5月20日に行われた台湾の頼清徳新総統の就任演説に中国が激しく反応。5月23日から台湾周辺で大規模な軍事演習を実施し、圧力を強めました。厳しい船出が予想されていた新政権が、早くも荒波に直面しています。同じ民進党政権ながら、蔡英文政権とは何が変わったのでしょうか。今回のメルマガ『浜田かずゆきの『ぶっちゃけ話はここだけで』』では、著者で国際政治経済学者の浜田和幸さんが、台湾の現状を解説。立法院とのねじれ状態や若者の反発、中国を意識しつつ日米とどう連携を取っていくのかなど、内外に山積みの課題を伝えています。
台湾の新総統を待ち構える内憂外患
ぶっちゃけ、台湾の新総統に就任したウイリアム・ライ(頼清徳)氏ですが、その前途は難題山積みといっても過言ではありません。というのも、前総統の蔡英文女史の当選時と違って、得票率も支持率も急落しているからです。
そのため、立法院においても頼新総統の率いる民進党は少数与党になっています。実は、蔡英文総統の8年間、台湾人の懐具合は公約されていた倍増とは正反対で、ほぼ収入は半分に減ってしまったからです。
結果的に、総統選挙では3人の候補者が競い合ったのですが、ほぼ3分割となってしまい、立法院の議席数では国民党が最大の議席を獲得しています。これでは頼新総統の政権運営は綱渡りとならざるを得ません。
既に、就任式典の直前にも議会内での乱闘事件や頼新総統の民進党本部前では大規模なデモが発生するなど、不測の事態が相次いでいるほどです。
今回の就任式典には海外から400人ほどのゲストが招かれていました。その中では170人を超える、日本からの招待客がひときわ大きな存在感を示しており、頼新総統の日本への期待感の大きさが感じられます。副総統の蕭(シャオ)美琴女史は日本の神戸生まれのアメリカ育ちです。
台湾といえば、半導体産業で世界をけん引するTSMCの存在が大きく、頼氏も台湾を「AIの島」にすると意気込んでいるほど。日本もアメリカもTSMCの工場を誘致しようと積極的なアプローチを仕掛けています。その意味では台湾には日本やアメリカから支援を受ける要素は多分にあることは間違いありません。
「台湾海峡有事」ということが盛んに言われ、「2027年までに中国が台湾侵攻に踏み切るのではないか」と、アメリカの軍幹部は事あるごとに危機感を表明しています。その抑止力や防衛力を強化させるという名目で、アメリカは台湾への軍事支援や武器等の売り込みにも熱心です。その流れを受け、日本の大手商社や防衛産業界も無人潜水艇の提供を申し出ています。
台湾全島を取り囲むように、無数に近い大量の小型潜水艇を配置し、中国海軍の侵攻を撃退しようという構想で、アメリカ軍との連携も視野に入っているようです。しかし、サイバーなど電波妨害や空からの大規模ドローン攻撃に対しては、多勢に無勢の感が否めません。
一方、これまで年4か月の徴兵訓練を1年間に延長する方針を打ち出している民進党に対しては、若い世代からの反発も起き、懸念材料になっています。ぶっちゃけ、中国との関係をどう安定的に保っていくのか、日米との連携を含め、その外交手腕が問われるところです。
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