保守層を取り込む戦略は誤り。躍進の「維新」が図るべき自民との区別化

2023.05.14
 

目指すべきはよりラディカルな社会の変化に対応する党

維新は、改革を標榜(ひょうぼう)する政党ではある。だが、改革の中身は地方主権・行政改革・規制緩和という「90年代っぽさ」「古さ」を感じさせるものだ。「新自由主義」を連想させ、格差拡大をもたらしたという負のイメージがある。また、自民党と異なる明確な「国家観」を構築できていないのも残念だ。

現在の状態では、サイレントマジョリティの自民党への不満を吸収する存在ではあっても、積極的な支持は広がらない。それだけではない。

もちろん、維新は「公文書の総デジタル化と、ブロックチェーン技術による改ざん防止」「インターネット投票の実現」「中央デジタル通貨の研究開発」といった政策提言を行っている。だが、この程度の政策ならば、おそらく自民党は「右傾化」して予算をつけて実現してしまうだろう。維新も自民党の「補完勢力」にされてしまうのだ。それが、「世界最強の包括政党」自民党の強さだ。

実際、自民党は「デジタル庁」を立ち上げて、マイナンバーカード関連をはじめとするデジタル政策を推進してきた。また、岸田首相は4月上旬、対話型AI「ChatGPT」を開発したOpenAI社のサム・アルトマンCEOと官邸で会談した。一国の首相が、海外企業のトップと会談の場を設けるのは異例である。

しかし、自民党が維新を飲み込む形でデジタル化が進むのには問題がある。さまざまな支持者や利益集団に配慮した、原形をとどめないような骨抜きの政策になってしまうからだ。

自民党は、政策の「総合商社」か「デパート」のようなものである。一応すべての政策課題への対応策を並べている。だが、この連載でも指摘してきたように、問題は政策が「Too Little(少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」であることだ。

それは、例えばコロナ過で日本のデジタル化の遅れが露呈してしまったように、そもそも欧米や中国などではすでに何年も前に進んでいることを、「これからやります」といって胸を張ってしまうことが多いのだ。

どうしてそうなるかというと、結局、自民党は「社会安定党」だからだ。自民党が新しい政策課題に取り組むときは、その影響を最小限にとどめ、日本社会の伝統・文化・慣習などを守るためのものになるからだ。

それは、「少子化対策」「LGBTQの権利保障」「選択的夫婦別姓」などの進展の遅さをみれば明らかだ。自民党はこれらの新しい政策課題を拒絶はしない。しかし、現在の日本社会を壊さない範囲内で折り合いをつけようとする。

デジタル化でも同じことが起こるだろう。デジタル化に対応できない層を守ることが政策の主眼になってしまうのだ。

維新が、自民党に飲み込まれて「社会安定党」に一部になることなく、自民党に対抗する政党として生き残るためには、よりラディカルな社会の変化に対応する「デジタル・イノベーション党」を目指すべきではないだろうか。

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