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都知事選が炙り出した「既存政党」終わりの始まり。古い自民党政治を倒す第三勢力「デジタルイノベーショングループ」の台頭は日本を救うのか?

現職である小池百合子氏の圧勝で終わった2024年東京都知事選挙。参院議員を辞職し出馬した蓮舫氏が惨敗を喫した一方で、前安芸高田市長の石丸伸二氏が意外にも2位という驚きの結果を出しましたが、識者はこの選挙をどう見たのでしょうか。政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは今回、都知事選を「話題に事欠かない選挙戦になった」とした上で、石丸氏やエンジニアの安野貴博氏らの躍進が何を示唆しているのかについて詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:新しい選挙スタイルの台頭。立命館大学教授が混迷をきわめた東京都知事選を総括する

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

新しい選挙スタイルの台頭。立命館大学教授が混迷をきわめた東京都知事選を総括する

東京都知事選挙は、7月7日に投開票された。小池百合子・都知事が国政復帰するのか否かから始まり、過去最多の56人が立候補して選挙ポスター掲示板の数が足りなくなったこと、その掲示板にわいせつと疑われる写真や、候補者と直接関係のないポスターが多数貼られた問題、「学歴詐称VS二重国籍」と揶揄された小池百合子・東京都知事と蓮舫・元参院議員の「女の闘い」など、話題に事欠かない選挙戦となった。

結果は、小池氏が全体の4割にあたる291万8,015票を獲得し、3回目の当選を果たした。石丸伸二・前安芸高田市長は165万8,363票を取って2位に躍進した。蓮舫・元参院議員は、128万3,262票の3位にとどまった。

特に、選挙戦を盛り上げたのは、石丸伸二・前安芸高田市長や人工知能(AI)エンジニア・安野貴博氏、作家・YouTuber・ひまそらあかね氏らの立候補だ。SNSを駆使した、新しい選挙運動スタイルや、既存の政治の常識を覆す選挙公約の打ち出し方で、当初の予想を超えて大健闘したといえるだろう。

この現象は「変わった個性を持つ人」が立候補したという一過性のものだとは思わない。筆者は、今後の政治の対立軸が「ネオ55年体制」という保革対立が復古するものであるとは思わない。次第に「社会安定党VSデジタルイノベーショングループ」という、新しい対立軸が浮上してくると主張してきた。

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言い換えれば、共産党から自民党までを含む「既存の政治」の外側に、新たな対立軸が現れてくるということだ。石丸氏、安野氏、ひまそら氏らは、新しい政治勢力「デジタルイノベーショングループ」なのだろうか?私の過去稿と、彼らの言動を比べて検証してみたい。私は、「デジタルイノベーショングループ」を以下の通り説明してきた。

「市場での競争に勝ち抜いて富を得ようとする人たちの集団」である。具体的には、SNSで活動する個人、起業家、スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどだ。彼らは政治への関心が薄い。「勝ち組」を目指す人たちにとって、社会民主主義的な「格差是正」「富の再分配」は逆効果になるからだ。彼らの関心事は、日本のデジタル化やスーパーグローバリゼーションを進めることである。そして彼らは、政治を動かす必要があると判断すれば、現政権を批判する政党を時と場合に応じて支持する。その支持政党が「野党」となる。

いかがだろうか。石丸氏を例に考えてみたい。京都大学経済学部卒、三菱UFJ銀行入行。為替アナリストとして、子会社・MUFGユニオンバンク初代ニューヨーク駐在として赴任。文句なしに「市場での競争に勝ち抜いて富を得ようとする勝ち組」である。

石丸氏という「デジタルイノベーショングループ」の政治家

そんな人が、大企業を退社し、2020年7月、安芸高田市長に転身した。当時の市長が、衆院議員だった河井克行から現金60万円を受け取った責任で辞職し、市長選が行われた。副市長が立候補を表明し、無投票当選が予想される故郷の状況に危機感を感じ、石丸氏は立候補を決断して、当選した。

石丸氏は安芸高田市長を1期務めたが、徹底して議会と対立姿勢を貫いた。市議会で居眠りをした議員を「恥を知れ!恥を!」と批判した。それがSNSを通じて全国的に広がり、大きな話題となった。

