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「ゼロコロナ」緩和で感染爆発。緩和前より人がいない北京のイマ

日本でも大きな関心を持って伝えられた中国の「反ゼロコロナ」デモへの回答として、習近平政権は意外なほどのスピードで対策緩和を打ち出しました。そして、当然と言うべきか、中国では感染者が爆発的に増えているようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、北京在住の知人たちから入手した現在の市内の状況を紹介。想像以上のオミクロン株の感染力を警戒し、ゼロコロナ対策下のときより街なかから人がいなくなったと、驚きの様子を伝えています。

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反ゼロコロナの効果で感染爆発の北京の事情

「オミクロン株の感染力の強さを、身をもって体験することになるとは思いませんでした。しかもこんなに早くに……」と嘆息をつくのは、北京でコンサルタント会社を経営するA氏だ。

「まあ、自業自得ですけどね。誰もが政府の進めるゼロコロナ(動的ゼロコロナ)に対し『過剰だ』と文句を言っていて、それに抗議した人々の行動を心の中で応援していたのですから。多少の熱ぐらいでは病院に行くわけにもいきませんよね」

同じく北京で暮らす元官僚のB氏も、家族3人が一斉に感染したと教えてくれた。

「驚くような展開です。こんなに早く広がるとは……。ウィチャットで友人と話していたのですが、友人の多くが次々にコロナに罹っています。肌感覚ですが、ほんの短期間で相当な広がりになったのではないかって、みなの意見が一致しました」

新型コロナウイルス感染症の変異株、オミクロンは感染力が強い反面、重症化の確率は低いとされている。

「この病気の特徴を自ら証明したようです。以前のロックダウンと違い、もともと北京でも買い物などはできていたのですが、孫春蘭副総理が会見する前後からPCR検査の壁が一気に引き下げられました。それでみんな多少熱があってもスーパーに買い物に行くんですよ。私たちの家族も、外出するにしてもスーパーくらいしか行っていませんでしたから、買い物中というごく短い時間に感染したということでしょうね」

PCR検査の義務付けの緩和で、現在の中国は、もう正確な新規感染者を把握できなくなっている。もともと中国は感染者を一人発見すると、その一帯に大きく網をかけて大規模なPCR検査を実施、見つかった感染者を隔離するという対策だった。そのため感染者数の大半は街を歩いている者ではなく、隔離を前提とした被検者だった。

しかし今秋から中国全土で広がった感染拡大の推移は、かつてと同じ「波」と表現される山を描きながら、中身が全く異なるのが特徴だという。中国が「社会感染」と呼ぶ、街で無作為に行った検査で発見された感染者だったからである。

つまり、あれほど厳しい感染対策をやってきたにも関わらず、知らず知らずのうちに市中感染は広がっていたのである。感染対策を担ってきた当局に無力感を覚えさせる結果である。

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そもそも中国のゼロコロナ対策──ゼロコロナという言葉自体が中国にとって逆輸入である──は、早期発見から早期隔離を定めたもので、感染者数をゼロにする目標設定ではない。

日本のメディアは、「ゼロコロナ対策を修正することは、これを成功体験とする習近平政権の面子を潰すことになるためできない」と、人災といわんばかりの報道を展開していたが、これは大きな誤解だ。

武漢に始まったロックダウンには根拠となった3つの法律があるのだが、いずれも2002年から2003年(胡錦涛時代)にかけて改修、制定されたものだ。まさしくSARS(重症急性呼吸器症候群)に苦しんだ体験を受けた法改正であり、新たな感染症の脅威に際して採るべき政策は、この時点でほぼ決まっていたのである。

ましてや、習近平の鶴の一声でロックダウンがされたわけでもない。さらに大きな誤解は、習近平の面子のために経済を犠牲にするという見立てだ。およそいまの時代、どの国のどの政権にとっても経済を蔑ろにする勇気などない。

ただ中国にとって不幸だったのは、短期間に厳しい対策をして、短期間で日常を取り戻し、感染対策で落ち込んだ経済をV字回復させるというシナリオがオミクロン株の流行から通じなくなってしまったことだ。結果、習政権は厳しい対策をずるずると長びかせてしまったのだ。

さらに問題は、中央が発した感染対策の適正化(という名前の実質的な緩和)を地方政府がきちんと受け止めなかったことだ。すでに6月には国務院から通達が出されていたのだが、対策が緩まることはなかった。これは20大(中国共産党第20回全国代表大会)への影響を考慮した地方のサボタージュと考えられたが、計算外だったのは党大会後にも変化が現れなかったことだ。これに対し「党大会が過ぎれば」と期待していた国民がしびれを切らし、反発を強めたのである。

11月11日の対策「20条」や前述した孫春蘭の対応は、まさしく中央の地方への怒りを体現した動きといえるだろう。北京では、これに加えて緩和の「新10条」が出され、新型コロナの初期の感染拡大防止に貢献した鐘南山医師が、オミクロン株の罹患後の後遺症について、人々を落ち着かせるような情報も発した。

現状、冒頭で触れたような驚くべき緩和がスタンダートになっているのだが、前述のB氏は、「街は対策が緩和される前よりも人がいない」と笑うのだ。A氏も、「みな感染してしまったか、それとも自分の身を守らなければならないって、かえって慎重になっているのでしょう」と語る。

そしていま、別の悩みが北京に降りかかっているというのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年12月11日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:testing/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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