若手から出なかった「自民党をぶっ潰す」の声。政権与党が衆院補選2選挙区で候補者すら立てられなかった裏事情

2024.05.01
 

首相への権力・権限の集中で失われた自民の強み

一方、「裏金問題」では、岸田首相の主導で派閥が解散した。岸田派に続いて、疑惑の渦中の安倍派、二階派のみならず、疑惑と直接関係がない森山派、茂木派、谷垣グループまで解散した(麻生派だけは存続)。首相は、安倍派と二階派の議員ら39人を処分した。だが、「改革派」の突き上げはない。以前ならば、補選には汚職と関係ない派閥から新人が出馬した。党を批判し改革を訴えて選挙を戦った。だが、今回は誰も出てこず「不戦敗」となった。

皮肉なことだが、改革派がいないのは、30年前の「政治改革」の帰結だ。「小選挙区比例代表並立制」の導入などの改革で「人事権」「公認権」「資金配分権」が首相(党総裁)に集中した。「派閥」は首相の強力な権力・権限を牽制してきたが「裏金問題」で消滅した。

岸田首相に批判的な言動をすれば、人事での冷遇、政治資金の配分での冷遇、次期選挙での公認の取り消し、対立候補の擁立などの圧力をかけられるかもしれない。党内では、首相に誰もはっきり異議を唱えられなくなっているのではないか。

自民は、「新たな改革」として検討してきた「使途を公開する義務のない政策活動費や調査研究広報滞在費(旧文通費)の見直し」を先送りする方針を固めた。「企業・団体献金の廃止」も先送りとなった。これは、世論のさらなる批判を浴びるだろう。だが、党内から首相・党執行部に対する批判の声は小さい。

従来、自民は自由闊達さと多様性のある「派閥間競争」が強さだった。時の政権が危機に陥ると総裁選挙で「疑似政権交代」を演出し、新しいリーダーを選び国民の注目を集め、野党を蚊帳の外にすることで危機を乗り切ってきた。

だが、首相への権力・権限の集中で自民の強みは失われた。若手からの改革を求める突き上げがなく、補選に候補者も立てられない。自民党内に「疑似政権交代」の競争がなく、国民の注目は蚊帳の外だった「野党」に向くようになる。野党に、政権交代の好機が訪れている。だが、野党にその自覚はあるのだろうか。

共産は、島根1区補選で、村穂江利子氏の擁立を取り下げ、立民が擁立する前職の亀井亜紀子氏を支援した。東京15区でも、共産は擁立を発表していた小堤東氏を取り下げ、立民の新人・酒井なつみ氏を支援した。長崎3区では、候補者を擁立せず、立民元職の山田克彦氏を自主応援した。その結果、3補選で立民が勝利した。共産の小池晃書記局長は「市民と野党の共闘が今回の結果を生み出す大きな要因になった」と評価した。

共産は、政権交代実現に向け、選挙で野党候補をできる限り一本化する「野党共闘」を党の戦略としてきた。22年11月の総選挙でも、立民と候補者が競合する21の小選挙区で候補者を取り下げた。だが、共闘の効果は乏しく、改選前より議席を減らした。今回の3補選の勝利は、野党共闘の初めての明確な「成果」といえる結果だ。

自民の「敵失」で得た成果だが、それも元は共産の追及で始まった。共産は3補選の勝利に沸いている。だが、党の実情は厳しいものがある。国会での議席数は長年減少し続けている。党員数は、最盛期だった90年の50万人から25万人程度に半減している。党財政の基盤を担う『赤旗』の購読者数も80年の355万人から85万人まで落ち込んだ。深刻なのは、党員の高齢化だ。平均年齢は70歳を超えているのではないかといわれている。

実際、共産の運動員はさまざまな駅前でビラ配りなどの活動をしている。だが、どの駅でも、70歳以上と思われる高齢者ばかりだ。若者の姿をみることはほとんどない。新規党員の獲得はまったく進んでいないのだ。このような現状にある共産が「候補者を降ろすこと」を党の戦略としている。

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