【高城剛×佐渡島庸平 物語時代の未来予測】 無限の物語を生み出すAIに作家と編集者は勝てるのか?

2024.02.01
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

AIはイチから漫画を作れるのか?

高城:たとえば、Appleは別にコンテンツを作る云々ではなく世界観を提供していますよね。より世界観が強固な時代にこれから変わっていくんでしょうか。

佐渡島:そう思います。ただ僕が思うに、売れる物語には、強固な世界観があるんですよ。それを物語と呼ぶか、世界観と呼ぶかの違いだと思います。

高城:物語は一応起承転結や、全員に共通のものがあるとするなら、世界観はもうちょっと緩やかな大きなビジョンや枠組みがあります。その大きな世界観の中に個別の物語がある。大きな物語があって、それが個別に照射されるみたいなイメージなんですが。

佐渡島:そうですね。作家と打ち合わせしてると、世界を持っていて、その世界の中に作家がカメラを回しに行き、それを編集して出すのが漫画という感じなんです。なので、違う角度からその世界の物語に光を当てたりすることはできるだろうなと思います。強固な物語を作ると、例えばそのサブキャラクターに付随した設定や世界観を、AIが補強して新しい世界が作られるということもあるかもしれません。

ただ、「宇宙がテーマ」というような、いくつか中程度なキーワードだけを入れたりしただけでは、平凡な世界観になってしまいます。そこに、もっとヒットを軸とした話がしっかりとあり、そこでサブストーリーも描かれていて、さらにAIが補強していくことで色んなふうに楽しめる世界観が築かれる。読者Aさんが、「私は『宇宙兄弟』のせりかに興味がある」とします。そこを作家は描いてはいかないけど、AIが補強してくれて、せりか側のものも見られるとか、そういうことが起きるような気はしてるんです。

高城:そこは、作家側の視点なんですね。一方、受け手側の視点からみますと、既にAIは僕のことを知っていて、そのセンスや価値観のようなものから編集をAIが行って、必要な物語をかいつまんでリミックスして持ってきてくるわけです。そうすると、編集そのものが人じゃなくなってしまうんじゃないかと思うんです。

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佐渡島:その通りだと思います。ただ、AI周りのことをコンテンツでやっていて感じるのが、まず世の中の変化は、インターネットが台頭したときでもコンテンツのDXは超遅かったということです。

高城:ポルノだけでしたよね、真っ先に進んだのは。

佐渡島:ポルノのAIも今はすごいですけど、基本的にお金が大きく動くところからじゃないと変わっていかないんです。AIは、金融と医療などから開発されていくでしょう。エンジニアの人たちにもコンテンツ好き、漫画好きな人たちもいるとは思いますが…。コンテンツの創作過程への理解みたいなものが浅いと感じるので、そこをサポートする必要があります。なので、コンテンツ周りのAIは、そうそう簡単に開発されないなと思っています。

高城:アドテクは、2008年から9年に急速に伸びたんですけど、あれは結局リーマン・ショックで金融エンジニアの人たちが首を切られて、広告業界に流れたから急速に発展しました。

佐渡島:そういう流れなんですね。

高城:今後、世の中が不況になると、エンジニアがコンテンツ業界や広告業界に流れていって、世界観の中で物語を提示して、何かマーチャンダイズに誘い込むことをしてお金にしようとするのかもしれませんね。

今までは、コンテンツそのものにお金を払っていましたが、コンテンツと深い関連がある商品が増えれば、一気に今までない流れができますよね。つまり、世界恐慌で映画産業が伸びたように、次の金融恐慌の後に、あらゆるものがディズニー商法のようなやり方で花開く可能性があるんではないかなと今、思いました。

佐渡島:確かにそうです。今日僕が着ているのは「宇宙兄弟」のグッズとして展開したパーカーですが、キャラクターたちが身につけている服も、僕らは作って販売しています。でも今はまだ、電子書籍を読んでいて、クリックしたらそれが買える仕組みになっていません。ドラマもそうですよね。それをAIが全部保管して、コンテンツの中から物をどんどん買っていく。世界観が豊かなものになったら、むちゃくちゃECのコンバージョンがよくなるということが当たり前に起きるわけですね。

高城:音楽業界もそうで、ライブ自体はたいして儲からないけど、コンサートグッズのTシャツの売り上げがすごかったりします。いわば矢沢永吉タオルモデルですが、これがあらゆるコンテンツで起きる可能性があるということですよね。

佐渡島:音楽よりもっとナチュラルにコンバージョンするので、漫画はより大きくなってくる可能性は高いと思います。

いま、AIによって「漫画の背景ができる」と言いますが、まだまだ素人から見れば使えるレベルなんですよ。漫画家からすれば、構図をビシッと決めたいのにフワッと出されるとパースが狂って…というレベルです。「その違和感では、人は読めないんだよ」と。その微調整が大変なんですが、まだそうしたAI開発は全くされていません。

高城:それも時間の問題でしょうか?

