政治資金パーティーに関わる裏金疑惑を受けて、安倍派の閣僚4人が揃って辞任。臨時国会が閉会したことで「パー券裏金疑惑」の捜査がいよいよ本格化し、19日には安倍派と二階派の事務所に強制捜査が入りました。今回の政界激動を早くから予言し、過去2回にわたって問題の背景を説明してきたジャーナリストの有田芳生さんは、今回のメルマガ『有田芳生の「酔醒漫録」』で、発端となった神戸学院大学上脇博之教授の告発を紹介。さらに、捜査の指揮を執るトップの経歴に触れ、東京地検側の「本気度」を伝えています。
政界は安倍派を中心に激動を迎える(下)
国会が閉じた12月13日以降、自民党政治は安倍派の崩壊に向けて激震が起きる。14日には新人事により、最大派閥である安倍派の大臣、副大臣はひとりもいなくなった。戦後政治史においても異例な事態だ。2000年以降の日本政治は「清和政策研究会」(いまの安倍派)を中心に動いてきた。7人の総理のうち4人。在任期間でいえば8割が「清和会」で占められてきた。21世紀の四半世紀は「清和会支配」が続いてきたのだ。
政治家がパーティーの売り上げノルマを超えた金額を裏金としてキックバックさせるシステムは、とくに安倍派で突出していた。2018年から22年までのパーティー収入は約6億6000万円と収支報告書にある。議員に還流した金は計上されていないから、収入はもっと多かった。政治資金規正法では、不記載や虚偽記入は、5年以下の禁錮または100万円以下の罰金を課せられる。
『朝日新聞』は12月9日の朝刊で「安倍派6幹部裏金か」とスクープした。座長の塩谷立議員は、数百万円。松野博一官房長官は1000万円超。高木毅国対委員長は1000万円超。世耕弘成参議院幹事長は1000万円超。萩生田光一政調会長は数百万円。西村康稔経産大臣は約100万円。これで終わることはないだろう。
問題の発端は上脇博之・神戸学院大学教授が、自民党派閥の裏金疑惑を告発したことだった。5派閥で約4000万円のパーティ券が政治資金収支報告書に記載されていなかった。「岸田政権─終わりのはじまり」(11月17日号)で紹介したとおりだ。
最初に報じたのは『赤旗 日曜版』(22年11月6日号)だった。そのときは総額で約2500万円の疑惑が報じられた。
自民党の主要5派閥の大規模な政治資金規正法違反(不記載)疑惑が編集部の調べで浮上。同法は政治資金パーティー券を20万円超購入した者の名前を政治資金収支報告書に記載するよう義務付けていますが、脱法的手法により3年間で59件、額面で計約2500万円分が不記載に
これは3年間の不記載額だ。コメントを求められた上脇教授は正月返上でさらに調査、疑惑に対して告発を行ってきた。2018年から22年までに安倍派に1338万円の不記載が明らかになり、上脇教授は安倍派の下村博文前代表代理、塩谷立座長、高木毅事務総長を追加告発した。
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一連の告発を受けて東京地検が、安倍派の会計責任者、議員秘書を任意で事情聴取。その経過で誰にいくらの裏金を渡したかを記したリストを入手。国会が閉じた翌日の14日から議員本人からの事情聴取を行う方向だった。しかし新大臣の認証式もあり、予定は変更された。18日以降に動きがあるだろう。※編集部註:19日午前に安倍派、二階派に強制捜査が入った
東京地検特捜部は本気だ。こんどの安倍派に狙いを定めた検察捜査の決裁をするトップは甲斐行夫検事総長だ。証拠が揃えば相手が誰であれ起訴することで知られている。安倍派であろうが岸田派であろうが躊躇はない。
捜査の指揮を取っていると見られるのは、森本宏最高検刑事部長だ。東京地検特捜部長のときには、河井克行、案里議員、秋元司議員を逮捕、起訴している。森本最高検刑事部長は、林真琴最高検前総長の直系だ。林氏は私が法務委員会に所属していたときに、法務省刑事部長などを歴任、冷静な答弁は重厚だった。飄々とした黒川弘務東京高検検事長とは一味違い人格的にも論理に固められたスタイルだ。森本特捜部長の後任が新河隆志東京地検次席検事で、吉川貴盛元農水省の収賄事件や公明党の遠山清彦議員の貸金業法違反事件を担当した。
安倍政権が黒川東京高検検事長の定年を延長し、検事総長に就任させようとしたことに、世論も検察OBも批判を強め、黒川賭け麻雀スキャンダルも発覚し、結局は実現できなかった。安倍晋三政権は「一強」政治の勢いで司法にまで権力行使の手を伸ばしていたのだ。この経過をおさえておけば、現在の問題は「政治権力(安倍派支配)」VS「検察」なのである。2023年末の政界激震は24年まで続く。
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