石丸氏は、「議会を敵に回すとマズイ」「議会に従わないと、政策に対して一方的な反対を受けるだろう」「市長が議会に大人しく従っていれば、議会は政策を通してくれる」という考え方は極めて不健全と主張した。

地方自治体は、首長と議会議員をともに住民が選挙で選ぶ「二元代表制」という制度だ。市民の代表である市長と議会議員が、議論を重ねて自治体運営にあたることができる仕組みで、市長と議会が対立することは、本来のあるべき姿とも訴えた。安芸高田市長時代、馴れ合いの既存の政治を一貫して否定してきたということだ。

都知事選でも、完全な無党派を貫いてきた。例えば、地方主権を主張してきた日本維新の会は、石丸氏と政治的主張が似た部分があると思われたが、石丸氏はその支援をきっぱりと断ったという。

しかし、石丸氏は徹底的にSNSを駆使する戦略で、急激に支持を拡大した。その支持はSNS上にとどまらず、街頭演説でもすさまじい聴衆を集める盛り上がりを見せた。蓮舫氏を上回る得票を得て、2位に入ったのだ。

このように、石丸氏は「勝ち組」の中から、既存の政治を徹底的に否定する存在として登場した。だが、石丸氏は都知事選に勝利することはできなかった。その意味で、少なくとも現時点では「野党」的な存在でもある。

本来は自らのキャリアアップに関心がある人ではあるのだろう。しかし、キャリアアップの邪魔になりかねない古い既存の政治に危機感を感じ、それを変えるために勝ち組から政界に参入したといえる。その意味では、まさに「デジタルイノベーショングループ」の政治家が現れたといえるのではないか。

堀江貴文氏が口にしていた注目すべき発言内容

そして、もう1つ興味深い現象が起きている。昨年放送されたインターネットテレビ番組『ABEMA Prime』で、実業家の堀江貴文氏が注目すべき発言をした。具体的な発言内容は以下の通りだ。

(自民党に対抗できる勢力は)マネーと志と戦略があったら作れる。前明石市長の泉房穂さんは、次の総選挙で政権を取れるぐらいの発言をしている。(中略)彼のところに前澤友作のような人が1,000億円を入れると言ったら政治は変わる。そこにインフルエンサーも絡んできたら、小選挙区も比例も一気に獲得して、政権交代する可能性はあると思う。
(23年12月1日付のニュースサイト『ABEMA TIMES』を参照した)

堀江氏による一連の主張は示唆に富んでいる。都知事選で完全無党派を貫く石丸氏だが、勝手に応援する人たちが現れているのは興味深い。例えば、ドトールコーヒー創業者・鳥羽博道氏が石丸氏の支援者となっていることはよく知られている。

鳥羽氏は、石丸氏について以下の通り語っている。「私はかねて国の少子化や財政破綻に危機感を感じていました。石丸さんを動画で知り、あっ、この人だと。都知事選に出るという話を聞き、“あなたこそ日本を変えられる人だ”と手紙を書いて、3週間ほど前、6月初旬に都内で会いました」「僕はいくらでも献金していいと思ったのですが、友人から弁護士に相談しろと言われた。それで弁護士に聞いたら(個人献金は)150万円を超えては駄目だということでしたので、150万円だけ寄付しました。また以前、僕が副会長をやっていたニュービジネス協議会の人々が4,000万円、私も1,000万円、合計5,000万円を法律に沿って貸付けてもいます」と語っている。

そして、鳥羽氏が、各種メディアが“選挙の神様”と持ち上げる選挙プランナーの藤川晋之助氏を石丸氏に紹介し、その藤川氏が選挙本部長を務める小田全宏氏に声をかけ、選挙態勢を整えたという。また、前述の堀江氏や、ひろゆきしなど多くのインフルエンサーが、石丸氏にエールを送っている。

要するに、「デジタルイノベーショングループ」の政治家に、資金・集票力の両面で支援する。同グループのインフルエンサーが影響力を生かし、支援したい人物の認知度向上に一役買うという動きが起こってきたといえるのかもしれない。この動きが本格化すれば、自民党に取って代わる第三勢力が、既存の対立項の「外側」から突然やって来ることは、リアリティを持ってくる。

