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Job hunter standing with water

日本に染み込んだ「学歴主義」こそが、ジョブ型雇用を世界水準以下にさせている

日本の大企業が取り入れ始めた「ジョブ型雇用」。しかし、世界のそれとは大きな隔たりがあると語るのは、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で、健康社会学者の河合薫さん。それは日本にこびりついて離れない「学歴社会」と大きな関係があるようです。河合さんは今回の記事で日本の学歴主義の問題点について詳しく語っています。

プロフィール河合薫かわい・かおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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「学歴主義」が消えないわけ

2022年も、低賃金問題がありとあわゆる場面で話題になりましたが、今回は「働かせ方と賃金問題」について、あれこれ考えてみようと思います。

コロナ禍でいっきに注目を集めたのが「ジョブ型雇用」です。

最近でこそ少なくなりましたが、年初は新聞、テレビ、雑誌などのありとあらゆるメディアに「ジョブ型」という言葉が連日踊りました。

ジョブ型自体は2020年に「アフターコロナ」を見据えた「新しい働かせ方」として注目を集めましたが、当初は「本当にそんなことできるのか?」という疑念が付き纏い、一年以上の歳月をかけて、やっと多くの大企業が取り入れるようになりました。

そして、ここにきて「ジョブ型こそが低賃金解消につながる!」「年功賃金がやっとなくなる!」「若くてもジョブ型なら稼げる!」「有能人材!有能人材!」といった具合に、何年経っても変わらなかった日本固有の「働かせ方」がやっと「世界基準になる!」と期待の声が溢れました。

が、いわずものが日本のお偉い人たち繰り返す「ジョブ型雇用」と世界のそれとは大きな隔たりがあります。世界のジョブ型雇用は、「学歴主義」との訣別であり、生涯スキルを磨いていける社会の構築と深くつながっています。

一方、日本のジョブ型雇用は、コスト削減と生産性向上が目的であり、成果主義とほぼ同義です。

そもそもジョブ型を適用するには、ジョブ型雇用を可能にするためのかなり手間のかかる前段階があります。

欧米では「ジョブ型」に耐えられるだけの人材育成に、国と企業と大学とで取り組み、人に投資することで、人材を育て、その結果として「ジョブ型」は存在しています。

例えば、多くの企業が即戦力を求める米国では、徹底して専門的な知識と実務経験を重視。大学で何をどれだけ勉強してきたかが非常に重要とされ、就職においても大学の成績が重視されます。

早い学生は高校から、一般的には大学在学中から企業の長期インターンシップに参加し、大学で学んだことを生かした実践的な経験をすることで在学中に求められるキャリア・レディネスをしっかりと身につける。

頭だけでもダメ、経験だけでもダメ。即戦力にはその両方のトレーニングが必要だという認識が社会に共有されている為、きちんと育つために投資するのです。

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また、16世紀頃から「学歴主義」が横行していた欧州では、ジョブ型雇用を徹底し、どんな学歴でも高いスキルさえあれば稼げる仕組みを作りました。
官庁だけは学歴主義が残っていますが、企業は求められるスキルで賃金が決められています。ジョブ型により「どこの大学を出たか?」は大きな問題ではなくなったのです。

かたや日本では、明治政府がフランスの学制にならって近代的学校教育制度を取り入れ、明治2年に東京大学を開校(開成学校を改称)。その後は、東京大学、京都大学、名古屋大学、東北大学、北海道大学、大阪大学、九州大学の7大学を帝国大学を頂点とするヒエラルキー型の伏線的な学校制度が作りました。

この頃から高学歴を身につけた者に対し、非常に高い賃金が支払われるようになり「学歴主義」が社会の中核的組織である企業にまで広がったのです。

その後も学歴主義は、形をかえながら続いています。

その鍵をにぎるのが、「新卒一括採用」です。

高度成長期には指定校制が堂々と行われいましたし、その後は「青田買い」が横行。やがて「学歴フィルター」と、時代と共にやり方こそ変わってきましたが、「どこの大学を出たか?」でその人の評価や社会的地位を決める「学歴主義」は全く変わっていません。

だから、新卒一括採用は辞められないのです。

「欲しい大学の学生」を首尾よく採用するには、新卒一括採用は好都合の採用方式であり、就活が完全にデジタル化したことで、「学歴主義」は完全にブラックボックス化しました。

ジョブ型雇用も例外ではありません。
ジョブ型フィーバーが吹き荒れる中、頻繁に使われるようになった「有能人材」という言葉の裏側にも、学歴主義は存在しています。

もし、本気でジョブ型にするのなら、通年採用にして、一旦就職した後でも大学に戻れる仕組みが必要だし、それが日常化してこそスキル向上につながります。
そして、今働いている専門職の人たちの賃金と社会的地位向上にも、手をつけなきゃ意味をなしません。

・・・あえて言わせていただくと、働く人たちも雇われないで生きるにはどうすれば良いかを、真剣に考えた方がいいと思うのです。

出世のために働くのではなく、同僚や上司、他者のために働くのでもない。
誰かに命令されて働くのではなく、「自分が生きていくために、どう働くか?」。

だって「幸せになるために働いている」のです。、
「自分の人生は自分で決める」勇気さえあれば、同じ稼ぎでも満足感は変わります。

とまぁ、あれこれ書きましたが、「コロナで日本は変わるかも」という期待は2022年で木端微塵に砕け散りました。 

あれこれ新しい言葉が横行するだけで、根っこは変わりません。

この現実をしかと受け止め、2023年をぴょん!な一年にすべく、勇気と誠実さと、ゆるさと笑いを大切にしましょう。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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