今ではスマホをタッチするだけで配達してもらえる「フードデリバリー」が主流の時代ですが、その言葉が登場するまでは配達無料で「出前」をしてくれるお店が多くありました。今回のメルマガ『繁盛戦略企画塾・『心のマーケティング』講座』では、繁盛戦略コンサルタントの佐藤きよあきさんが、フードデリバリーではない「出前」の良さを感じさせる、あるエピソードを紹介しています。
配達無料の出前には、忘れかけていた人情が残っていた
「てんやもの」「仕出し」「おかもち」「出前機」。
恐らく若い人は知らない言葉だと思います。
「てんやもの」は、漢字で「店屋物」と書き、飲食店から取り寄せる料理のことです。
「仕出し」は、注文に応じて、料理を作って配達すること。仕事の「仕」、出入りの「出」を取って、名づけられています。
「おかもち」は、料理や食器を持ち運ぶ際に用いる箱のこと。「岡持ち」と書き、「岡」とは小高い山のことで、山のようにたくさんの食べ物を持って歩ける道具
という説があります。
「出前機」は、汁物の入ったおかもちをバイクや自転車に乗せてもこぼれないように設計された装置のことです。
こうした言葉をあまり聞かなくなって、どれぐらい経つのでしょうか。
「フードデリバリー」という言葉が登場するまでは、数は減っていたものの、出前をするお店はたくさん残っていました。しかし、店主の高齢化やフードデリバリーの流行によって、出前をするお店はさらに減っていきました。
料理を配達するという点では同じなのですが、昔からの出前とフードデリバリーには、決定的な違いがあります。昔からの出前は「無料」。フードデリバリーは「有料」。なぜ、同じことをしていながら、この違いが生まれたのでしょうか。
出前は、お店の人が直接お客さまに届けるサービスなので、人件費は掛かっているものの、無料で行っています。注文してくれるのだから、それぐらいは無料にしますよ、というサービスです。無料にすることで、常連さんになってもらえるのです。
対して、デリバリーは配達する人が別会社の人で、お店に代わって配達する事業を行っています。なので、その配達料が収益となります。お客さまからすれば、同じように配達してもらうのに、無料と有料があり、納得できない部分もあります。しかし、デリバリーを請け負う会社があるからこそ、お店の数も多くなり、好きなものを選択することができます。これが、デリバリーのメリットなのです。ただし、2,000円のものに配達料がプラスされ、3,000円になったりするので、躊躇する人も多くいます。
無料の出前は、あくまで個人店のサービスです。注文してくれるお客さまへの感謝の気持ちなのです。
忙しくて外食できないサラリーマンや商店主。小さな子どもがいて、食事を作れないお母さん。子どもが多く、騒がしいので、お店には行きづらいという家族。こうした人たちが、出前を利用しているのです。しかも、配達は無料。便利で有り難い存在となっています。
また、個人店の出前には、デリバリーにはない魅力があります。人との触れ合い。人情です。店主や配達する人が家に行けば、そこには会話があり、ひととき温かい時間が流れます。世間話や家族のこと。身体の悪い人なら気遣いを。何度も訪問し、昔から知っているので、そんな会話が自然と出てくるのです。
デリバリーではあり得ません。場合によっては、顔を見ずに置き配することもありますから。
人と人が接してこそ、そこに温もりがあり、繋がりがあるのです。
出前では、お店の食器をそのまま配達するので、また回収しなければなりません。二度手間なのですが、その回収する時に小さな感動があったりします。基本的には玄関前などに置いておくのですが、時には、洗った器の間にお礼の手紙が挟まれていたりします。
「おいしかった」「いつもありがとう」「がんばって」……。
子どもの書いたものがあったりして、涙の出そうな瞬間があるそうです。こんなことがあれば、出前をやっていて良かったと感じます。お客さまとの触れ合いが、やりがいなのです。出前をする個人店ならではの感動の物語があるのです。
出前は、やがて消滅してしまうのかもしれませんが、できるだけ長く続いて欲しいと願います。
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