佐渡島:最終的にはそうしたものは開発されるでしょうが、時間というか、リソースの問題が大きいんじゃないでしょうか。漫画のインターネット化、DX化が遅れたことは、出版のそれが遅れたのと同じことだと思います。まずコンテンツ業界が著作権云々を言い出すと、エンジニアからすれば「使いたいなら、学習させない限り使えないんだぞ」となり、「それがいやなら、じゃあいいよ」というふうになりそうな気がしますね。

高城:諸刃の剣かもしれませんよね。背景もですし、ハリウッドの有名な俳優もデジタルスキャンされ、ビミョーに変えて新キャラが出来たら、永遠の命になります。こうして、新しいミッキーマウスが誕生するわけです。メタ時代に突入し、僕らそのものが半永久的に画面の中へ位置づけられる時代になってきたわけですが、どこでオリジナルと線引きするんでしょうか?

佐渡島:無限にどんどんデジタルスキャンが出てくると、それも勝手にAIが生成した人物も変わらなくなりますね。今はリソースが有限の中で、真似られたら困ると言っている。「この人にお金を払う」とか「この人じゃ駄目だとか」という意思決定の仕方は、コンテンツが無限にあると全く変わるはずです。そのときの意思決定の仕方を想像せずに、今は現状の意思決定の仕方でルールを決めようとしています。AI自体の学習を止めると、その産業自体がただ遅れていってしまう。

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高城:少し飛躍した変な話になりますが、やがてはAIが漫画をイチから描く時代が来るとお考えですか?

佐渡島:全くそうは思いません。

高城:つまりはシンギュラリティ(Singularity、技術的特異点)の話ですが。

佐渡島:AIを使っていけば、AIが作ったものをAIが見たりする時代はいずれ来ます。だけど、その中で人間がどう意思決定していくのかは非論理的で、最後、そこのディスカバリーの仕方と意思決定の仕方っていうのは…。

高城:守るっていうことですね。簡単に言うと、AIに渡さないというか。

佐渡島:渡さないではなくて、人間は、そこは何か違う理由で動いたりすると思うんです。

高城:オープンAIのサム・アルトマンが解任されたとき、「いよいよCEOもAIの時代でいいことがわかったんだ」と思ったんですよ。でも、アルトマンが「マイクロソフトに行く」と言ったら、働いてる人たちもみんな「私もついて行く」となりました。それを見て、「なんだ、人間関係なんだ」と(笑)。オープンAIですらウェットなところにいるんだと思ってがっかりしたんですね。もし、「いや、うちはもうCEOはAIでいいです」って言ったら、相当画期的だったなと思うんですよ。

佐渡島:その方が面白かったですね。

高城:はい(笑)。今は笑い話ですが、多分そんな時代は来ると思っています。実際にゴールドマンサックスは、トレーディングルームの500人全員をクビにして機械学習でいいという時代になったように。すみません、お立場考えると申し上げにくいのですが、漫画家も少しづつAI化していく気がしてならないんですよ。僕は、いま考えると居心地の悪い未来に、常にリアリティを感じます。

佐渡島:AIを使うパイロットこそが、クリエイターと呼ばれる気がしますね。昔、DJはミュージシャンと同等ではなかったけど、いまは同じ扱いになっているように。

高城:むしろミュージシャンより稼いでます。DJは、まさに金融効率のメリットがあるんですよ。バンドはツアーに出ると、ドラムやアンプや諸々の機材を運ぶのが結構大変です。ところがDJはラップトップ1個で済む。1日、2ステージも難なくこなせ、移動も楽なため、投資する側、つまりエージェント側はDJの方が稼げるから、どんどんシフトしていったのだと思います。

みんなが家で、音楽をヘッドホンで聴いたり、映画館に行かず大型テレビで配信を見るようになったのも、テクノロジーの変化が背景にあると思います。いいスピーカーで聞いた方がもちろん音は良いけど、ヘッドホンでも十分という人たちが増えたわけです。そうすると、いつの日か漫画家が人かAIかを気にしない世代が増えてくるんじゃないでしょうか?

佐渡島:僕は、そうは全然思いません。そこのテイストだと思うんですよね。もしAIが、僕らが好きなテイストで出せば、僕らは気付かない可能性は出てくるのかなとは思います。

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