保守層を取り込む戦略は誤り。躍進の「維新」が図るべき自民との区別化

2023.05.14
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先ごろ行われた統一地方選挙において、伸び悩む野党を尻目に大躍進を果たした維新。とは言え未だ全国規模で政権与党を脅かす存在とは言い難く、何より自民との差別化が図れていないのも現状です。この先維新は、どこに向かい進んでゆくべきなのでしょうか。政治学者で立命館大学政策科学部教授の上久保誠人さんは今回、現在の「保守層取り込み」という戦略が誤りであることを解説するとともに、狙うべき層を具体的に提示。さらに彼らが党として目指すべき方向と訴えるべき改革案等を提案しています。

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)
立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

統一地方選で大躍進。維新は今後「自民党との区別化」を打ち出せるのか?

統一地方選挙で、日本維新の会・大阪維新の会(以下、維新)が躍進を果たした。大阪府知事・市長・府市議会を完全制圧し、悲願の全国政党への脱皮に着実な一歩を進めた。

4月9日に投開票された前半戦では、大阪府知事・大阪市長のダブル選で維新の吉村洋文知事が再選、維新新人の横山英幸氏が初当選した。また、奈良県知事選挙では、維新公認の山下真氏が当選し、大阪以外で初めて維新公認の知事が誕生した。

大阪府議選では、前回に続き過半数となる55議席を獲得し、大阪市議選では46議席で初めて過半数を達成した。41の道府県議会議員選挙では、兵庫県で選挙前の4議席から21議席に大きく伸ばすなど、合計で124議席を獲得し、選挙前の59議席から倍以上に議席を増やした。

さらに、4月23日に投開票された統一地方選挙後半戦で、維新所属の全国の首長・地方議員の合計は774人となった。馬場信幸代表が自らの進退をかけて掲げた「600議席」の目標を大きく上回った。

維新は、大阪府知事・市長・府市議会を完全制圧した。774人中505人が近畿圏ではあるが、悲願の全国政党への脱皮に着実な一歩を進めた。今回は、統一地方選で維新が躍進した意味を、日本政治・社会の構造変化に争点を当てて考えてみたい。

まず、維新以外の政党の選挙結果の検証から始めたい。自民党は、道府県議会議員選挙で大阪府議会を除く40の議会で第一党を維持した。しかし、合計1,153議席は選挙前から86議席減となった。一方、市議選では710議席獲得し、前回より12増えた。

統一地方選後半戦と同時に行われた衆院補選で4勝1敗。だが、和歌山一区では維新新人・林佑美氏に敗れた。前述の奈良県知事選の敗北を含め、自民党内には選挙に勝利したという実感は少なく、微妙な空気が流れている。

立憲民主党(以下、立民)は、統一地方選全般で存在感を示すことができなかった。道府県議会議員選挙では、合計185議席を獲得し、選挙前から7議席増、市議選では合計269議席で72議席増となった。だが、それは労組など従来からの支持基盤の「過去の遺産」によるものにすぎないだろう。

北海道知事選は、唯一の与野党全面対決となったが、立民が推薦した前衆院議員は大差で敗れた。福井、島根などの県知事選は与党との「相乗り」となり、自民党が3つに分裂した徳島県知事選では、候補者を擁立すらできなかった。

衆院補選では、3補選しか公認候補を擁立できなかった上に、全敗を喫した。特に、「野党統一候補」を擁立した大分選挙区でも勝利できなかったことは、今後の「野党共闘」推進に暗雲をもたらした。

共産党は、41道府県議会で99議席から75議席に激減した。新潟、福井、静岡、福岡、熊本の5県からは1人も当選することができず、空白県に転落した。市議選では55議席減の560議席にとどまった。共産党の「牙城」であった京都でさえ、府議選で3議席、市議選で4議席減らし、まさに「歴史的な敗北」となったと言わざるを得ない。

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