エンタメは観る時代から作る時代へ
高城:いろいろとAIの可能性も問題もありますが、僕は生産数の大きさが魅力のひとつだと思っているんです。週に1つしか作れなかったものが、AIだと週に200も可能です。数が多い方が当たる確率も上がりますよね。コンテンツの巨大時代で生き残っていかなきゃいけないわけですよね、AIを相手に。
佐渡島:無限にコンテンツがある中だと、どの物語が本当に感動するのかが勝負を分けるのかと思います。仮に、東京の寿司職人トップ50に握ってもらったマグロを50個、連続で食べ比べるとします。そのどれがうまいかを、きちんと順序付けて並べられる舌を持つ人は非常に少ないでしょう。
コンテンツも無限に出てくると、その中から「このコマはこれ」「このコマはこれ」とずっと選び続けていった集積として、いい漫画ができてくる。だからAIがいっぱい作ってきてくれるとか、一連の流れはやってくれるとなると、下手をすると今のトップレベルのものはAIが作れるかもしれません。
でも、その中からさらに高みを目指していくものを選び抜ける人…そこの選択は人に依るということが起きるんじゃないでしょうか。まさにそれがDJ的で、AIが作った一コマ一コマの中から、ずっと選び続けて集積したもので、すごく感動するものをどう作っていくかなのかなと思います。
高城:マーケティング・パワーというかコスト次第のようにも思えますが、選ぶのはのは、人? それとも、AIですか?
佐渡島:人が、そこを選んでいく。
高城:そこはやっぱ人なんですね。
佐渡島:ただ、プレイリストのように、AIをAIが選ぶっていう…。今、AIがビッグワードすぎて、違う才能や能力も全部をひっくるめてAIと言ってしまっていますが、作るAIと選ぶAIは別で、人は選ぶAIを信頼していくってことは起こり得ると思います。
プラットフォームの中、AIが作ってAIが評価して、AIとAIが作ったのと評価の良かったやつを、またAIを置いて、さらにそこへ人間も置いて…みたいな感じで、ネット空間には、AIのBotみたいなものが多数存在する世界は来るだろうとは思っているんです。ただそれが、コンテンツに来るのは、10年、20年はかかるんじゃないかと。
高城:僕は全然違うことを考えていて。やはり、物語は少しずつ喪失しているのかと思っているんです。佐渡島さんや僕の時代は、漫画のコミックが出るのが楽しみで、何巻、何十巻もの作品を読みました。今もそうした作品はあります。
でも、TikTokを見てると1分で、そこに物語は何もなく、あるのはインパクトだけです。そうしたものが増えて、インパクトの断片を集めて、各人が勝手に物語を作る時代になりました。今の中高生は、韓国ドラマも長いと言い始めています。僕も佐渡島さんも物語を作る仕事なのに、どこかで必要とされなくなるという気がしてなりません。それも、わずか十年程度のスパンのなかで。面白いかどうかはさておき、その感覚が佐渡島さんとは異なる気がしたので伺いました。
佐渡島:難しいところですね。ですが、人間の生きてる時間って、全部同じ色には染まっていないですよね。これまでの僕らは、長く時間がかかるドラマとか、読むのに時間がかかる本とか、じっくり会って話すとか、そういう長い時間に対して使う時間がスケジュールの中で7、8割だったと思うんです。細切れの時間の使い方は少なかったんですが、今はそっちが7、8割になろうとしている。まさに、TikTokとかですよね。その変化はすごい重要だなと思っています。
高城:刹那的ですが、かつては長編巻物の時代もありました。コンテンツは、年々短くなっていますね。
佐渡島:そのコンテンツに価値があると感じますが、こっちの2、3割が0になることはなくて。以前は届けようがなかった短くてインパクトのあるものが、今はTikTokとかで届けられるようになった。さらに、そこにアルゴリズムが働くようになって、出会いがスムーズになってて気持ちよくなってるわけですよね。
この2、3割のところが減ってくると、より重要で価値が高まると思っているし、もっとお金を払ってくれることが起きたりするかもしれない。今まで僕らはちょっとしたハズレドラマを見ることもOKでしたが、「いやいや、もう、しっかりと10時間見るんだったら、とてつもなく面白いものを作ってくれよ」となっていくのかなと。
