中米のホンジュラスが台湾と断交し中国と国交を樹立。中国による「札束外交」と非難する声に、中台が互いに「援助合戦」をしていたのは世界の常識で、台湾が経済的に中国に勝てないことが露呈しただけと指摘するのは、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、ブラジルと中国が自国通貨で貿易決済をすることで合意したことや、LNGの人民元建て決済が初めて行われるなど、「人民元取引」が拡大する現状と理由を伝えています。
結局、世界経済の行方は中国の出来次第というなかで激化する米中対立のネジレ
中米・ホンジュラスが中国と外交関係を樹立し、台湾と断交した。このニュースは中台を勧善懲悪でとらえようとしてきた西側の主流な世論に衝撃を与えた。これで台湾と外交関係を持つ国は13カ国まで減り、蔡英文政権下で断交した国の数は8つを数えた。
ネットには、民進党が野党だった時代、外交関係を一つ減らした馬英九政権を「外交の怠慢」と批判した蔡英文党首の映像が流され、台湾の未来を嘆く言葉もあふれた。
ホンジュラスとの断交が政権への逆風となることを警戒した蔡英文総統は、ビデオメッセージを発出。そのなかで「中国との無意味なドル外交の競争には参加しない」と、暗に中国の札束攻勢を批判した。
しかし、中台が互いに援助合戦で競い合ってきたことは世界の常識であり、札束外交は中国だけの特徴ではない。また、中台対立で台湾に味方し訪台する西側の政治家を迎えるために、民進党政権が多くのお土産を用意してきたことを、台湾の人々は地元メディアを通じてよく知っている。
つまり中国とホンジュラスの外交関係の樹立は、援助や貿易の形をした札束外交であって、その戦いにおいて台湾の限界を露呈した一つの結果でもあったのだ。背後にあるのは、いうまでもなく経済力だ。
中台の差が広がり続けていることは周知の事実だが、そんななかさらに驚くべきニュースが飛び込んできた。3月29日、ブラジル政府と中国が、今後、米ドルを仲介通貨として使用せず、自国通貨で貿易決済を行うことで合意したというニュースだ。目的は、第三国通貨への依存を減らすことで、外部の金融リスク、特に為替レートによる不可測性をある程度減らすためだとされる。つまりドルへの過剰依存への不安だ。
背景には最近、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を引き上げ続けた影響でドルが上昇したことがある。ブラジルの輸出収入に負の影響を与えたのだ。
ドル依存への警戒はこれまで、例えばロシアやイラン、北朝鮮など、アメリカと敵対し国際決済から排除されてきた国だけが抱く問題と考えられてきた。ロシアは「脱ドル」を急ぎ、今年2月にはモスクワ取引所で、史上初めて人民元が米ドルを抜き、月間取引量で最大の通貨となって話題となった。
ブラジルはもちろん、ロシアのようにアメリカと敵対する国ではない。しかし、それでも不透明な未来を考えれば選択肢は多いほうが良いのだ。世界ではいま、地政学的なリスクが高まり、世界経済の脆弱性の要因にもなっているのだ。
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
3月25日、北京で開催された中国発展ハイレベルフォーラムの年次会議でも、その問題に強い焦点が当てられた。例えば、同会議で講演した国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事の以下の言葉だ。
「地政学的な分裂、すなわち世界が対立する経済圏へと分裂してしまう可能性がある。このような分断は非常に危険で、誰もがより貧しく、より不安な状態に陥ることになりかねない」
米中対立が本格的な冷戦の様相を呈するようになれば、アメリカが歓迎しない中国との取引は、ドルを仲介する形ではやりづらくなると予測される。それこそ中国が最大の貿易相手となった多くの国々にとって近い将来のリスクかもしれない。
そうした未来を見越してなのか、このところ世界では人民元取引を拡大しようとする傾向も顕著だ。3月28日には液化天然ガス(LNG)の人民元建ての決済、いわゆるクロスボーダー人民元建て決済取引が初めて行われたというニュースが話題となった。3月中旬には、中国とサウジアラビアが初めて人民元建て融資協力を実施するというニュースが世界の注目を集めた。
人民元が世界の貿易で占める割合は、現状ではまだまだ小さいと言わざるを得ない。だが先述したようにFRBの決定次第で、アメリカが世界のドルを急激に吸いあげ、新興国以下の国々の資金需要をたちまちひっ迫させてしまう事態も起きている。これに比べて人民元の現状は、金利や為替レートにおいて比較的安定した通貨とみなすこともできるのだ。
アメリカでは3月10日から12日にかけて2つの銀行が経営破綻し、世界に衝撃を与えた。一つはシリコンバレーバンクで総資産およそ2090億ドル。もう一つのシグネチャーバンクの総資産はおよそ1103億。アメリカの銀行の破綻としては、史上2番目と3番目の規模となった──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年4月2日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
この記事の著者・富坂聰さんのメルマガ
image by: Shutterstock.com