若手から出なかった「自民党をぶっ潰す」の声。政権与党が衆院補選2選挙区で候補者すら立てられなかった裏事情

2024.05.01
 

小池百合子ではない。「シン・野党連合」を率いるべきリーダー

次に「地域に応じた育児・教育支援、若者支援」だ。大阪府知事・維新共同代表の吉村洋文氏は、大阪市長時代の18年に、大阪市の待機児童を「325人→37人(旧基準に準拠。新基準では67人)」に激減させることに成功した。一方、当時の自民党は「待機児童対策よりも教育無償化」を志向し、優先順位が逆だと一部で猛批判された。

当時、待機児童は都市部に集中していた。自民党が「集票基盤」とする地方の多くでは保育所には空きがあり、都市部と比べると待機児童は少なかった。ゆえに、自民党は「無償化」を優先した。中央集権国家で地方の事情が考慮され、首都圏や主要都市での待機児童問題が改善されないという逆転現象が起きた。

これこそが「全国一律」の自民党政治の限界だった。その状況を改善するに当たっては、教育関連の施策も「地方主権」の下、各地域がそれぞれの課題に応じて推進するべきだ。

なお、維新は2024年度から、大阪府内の高校を対象とした「授業料完全無償化」に踏み切る。「拙速」との批判はあるが、地方で独自に財源を確保し、国に先行して教育支援を進めることは注目に値する。政策の財源を中央から地方に移転し、地方の自主財源を増やすことができれば、岸田政権で強まる「財務省支配」への対抗策や、将来の「増税」の不安への対案にもなる。

このように、地方主権を軸として自民党と異なる「国家像」を提起すれば、政権交代への期待が高まるし、無党派層の票を総獲りできるはずだ。

シン・野党連合など荒唐無稽だという人がいるだろう。前述の通り、立民と共産の接近を維新、国民、そして連合が厳しく批判する現状だ。シン・野党連合結成のリアリティはない。

だが、改革と地方主権を掲げる馬場伸幸維新の会代表、消費増税を封印し、安全保障政策などで現実路線を志向する泉健太立憲民主党代表、中道路線で与党と是々非々の玉木雄一郎国民民主党代表、そして、かつて民進党を希望の党に合流させて政権交代を狙った前原誠司氏。政策的には皆、現実的で自民党に満足できない層に響く、一致するところがある。

彼らが合流できないのは、突き詰めると共産の存在に尽きる。立民が共産を切れば、合流できない理由はなにもなくなる。その関係は複雑そうにみえて、意外とシンプルである。

前回述べた通り、シン・野党連合のリーダーには小池百合子東京都知事を期待してきた。この荒業をまとめ切れる大物は、小池氏しかいない。だが、小池氏が東京15区に擁立した乙武洋匡氏が過去のスキャンダルを蒸し返され、小池氏自身も「文春砲」に襲われた。乙武氏は惨敗し、小池氏が「史上初の女性首相」の悲願達成を目指す道はほぼ閉ざされた。

【関連】小池百合子が絶たれた「日本初の女性首相」への道。東京15区補選に“女帝”が出馬を断念した深刻なウラ事情

だが、新しい政治を始めようとするのに、71歳の大ベテランの政治家の力を頼るべきでではないのかもしれない。若手からリーダーが現れるべきだ。泉代表に期待したい。次期衆院選まで、泉代表は悩みに悩むことだろう。だが、大局観を持ち、共産など左派を切り捨てて、無党派層を総獲りして政権交代を実現する。首相となり「地方主権」の新しい日本を創るという、果断な決断を期待している。

image by: 蓮舫(事務所) - Home | Facebook

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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