察署の関係者は「事故が起きた地点はハイパス(ノンストップ自動料金支払い所)ではなく現金精算区域であり、車の破損程度を見た時も車が高速で走ってきて衝突したようではない」と明らかにした。搭乗者が衝突の衝撃で死亡するほどスピードを出しすぎていたわけではないということだ。
しかし、事故車(電気自動車)の搭乗者たちは燃える車から抜け出すことができず死亡、車両火災の鎮火にもなんと7時間もかかったというから驚きだ。
搭乗者が脱出できなかったのは、車が衝突するやいなや火がついたためと推定されている。警察のCCTV分析の結果、事故電気自動車は衝突直後、約3秒で車両全体に炎が広がった。
事故担当調査官は「衝突直後、1~2秒で『ポン』という音がボンネット側からなり、直ちに車両前方全体に広がった」と述べた。当時、出動した消防士は「事故から15分後に現場に到着したのだが、車内まで火が広がった状態だった」と話した。
消防当局と専門家たちは電気自動車バッテリー温度があっという間に高温に跳ね上がり、手のほどこしようもなく火が大きくなる現象、いわゆる「バッテリー熱暴走」が事故車両で起きたと推定している。
バッテリーが外部衝撃を受けて損傷すればバッテリーパック内部温度が摂氏30~40度から800度まで跳ね上がる現象だ。
バッテリーは小さなセル単位をきちんとつなぎ合わせて作るが、セル一つに高熱が出るとすぐ横のセルも燃え上がりドミノのように火がつくのだ。
国立消防研究院のナ・ヨンウン研究士は「バッテリー熱暴走はバッテリー損傷直後に1~2秒だけでも起こりうる」と話した。
2020年、ソウル龍山で発生したテスラモデルX火災事故の際は、電気自動車の埋め込み式取っ手が開かず、救助が遅れ、結局運転者が死亡した。一部の電気自動車モデルは普段、車のドアノブがドアの内側に隠れていて、取っ手を押して外に取り出す方式だ。
しかし、釜山で火災が起きた今回の現代自動車のアイオニック5は、衝突が感知されれば、取っ手が飛び出すように設計されている。死亡した搭乗者の死亡が自動車の取っ手とは関係がないということだ。
国立科学捜査研究院の1次解剖の結果、搭乗者たちは胸側の骨が骨折していたことも確認されている。負傷で簡単に体を支えられず迅速な避難が難しかった可能性はある。
今回の釜山電気自動車の火災は翌日午前6時を過ぎてようやく鎮火した。鎮火に何と7時間以上かかり、深夜12時を過ぎてからは全て消したと思っていた火が再びついた。
このように電気自動車の火災鎮火が難しいのは、バッテリーが鉄製で覆われており、消火剤が浸透できないからだ。車を丸ごと巨大な水槽に入れたり、車の周囲に臨時の壁をつくりバッテリー全体を水で包み込まなければならない。
今回の火災も臨時の壁をつくってバッテリー全体を水で包み込むようにしバッテリーを水浸しにする必要があった。これはリチウムイオンバッテリーの共通的な特性で、特定メーカーの問題でもない。
電気自動車のバッテリーは超高張力鋼板が保護する構造だ。自動車業界は時速60キロ前後の衝突にはバッテリーが安全だというが、今回の事故でも分かるように100%安全を断言することはできないと専門家たちは話す。
大徳大学のイ・ホグン教授は「開発中の全固体バッテリーは熱暴走から安全だが、実際の量産まで少なくとも数年かかるだろう」とし「現在、電気自動車は安全運転だけが火災から自分を守る道」と語る。
しかし、安全運転といっても今回の事故のようにおそらく40キロにもなっていないはずなのに、わずか3秒で800℃という暴走。
電気自動車はバッテリーを搭載しているため、事故に遭ったときにはすこぶる弱い点が浮き彫りにされた形で、今後の電気自動車の方向性を左右するようなインパクトの強い事故となった。
3秒で800℃にもなられたのでは、助かる人は誰もいない。電気自動車の行方はいかに。
(無料メルマガ『キムチパワー』2022年6月14日号)
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