その意味で、むしろ都知事選の後の石丸氏の動向に注目だ。後に続く人も次々と出てくるかもしれない。本当に政治がダイナミックに動き地殻変動が起きるのは、むしろ都知事選の後なのかもしれない。

サイレンマジョリティの支持獲得を重視し圧勝した小池氏

3回目の当選を果たした小池氏の話に移りたい。小池氏は、今年4月の衆院東京15区補選で乙武洋匡氏を担いで惨敗し、国政復帰、日本初の女性首相の悲願達成の道を事実上絶たれた。「学歴詐称疑惑」の問題を蒸し返され、刑事告訴されるなど、強い逆風に晒されていた。

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それでも、前回都知事選の約366万票から約70万票得票を減らしたものの、圧勝という結果となった。小池氏は、政治家としての圧倒的な力量を示したといえる。

小池氏は、選挙戦で現職の強みを生かして、徹底的に組織票を固めた。選挙前から、新宿区の吉住健一区長、調布市の長友貴樹市長、瑞穂町の杉浦裕之町長ら都内の52の区市町村の首長が小池氏に出馬要請した。続いて、公明党が支援を表明した。「政治とカネ」の問題に揺れる自民党は表立っては動かなかったが、小池支援で固まった。

小池氏は、街頭演説は週末を中心とした。公明党、自民党も党派性を出さない方針で、応援弁士に立つことはなかった。その代わり、都の施設や民間事例を見て回る「行政視察」を行った。奥多摩湖のダムや八王子市学校給食センター、民間の介護研修施設などなど、選挙期間中に20カ所近くを相次いで訪問し、1日に4カ所巡ることもあった。視察先は、防災や子育て施策など、2期8年の任期中に力を入れた政策に関連する場所が多かった。現職としての仕事ぶりをアピールする「舞台」だった。

そして、本来は立憲民主党支持のはずの連合が、小池氏への支持を表明した。蓮舫氏が、共産党の支援を受けていることが理由であったが、小池氏の都知事としての業績を高く評価していることも強調した。

一方、小池氏は無党派層の約30%を獲得した。石丸氏の台頭で無党派票を大きく減らしたとみられるが、それでも底力をみせたといえる。小池氏は、元々現実主義的、中道主義的な政治スタンスをとってきた。かつて、「希望の党」を結成し、安倍晋三政権を打倒し、政権交代を目指した頃には、ゴルフに例えて、「皆が左と右のラフを狙うので、私は空いている中央のフェアウェイを狙います」と発言したことがある。つまり、中道の無党派層の獲得を常に狙ってきた。それは、今日でも変わっていない。

筆者は、現在の政治で勝利するには、世論調査で5-6割を占めることがある「サイレントマジョリティ(声なき多数派)」である無党派層を狙うべきだと主張してきた。

再度、サイレントマジョリティについて、簡単に説明しておく。中道的な考え方を持つ現役世代、子育て世代、若者らに加え、都市部で暮らすサラリーマンを引退した高齢者などがこれに含まれる。

ただし、イデオロギーに強いこだわりがなく、表立って声を上げないとはいえ、サイレントマジョリティが投票行動を一切しないわけでもない。常日頃から支持している政党はないものの、時流や政局に応じて一票を投じ、選挙の結果を事実上左右する力を持ってきた。

例えば、かつて民主党への政権交代を支持したのはこの人たちだ。また、第2次安倍晋三政権は、経済政策「アベノミクス」や、弱者を救済する社会民主主義的な政策でサイレントマジョリティの支持を獲得し、憲政史上最長の政権を実現した。

このサイレンマジョリティの支持獲得を重視する中道的な姿勢が、逆風が吹き荒れる中でも小池氏が強さを発揮した理由の1つである。

共産党との共闘に軸足を置いた蓮舫氏の無惨な敗北

それに対して、サイレントマジョリティを軽視し、共産党との「共闘」に軸足を置いたために、無残な敗北を喫したのが蓮舫氏だ。

共産党は、選挙戦が始まる前から党の広報に蓮舫支持を大々的に打ち出した。そして、蓮舫氏、立憲民主党となにも合意がないのに、「蓮舫氏が都知事になれば、このような政策が実現する」として、共産党の主張をずらりと並べた。それに対して、蓮舫氏も立憲民主党も、共産党に抗議することなく、静観した。

