保守層を取り込む戦略は誤り。躍進の「維新」が図るべき自民との区別化

2023.05.14
 

狙うのは都市部中道層の「サイレントマジョリティ」

これに対しては、「自民党は保守化している」という批判があるかもしれない。確かに、思想的には保守化しているのかもしれない。しかし、保守化しているからこそ、国内政策については左傾化するのだ。なぜなら、歴史をひもとくと、保守主義は貴族・富豪・地主などから起きたものであり、「貧しき者には分け与えよ」という思想から格差是正に取り組んでいくことになるからだ。

一方、立民、共産党など左派野党は労働者階級にルーツを持っている。「労働者の権利拡大」を主な目的に格差是正に取り組む。要するに、政党の由来や支持基盤の違い、背景にある思想が真逆であるにもかかわらず、保守とリベラルは、似たような「格差解消」に取り組んでいくことになる。

それは、50~60年代の欧州の民主主義国家で、保守と革新の間で政権交代が起きても「福祉国家建設」で政策が変わらなかった「コンセンサス政治」のような状況に近いといえるかもしれない。

そして、このような自民党も左派野党も似たような政策に取り組む状況になると、圧倒的に有利なのは、実際に予算をつけて政策を実行する自民党である。左派野党側が、「格差解消の取り組みが手ぬるい」と自民党を批判すれば、自民党は「野党の皆さんも言われるので」と言ってさらに予算を拡大する。そして、その手柄はすべて自民党のものとなる。だから、左派野党は自民党の「補完勢力」なのである。今後は、「社会安定党」として自民党と同じグループを形成していくことになるのだ。

一方、社会安定党への対抗勢力はなにか。市場での競争に勝ち抜いて富を得ようとする人たちの集団になりつつある。具体的には、SNSで活動する個人、起業家、スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどであろう。これを「デジタル・イノベーション党」と呼ぶ。

彼らは政治への関心が薄い。「勝ち組」を目指す人たちにとって、格差是正は逆効果になるからだ。彼らの関心事は、日本のデジタル化やグローバリゼーションを進めることである。彼らは、普段は政治に興味がない。政治を動かす必要があると判断すれば、現政権を批判する政党を時と場合に応じて支持する。これが今後の「野党」となっていくだろう。

現在のところ、デジタル・イノベーション党と呼べる、SNSで活動する個人、起業家、スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどが支持できる政党は日本にはない。だが、弱者救済に徹する自民党の政治に満足できない層が、都市部を中心に少しずつ現れてきている。それが、維新の台頭につながっているのではないか。

ただし現在のところ、維新の全国政党としてのアピールは、自民党よりもラディカルな「憲法改正」「安全保障政策」などにとどまっている。保守層を取り込むという戦略だが、それは正しく方向性ではない。

もちろん、安全保障政策を争点化しないことはよい。欧州では、保守政党と社会民主主義政党の間で政権交代が起きても、安全保障政策の変更はない。日本でも、安全保障政策は党利党略を超えて一貫したものであるべきだ。

だが、維新が取り込むべきは保守層ではない。保守層を取り込む戦略では、自民党に吸収されてしまう。むしろ、狙うのは都市部の中道層の「サイレントマジョリティ」ではないだろうか。

この層は、安倍政権の巧妙な戦略で、左派野党から切り離され、自民党に取り込まれた。しかし、自民党が左傾化し弱者救済のシェルターを作っていくことに特化していくことに不満を持ち始めているのは確かだ。

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