赤ちゃんが飲む母乳にはさまざまな栄養素が入っているものですが、今回のメルマガ『糖尿病・ダイエットに!ドクター江部の糖質オフ!健康ライフ』で、糖質制限食の提唱医として知られる江部康二医師が注目したのは、そのなかでも「糖質ガラクトース」というもの。果たしてどのような役割があるのでしょうか?
母乳に含まれている糖質ガラクトースの役割について
母乳に含まれている糖質、ガラクトースの役割について検討してみます。
日本食品標準成分表2020年版(八訂)によれば、人乳100g(61kcal)中、
・炭水化物:7.2g
・脂質:3.5g
です。
炭水化物のうち、単糖当量が6.7gで、このうち乳糖が6.4gを占めています。
乳糖は「ガラクトース+ブドウ糖」で構成されています。
ヒトが吸収できる単糖には、ブドウ糖、果糖、ガラクトースがあります。
エネルギー補給だけならブドウ糖だけでもいいはずなのに、人乳を含めた哺乳類の乳に、ガラクトースが含まれていることの意味はなんでしょうか?
乳糖が母乳の糖質の80% 以上で、全エネルギーの 約38%を占めます。
乳糖以外には微量のグルコース、ガラクトース、種々のオリゴ糖などを含有しています。
次に糖鎖について考えてみます。
「糖鎖」とはグルコースやガラクトースなどの糖が共有結合で連結し鎖状になった分子です。
糖鎖は、糖転移酵素の反応により多くのタンパク質や脂質に結合し、それらの分子を正しく働 かせるために必要です。
それらの中で、ガラクトース糖鎖は自然免疫のブレーキ的な役割を果たすということがわかってきました。(*)
この記事の著者・江部康二さんのメルマガ
免疫には、ほとんどの生物が持っている「自然免疫」というシステムと、脊椎動物だけがもっている「獲得免疫」というシステムがあります。
細菌やウィルスなどの病原体が体内に侵入したときは、まず自然免疫が活性化し、速やかにそれらを排除しようとします。
自然免疫とは、受容体を介して、侵入してきた病原体などを感知し、それを排除する仕組みであり、生体防御の最前線に位置しています。
ここで活躍している免疫担当細胞は、主に好中球やマクロファージ、樹状細胞といった食細胞です。
その後、自然免疫からの情報を得て、獲得免疫が活性化します。
獲得免疫とは、感染した病原体を特異的に見分け、それを記憶することで、同じ病原体に出会った時に効果的に病原体を排除できる仕組みです。
獲得免疫で活躍している免疫担当細胞は、主にT細胞やB細胞といったリンパ球です。
自然免疫は最前線で活躍してくれていますが、自然免疫も暴走したら、かえって身体に悪影響がでるので、ガラクトース糖鎖が制御しているものと思われます。
なお、ガラクトースは、急速に発達する乳児の中枢神経系の完成に重要な役割を果たすとされています。
(*)ガラクトース糖鎖に関しては、
立教大学理学部、山本美樹PD、後藤聡教授等のご研究のプレスリリース
「免疫力は糖によって調節される!」免疫反応の新しい ON/OFF の仕組みを解明
を参考にしました。
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