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発売3日間で20万食を販売。丸亀製麺「シェイクうどん」が大ヒットした当然の理由

軽快な音楽に乗り躍動する若者たちのCMが印象的な「丸亀シェイクうどん」。5月16日の販売開始から3日で20万食を売り上げたという大ヒット商品は、いかにして生まれたのでしょうか。その秘訣を探るのは、フードサービスジャーナリストの千葉哲幸さん。千葉さんは今回、「丸亀シェイクうどん」誕生のキーパーソンを紹介するとともに、丸亀製麺の企業文化を深く掘り下げ解説しています。

プロフィール千葉哲幸ちばてつゆき
フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

丸亀製麺の強みが全面に出た「丸亀シェイクうどん」は何が凄いのか?

全国に約830店舗を展開する「丸亀製麺」(本社/東京都渋谷区、代表/山口寛)では5月16日からテークアウト商品の「丸亀シェイクうどん」を全店で発売している。

これはプラスチックの容器にうどんと具材、そして出汁が入れてあり、食べるときに容器を“シェイク”して、うどんに出汁を絡ませるというもの。発売当初はサラダうどんも2種類あったが、今は「梅おろしうどん」390円(税込、以下同)、「明太とろろうどん」390円、「ピリ辛坦々うどん」490円の3種類をラインアップしている。

この容器は自動車のドリンクホルダーにすっぽりと入るような設計になっていて、自動車の中でうどんを食べるシーンが想定されている。ちなみに同チェーンではコロナ禍まったただなかの2021年4月よりテークアウト商品の「丸亀うどん弁当」を販売して、苦戦する同業他社が多い中で業績を大きく伸ばすことに成功している。販売は継続されて累計3,400万食(2023年4月末)となっていて、同チェーンにおけるテークアウトは有力な販売チャネルとなっている。

ちなみに「丸亀シェイクうどん」の初日売上は「丸亀うどん弁当」のそれと比較すると1.3倍、5月16日から19日の3日間で20万食を販売したという。

発売初日の販売数が「丸亀うどん弁当」の1.3倍を記録した

Z世代に向けた「新しい食べ方」

「丸亀シェイクうどん」のテーマは「持ち帰りの新体験」。これはこの商品のYouTubeを見ると一目りょう然。若い女性が先頭に立って、登場人物がみな躍動している。130人のエキストラが参加して撮影されたという体育館の中でのパフォーマンスが圧巻で、このテーマの狙いが明確に読み取れる。

「丸亀シェイクうどん」のYouTube

ここでは高校生の部活のようなシーン、新入社員のようなシーン等々、コロナ禍にあって抑圧を迫られた層が生き生きとしている。コロナがこの5月8日に「5類感染症」となったことを皮切りに、従来通りの活動を行い、その開放感を全身で楽しもうという思いが伝わってくる。

外に出て開放感を思いっきり楽しむ、といったイメージのテークアウト商品

このおおらかさの中に気づくことは、ここに登場している世代はZ世代であること。これからのメインターゲットに対しての「うどん屋を新しい形で」利用してほしいとメッセージが込められている。そこで感じることは、これまでの「丸亀製麺」のイメージとはまったく異なっていること。店舗そのものが「製麺所」で、粉からうどんが丁寧につくられているというシーンとは真逆と言っていい。

丸亀製麺のマーケティング本部長は南雲克明氏。南雲氏はB to Cのマーケターとして知られてトリドールホールディングスの代表、粟田貴也氏より「丸亀製麺のブランド力を強くしてほしい」と期待をされ、2018年8月に入社。その後、コロナ禍に直面することになるのだが、この間の同社の動向は南雲氏の役割がいかんなく発揮されていると言ってよいのではないか。

「全社一丸」となって取り組む

筆者は南雲氏のリモートセミナーを拝聴したことがある。ここで知り得た丸亀製麺のマーケティング戦略について印象深いことをまとめておきたい。

まず、丸亀製麺が最も重要としているキーワードは3つ。

1番目、「競争しない」。価格競争となれば利益が削られる。競争の先には未来がない。いかにして「競争のない構造的優位」を創っていくかが重要だ。

2番目、「最重要はKANDO(感動)」。顧客は集めるものではなく創るものである。KANDO(感動)こそが顧客を創造する源泉価値であり、人はそれに強く心が動かされて行動(購買)する。

3番目、「二律両立」(トレードオン)。これは造語であるが、ビジネス上一般的に言われるトレードオフではなく、トレードオンこそ価値を生み出すという考え方。事前合理性のない非合理の強さを信じて追及していくことが重要で、それによって独自の市場を創造し構造的優位を構築する、ということだ。

この3つが後述する丸亀製麺の「本能が歓ぶ食の感動体験を探求し世界中をワクワクさせ続ける」というミッションを支えている。

では、マーケターはこのミッションのテーマとなる顧客体験価値(CX)の向上にどのような心構えでのぞむべきであろうか。当事者である南雲氏はこう語る。

「持続的に選ばれ続けるブランド・企業になるためには、そのブランドでしか体験できない顧客体験価値をつくり、時代に合わせて提案し続け、進化させ続けることが重要。これはマーケティング部門・担当者の最も重要な役割の一つです。マーケティング戦略上の最重要課題として、顧客起点で統合的な絵を描いて、全社を巻き込んでリードして、実現することが求められる」

CX向上のためには、まず「全社一丸」となること。丸亀製麺では各部門のすべての戦略・行動が「顧客体験価値向上」というビジョンを実現するように設計されている。

南雲氏が社内で他の部門の部門長と会話をするときに、必ず「それによってCXが向上することになるか」というところに落とし込んでいる。このようなコミュニケーションが丸亀製麺の企業文化となっている。

顧客体験価値を強くするもの

丸亀製麺の企業理念と戦略はこうなっている。

*1:「ドリブン」とは、仕事上で入手するデータをもとにして、経営戦略や人事配置に関する意思決定を行うこと

これをベースにして、

この3つを「感動体験の生命線」としている。この3つが根源価値となって、「感動体験No.1」というビジョン実現につながるように、マーケティング、商品、サプライチェーン、営業、DX、店舗開発・設計、人事等々、すべての部門と連携している。

「一軒一軒が製麺所」のイメージで構成された店内

さらに「顧客体験価値(CX)を強くする2軸の取組」というものが存在する。この2軸とは、一つは「体験の向上」。もう一つは「体験の拡張」である。グラフで示すと「体験の向上」が縦軸となり「体験の拡張」が横軸となる。

「体験の向上」では“感動体験の生命線”である製麺所の風情をお客の感情に伝える。そして、できたて、焼きたて、揚げたて、握りたてを“超”がつくレベルで感じてもらう。さらに「おせっかい戦略」によって、顧客体験価値を向上させていく。

店舗に入ってすぐの場所に「粉」を置いて「製麺所」をアピール

店内では“超”がつくうどんの「できたて」のイメージ

一方の「体験の拡張」とは、丸亀製麺のおいしいうどんが店舗でしか体験できなかったものを、どこでも、いつでも食べることができるようにすることである。具体的には「丸亀うどん弁当」であり「丸亀シェイクうどん」、そして「打ち立て生うどん」を開発して、通信販売を行っている。

丸亀製麺にはこのようなマーケティング戦略が備わっているからこそ、持続可能な経営体質をつくり上げていると言えるのではないか。

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社丸亀製麺

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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