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中国の警告「米国頼りの危うさ」に真実味。外されたウクライナの“梯子”

2023年が暮れようとする今、年の初めに現在の国際情勢を予見していた人はいたでしょうか。武器支援によって反転攻勢が期待されたウクライナは防御に回ったロシアに苦しみ、ハマスの越境テロを機に始まったイスラエルの報復が苛烈を極めたために、西側の結束には綻びが見え始めました。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』で、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授は、今年1年を振り返り「隔世の感」と表現。中国が台湾に向けて警告してきた「米国頼りの危うさ」に真実味が出てきていると伝えています。

台湾総統選挙が近づいても派手に動きをしない中国の戦略の変化を見落としている日本

隔世の感、とは目まぐるしく変化する世の中を表現した言葉だ。暮れ行く2023年、激しく動いた国際情勢の1年を振り返ってもピタリとくる言葉かもしれない。

何より、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を手放しで歓迎してきたアメリカの変心は象徴的だ。いまやゼレンスキーは、深まる冬のなか前線でロシア軍と向き合う兵士たちよりも厳しい寒風を感じているかもしれない。

この冬、多くのメディアが「冷遇」と報じたアメリカ訪問を終えたゼレンスキーは、ヨーロッパに戻っても頭上の曇天を振り払うことはできなかった。

12月14日から開催された欧州連合(EU)首脳会議では、ウクライナとモルドバの加盟交渉が開始されることが決まったものの、その直後にハンガリーのオルバン・ビクトル首相がEUの大規模なウクライナ支援策に拒否権を行使したからだ。EUの加盟交渉で進展があったものの、支援は暗礁に乗り上げた。英『フィナンシャルタイム』はこれを「(EUが)片手を差し伸べて、もう一つの手を引っ込めた」と表現した。

アメリカのウクライナ「離れ」は、10月にイスラム武装組織「ハマス」による大規模な越境テロが起きて以降、加速度的に進行したように見える。一寸先は闇、を地で行く国際政治を象徴しているようだが、そこにあるのは「支援疲れ」と表現される経年だけの問題ではない。民主党と共和党の国内での対立や、国際社会におけるアメリカの立場の変化という事情も絡んでいる。

なかでもイスラエルのガザ地区への攻撃はバイデン政権にとって頭の痛い問題となってのしかかった。ハマスによるテロへの報復として、ガザ地区への大規模爆撃と地上部隊投入に踏み切ったイスラエル軍が、あまりに多くの民間人を犠牲にしたことに対する反発が国際社会で広がり、その一部がイスラエルを支持するアメリカにも向けられているからだ。ガザ地区での死者はすでに1万8600人を超え、その多くが女性や子供だと伝えられているのだから当然だろう。

メディアの論調も厳しく、米CNNは14日、「イスラエルがガザに投下した兵器、半数近くが無誘導弾 米情報機関分析」というタイトルで記事を配信。そのなかで「イスラエルが使用した2万9000発の空対地兵器のうち約40~45%は無誘導」だったと批判した。「ダムボム」など無誘導弾をガザのような人口密集地で使えば「民間人への危険性が増す」として、「無誘導弾の使用比率の高さが民間人死者数の増加につながっている可能性がある」と指摘したのだ。

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イスラエルを訪問したジェイク・サリバン大統領補佐官(安全保障担当)も、低強度でピンポイントに攻撃を行うことをイスラエルに求めたと伝えられる。12日にはジョー・バイデン大統領も「イスラエルはガザ地区に対する『無差別攻撃』によって国際社会の支持を失いつつある」とこれまでにない厳しい口調でイスラエルに苦言を呈し、話題となった。

だがネタニヤフ政権は、対ハマス戦が「長期間続く」との見通しを示し、強硬な姿勢も相変わらずだ。アメリカがイスラエル支持を変えることは現状では考えにくく、バイデン政権に降りかかる火の粉は当面弱まる兆しもないのだ。

パレスチナ問題に翻弄されるアメリカが、ウクライナに割ける関心は弱まらざるを得ない。結果として「梯子外し」になってしまいかねない状況なのだ。

ここで目を中国に転じると、思い出されるのは、かつての中国が繰り返し台湾に向けて発した「アメリカに頼ることの危うさ」という警告だ。その意味では目の前のゼレンスキーの窮状は、絶好の事例が降ってきたに等しい。いま「ウクライナこそ明日の民進党政権」と喧伝すれば効果は絶大だ。

しかし、習近平政権は意外なほど静かだ。2022年8月、ナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が台湾訪問を強行したころの反応と比べれば、隔世の感だ。

台湾総統選挙の終盤にきて目立っているのは、民進党の影響下にあるとされる農作物の輸入の制限を続けていることくらいだ。今後は民進党政権が設けている対大陸の貿易障壁(2509品目に対する輸入制限など)を理由とした対抗措置だが、それも選挙を直撃するような話とはいえなさそうだ──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2023年12月17日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by:Gints Ivuskans/Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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