保守層を取り込む戦略は誤り。躍進の「維新」が図るべき自民との区別化

2023.05.14
 

「社会安定党vs.デジタル・イノベーション党」という新しい対立軸

立憲民主党、共産党など「左派野党」の退潮は、自民党の内政における「左傾化」による左派野党の存在感の低下に原因がある。

安倍政権以降、「全世代への社会保障」「子育て支援」「女性の社会進出の支援」「教育無償化」など、本来左派野党が取り組むべき社会民主主義的な政策が次々と打ち出されてきた。その流れは、岸田政権でより加速化している。

岸田政権は、「新しい資本主義」という経済政策のコンセプトを掲げている。その基本的な内容は、アベノミクスが置き去りにした中小企業や個人への再配分を強化することだ。

また、岸田政権は「異次元の少子化対策」を打ち出した。

  1. 児童手当を中心とする経済的支援強化
  2. 幼児教育や保育サービスの支援拡充
  3. 働き方改革の推進

の三本柱を「異次元」の予算規模で実行するものだ。

さらに、岸田政権は国民が苦しむ物価高への対処などを盛り込んだ経済対策を次々と打ち出している。国民の眼は、「政府がなにをしてくれるか」に集中し、実際に予算を扱えない野党の存在感は薄れてしまった。

これは、「包括政党(キャッチ・オール・パーティー)」という自民党の特徴がなせる技である。自民党とは国民のニーズを幅広くつかむ、政策的にはなんでもありの政党だということだ。野党との政策の「違い」を明確にするのではなく、野党の政策にかぶせて、野党の存在を消してしまうというのが、自民党の伝統的な戦い方なのである。

安倍政権以降、その特徴がいかんなく発揮された結果、左派野党は存在意義を消された。左派野党が「弱者救済」を訴えれば、岸田政権は「野党の皆さんもおっしゃっているので」と、躊躇なく予算をつけて実行する。そして自民党の実績となる。左派野党は「自民党の補完勢力」になり下がってしまったのではないだろうか。それが、統一地方選で、左派野党が衰退した本質的な理由である。

このような、自民党の左傾化と、左派野党の「自民党の補完勢力化」が起きた背景には、新型コロナ感染症のパンデミックへの対策としてさまざまな国民生活への支援策を躊躇なく打ち出してきた過程がある。日本のみならず、世界中の政府が「大きな政府」となったのだ。

一方、コロナ過はリモートワークの発展などを通じて、デジタル社会の進歩を急激にも進めることにもなった。その結果、政府の役割は、デジタル社会の急激な変化についていけない人たちを守る「シェルター」となることに特化したのではないか。いわば、「弱者救済」だけが政治の役割となる。社会を変革するイノベーションに政治がかかわることは少なくなる。むしろ、それは政治の外側で起きるようになってきたのではないだろうか。

言い換えれば、現代社会は「弱者」が与党となり、競争社会に生きる「エリート」が野党となったということかもしれない。これは、「新自由主義」が席巻した80年代から2000年代前半までとは逆転した構図といえるだろう。

そして、この構図の下で、今後の政治の対立軸は、従来の「保守vs.革新(リベラル)」ではなくなるのではないか。私は、「社会安定党vs.デジタル・イノベーション党」という新しい対立軸が浮上してくると考えている。

「社会安定党」とは、自民党・公明党の連立与党があり、それを立憲民主党・社民党・共産党・れいわ新選組が補完するグループだ。政策は、平等・格差の是正を軸に、弱者・高齢者・マイノリティー・女性の権利向上、社会民主主義的な雇用政策・社会保障・福祉の拡充、教育無償化、外国人労働者の拡大、斜陽産業の利益を守る公共事業などである。これが今後の「与党」となっていく。

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