高城:なるほど…。お気持ちはわかりますが、失礼ながら佐渡島さんのご意見が、僕には少し希望的観測に思えてしまいます。というのも、僕が子供の頃にLPレコードだったものが、CDになり、今や1曲単位で聴かれます。その1曲の平均が2分何秒と、どんどん短くなっています。残ってはいるけど、一世を風靡した30分もあるプログレッシブ・ロックは、いまや見向きもされません。チャートを見ると、ギターサウンドすら、ほぼ皆無です。
レコードのA面、B面を誰も知らないし、レコードジャケットで表現されていた物語もない。曲順にも物語があったけれど、そこも喪失しましたよね。それが他のもの、特に限りある時間を奪い合うあらゆるものにも起きるんじゃないかなという気がしてならないんですよ。情報過多時代で、皆、忙しいから。自分も見失うはずです。
DJの話が出たのでついでにお話しますが、ミックスの1曲の平均使用時間1分42秒です。バンドのフル尺なんて聞いていられないんです。時間の感覚がそうなってきている。繋ぐのを今は人がやりますが、AIミックスも相当良くなっていて、もはや人は立っているだけで実際はAIがやっても誰も気づかないんじゃないかなというレベルに来ています。
佐渡島:そういうことは、全体として起こりえるでしょうね。
高城:最近流行っている「ちいかわ」にも、ほぼ物語はないですよね、ゆるい世界観程度だけ。そういうものがお金になる世の中へとシフトしている気が、今日のお話を伺いすごく強くなりました。しっかりとした物語が重要ということは、僕もとても賛同しますが、もはや脱神話の世界に生きているように思えてなりません。神かAIなのか。
だからこそ、あえてこの言葉を使いますが、物語を“復権”させるためにどうすればいいのでしょう。
佐渡島:強く長い物語が作れる人は、時間かけて育てないと多分できないものなんですよ。

高城:復権させるには、物語を作る側も儲かることをある程度示さなきゃなりませんよね。
佐渡島:そこは常に考えているところです。さきほどの、広告とコンテンツと、そして僕らのような存在を仲介するとき、コンテンツだけで儲けることは難しいので、うちの会社としては漫画家と広告をどう結びつけるか、すなわち広告マンガのところにかなりリソースを割いたりもしています。
また、漫画自体も物販で収益をあげにいったりしながら、ある種、インパクト、刺激を作りに行かないコンテンツを創るクリエイターを育てるための体制を、会社としては造ろうとすごく力を注いでいるんです。
少し話は外れますが、僕は結構、仏教に興味を持っているんです。お経はその昔、日本人なら空海や最澄みたいに中国に命懸けで渡って取りに行きました。「西遊記」で知られる三蔵法相はインドまで行きましたよね。長く難しかったお経が、時を経て鎌倉時代には「南無妙法蓮華経だけでいい。それだけでご利益ありますよ」というように変わりました。どんどんそういう方向に行ったんです。
高城:時代の速度と共に、変化したわけですね。
佐渡島:はい。いまの「1分で話せ」みたいなことが、仏教でも起きていた。映画や音楽、どのジャンルも、それを短いサイクルで届けてくれという要望は世の常だなと思います。
高城:確かにキリスト教でも同様に短くなる傾向がありましたが、グーテンベルク(ドイツ/15世紀に活版印刷を発明)以降、テクノロジーにより聖書が印刷されるようになると、また変化が起きました。写本の必要がなくなり、コストが限りなく0になっていったわけです。それによってキリスト教は“復権”し、コンテンツも冗長になり、世界中のローカルコミュニティへと伝播しました。そう考えると、どこかでメディアの変化が大きくなるんじゃないでしょうか。
佐渡島:ええ。今話していてハッとしましたが、YouTuberとして人気のひろゆきさんは、ただだらだら話しているだけですよね。くだらない話で、ダラダラ繋がることの価値が大きくなっていたりも、一方で起きています。先ほどおっしゃっていた「パーソナライズしたもの」だと、人って不思議と長くても耐えられる気がします。
