東京15区補選で多くの無党派層が示した「選択」
筆者は、大学の授業で、自由民主主義国における政党について「共通の政治的目的や政策を持つ人々が集まり、選挙に候補者を擁立し、議会で多数派を形成して政権を獲得し、目的を実現するための組織である」と教えている。主権者である国民の側からすれば、政党の最も基本的にして重要な役割は、国民に「選択肢」を提示することだ。これは、政治学のイロハのイであろう。
候補者を降ろし、国民に対して政策を訴えず、選択肢を与えない。その裏で、候補者を出さないことを条件に他の党と駆け引きをし、権力獲得に暗躍する。これは、政党が国民に対して果たすべきことの真逆だ。候補者を降ろすのは、立候補しても勝てないと自覚しているからでもある。共産は、自由民主主義国の政党の体をなしていない。解党すべきではないか。
共産党との共闘で、立民は3補選全勝の大きな成果を得た。だが、この勝利は、次期衆院選に向けて、立民を難しい状況に追い込むことになる。
泉健太立民代表は、特定の政策に絞って他の野党と手を組む「ミッション型内閣」を提唱してきた。だが、日本維新の会(以下、維新)・国民民主党(以下、国民民主)らが「基本政策の一致なくして政権は運営できない」として否定的な態度をとってきた。
今回の補選での立民・共産の共闘で、維新・国民民主は態度をさらに硬化させた。その上、立民の支持団体「連合」の芳野友子会長が「連合として容認できない」と表明した。共産の支援を受ける候補を推薦しないという姿勢を強調したのだ。
一方、今後共産が立民に対してさらなる共闘と政策の合意を求めるだろう。だが、泉代表は安全保障や原発などエネルギー政策、消費税減税の凍結など「現実主義的」な政策志向を持つ。共産のプレッシャーを受けて、立民党内で政権獲得戦略を巡る迷走が始まる。
国民は厳しい視線を向ける。民主党政権時に「寄り合い所帯」が基本政策の不一致で迷走し、政権崩壊したことへの国民の不信感は、決して払しょくされていない。
立民・共産が共闘すれば、議席を増やして野党として安定した基盤を築くことはできる。だが、政権交代には至るのは難しい。「万年野党」としての立場を安定化する結果となる。それは、これまでの野党共闘の結果からすでに明らかなことだ。
前回も指摘したが、補選に勝つだけならば、党の「コアな支持者」を掴めばいい。しかし、政権選択の衆院総選挙では、それだけでは十分ではない。立民・共産など「左派野党」のコアな支持者は全有権者の10%を切るくらいしかいないからだ。勝敗を左右するのは、全有権者の6割を超えるまで増えた「無党派層」だ。
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今回の補選で、立民の候補は無党派層の7割を獲得したとされる。だが、候補者が乱立した東京15区で立民の酒井氏が獲得できたのは2割程度。3補選の投票率は、いずれも過去最低だった。多くの無党派層が選択したのは「棄権」だった。
全国で各党が候補者を揃える総選挙で立民・共産が共闘すれば、立民に流れる無党派層は間違いなく減る。現在の無党派層は、左派ではない。中道的な考え方を持つ現役世代、子育て世代、若者らに加え、都市部で暮らすサラリーマンを引退した高齢者などだ。普段は、イデオロギーにこだわりがなく表立って声を上げない。だが、日本の「サイレント・マジョリティ」であり、時流や政局に応じて一票を投じ、選挙の結果を左右する力を持ってきた。
例えば、かつて民主党への政権交代を支持したのはこの人たちだ。また、第2次安倍晋三政権は、経済政策「アベノミクス」や、弱者を救済する社会民主主義的な政策でサイレント・マジョリティの支持を獲得し、憲政史上最長の政権を実現した。