私は、東京15区補選で共産党の支援で立憲民主党の候補が当選した際、次のように指摘した。

今後共産が立民に対してさらなる共闘と政策の合意を求めるだろう。だが、泉代表は安全保障や原発などエネルギー政策、消費税減税の凍結など「現実主義的」な政策志向を持つ。共産のプレッシャーを受けて、立民党内で政権獲得戦略を巡る迷走が始まる。

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その通りになったということだ。共産党主導の「共闘」姿勢に、連合は抗議して小池氏支援に回った。なにより重要なのは、共産党支持者は盛り上がったが、50%以上の多数派を占めるサイレントマジョリティの支持を完全に失った。

もちろん、蓮舫氏の街頭演説は、常に多くの人が集まり盛況だった。陣営は手ごたえと充実感があっただろう。だが、それは「コアな支持者」の反応に過ぎなかった。「大きな声」ではあったが、全有権者の中では少数派に過ぎなかった。それでは勝てないのだ。蓮舫氏は、石丸氏にまで敗れる、無残な姿を晒すことになってしまった。

立憲民主党は、たとえ蓮舫氏が2位となっても、200万票を獲得できれば、共産党との共闘の効果を証明できるとしていた。その政治的感覚の古さ、鈍さ、現実の読みの甘さは笑うしかないレベルだ。

そして、共産党はさらに無残だ。党の実情は厳しいものがある。国会での議席数は長年減少し続けている。党員数は、最盛期だった90年の50万人から25万人程度に半減している。党財政の基盤を担う『赤旗』の購読者数も80年の355万人から85万人まで落ち込んでいる。特に深刻なのは、党員の高齢化だ。平均年齢は70歳を超えているのではないかといわれている。

実際、共産党の運動員はさまざまな駅前でビラ配りなどの活動をしている。だが、どの駅でも、70歳以上と思われる高齢者ばかりだ。若者の姿をみることはほとんどない。新規党員の獲得はまったく進んでいないのだ。

そして、このような現状にある共産党が「候補者を降ろすこと」を党の戦略としている。共産党は、政権交代実現に向け、選挙で野党候補をできる限り一本化する「野党共闘」を党の戦略としてきた。

候補者を降ろし、国民に対して政策を訴えず、選択肢を与えない。その裏で、候補者を出さないことを条件に他の党と駆け引きをし、権力獲得に暗躍する。これは、政党が国民に対して果たすべきことの真逆ではないか。候補者を降ろすのは、立候補しても勝てないと自覚しているからでもある。共産党は、自由民主主義国の政党の体をなしていない。解党すべきであると強く主張したい。

共産党さえ切り捨てれば実現可能な「シン野党連合」

そして、共産党を除く、立憲民主党など野党各党に問いたい。今、自民党・公明党を倒し、政権交代に必要なことはなにか。それは、「シン野党連合」を形成することだ。

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要するに、サイレントマジョリティである無党派層のパワーを目の当たりにした今、まさにその支持を総取りにする政党連合を形成するということだ。

「シン野党連合」は、そんなに難しい話だと思っていない。改革と地方主権を掲げる馬場伸幸・日本維新の会代表。消費増税を封印し、安全保障政策などで現実路線を志向する泉健太・立憲民主党代表。「中道路線」を貫く玉木雄一郎・国民民主党代表。そして、かつて民進党を希望の党に合流させて政権交代を狙った前原誠司氏(新党「教育無償化を実現する会」代表)。

彼らには過去のさまざまな因縁がある。それはわかるが、政策志向は中道の現実主義でそれほど変わらない。一緒にやれない理由はシンプルに言って「共産党の存在」だっだ。実際、馬場氏も玉木氏も、その発言をよく聞くと、言っていることは「共産さえいなければ」ではないか。共産さえ切れれば、一緒にやれるのだ。

しかし、もう遅いのかもしれない。石丸氏のような完全無党派で、サイレントマジョリティの支持をかっさらう「デジタルイノベーショングループ」の政治家が現れ、それを支援する者がいる。いまさら気づいて「シン野党連合」を形成したところで、それに魅力を感じる国民がいるのだろうか。

image by: Instagram(【公式】石丸伸二 後援会

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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