「電波少年」シリーズのプロデューサーだった土屋敏男さんが、非常にユニークな劇をやっていて。入口で3Dスキャンした後、舞台のはじめ30分くらいはショーを見せるんですが、その間にデータ生成をしているんですよ。それが終わると、自分の3Dスキャンと周りの人たちの3Dスキャンが踊るのを見るという内容でした。その時、気づいたんですが、どうしても「自分3Dが踊ってる」のを見ちゃうんですよ。周りのみんなも自分のを見てしまうし、データであっても自分がセンターで踊るとめっちゃ嬉しかったりするんです(笑)。
高城:卒アルも基本的に自分の写りしか気にしてませんものね(笑)。さきほどは、物語が消失すると言いましたが、実はその後に喪失するのは個性だと思っています。全員が躍っている中で、自分なら見分けられるから見てしまいます。でも、そうしたデータも似たような感じになっていくんじゃないでしょうか。パーソナライズされると言っても、近似値に近いところまでどんどん追い込まれるから、没個性になるだろうと思っています。すでにファッションは、その傾向が見て取れます。
佐渡島:着ている服や髪形など、外見的要素は似てしまいますからね。それでも結局見てしまうのは、本能的に自分への興味があるからでしょう。
高城:最後に残るのは、アイデンティティというのは簡単ですが、単に名前が書いてあるだけのようにも思えます。「これは佐渡島さん用ですよ」「僕用ですよ」と渡された漫画が、全員違うストーリーだとしても実はほぼ同じなんだろうなと。もはや記号です。
佐渡島:実際のところは、そうなる可能性が高いですね。
高城:名前が書いてあることだけが、とても価値があるような気がして。
佐渡島:パーソナライズと聞くと、全然違うものが出てくると思いますが、DNAだってそんなに変わるわけがないので、コンテンツ自体もまるで違うものが出てくるわけではないでしょう。ちょっと違うものが出て楽しめるという可能性はあります。
高城:ほぼ、その人の名前書いてあるだけの違いということもあるのでは?
佐渡島:そうなるかもしれません。それでも、物語の中に自分の名前があると、やはりすごく気になるんじゃないでしょうか。
……と、ますます面白くなってきた対談は、以下のような項目も含まれております。初月無料の二人のメルマガに登録すればすべてが読めます
【エージェント会社「コルク」誕生秘話】
【日本にエージェント制度は根付くのか?】
【ジャニーズ問題はエージェント時代の転機となるか?】
【なぜアメリカではエージェント制度が根付いたのか?】
【日本はハリウッドより中国を狙うほうがいい】
【あまりに早すぎた「宇宙兄弟」の世界進出】
【クールジャパンは何が問題だったのか?】
【コルクの海外進出の可能性は?】
【作品の短時間化は止まらない】
気になるこの続きは2024年2月中に高城剛さんの2024年2月配信のメルマガ、または、佐渡島庸平さんの2024年2月配信のメルマガで読むことができます。是非ご登録してご覧ください。
この記事の著者・高城剛さんのメルマガ
この記事の著者・佐渡島庸平さんのメルマガ
高城剛(たかしろ・つよし)
Louis Vuitton、SONYなど100本を超えるCMやミュージックビデオ、連ドラなどの監督およびプロデュースを務める。東映アニメーション社外取締役や総務省情報通信審議会専門委員など歴任後、2008年より拠点を欧州へ移す。著書は『不老超寿』『2035年の世界』『いままで起きたこと、これから起きること。』など、累計100万部を超える。著書の販売やカスタマーレビューにおいて最も成功をおさめたKindleダイレクト・パブリッシングの著者に対して授与するAmazon KDPアワードを受賞。2022年には自身が脚本/監督/撮影を務めた初の長編映画『ガヨとカルマンテスの日々』を公開した。
佐渡島庸平(さどしま・ようへい)
2002年に講談社に入社後、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などの編集を担当。
2012年に講談社を退社。日本初となる作家のエージェント会社・コルクを設立。『宇宙兄弟』の映画化『ドラゴン桜2』『君たちはどう生きるか』などの制作を担当。2023年には内閣が主導する「AI戦略会議」メンバーにも選ばれた。









