1966年に静岡県で発生した殺人事件の犯人として逮捕された元プロボクサーの袴田巌氏が、1980年に死刑判決を受けるも冤罪の可能性が叫ばれ続け、2023年に再審開始決定が確定したいわゆる「袴田事件」。裁判は5月22日に結審しましたが、検察側はまたも死刑を求刑したことが大きく報じられました。この事件を取り上げているのは、要支援者への学びの場を提供する「みんなの大学校」学長の引地達也さん。引地さんはメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』で今回、袴田氏が長きに渡る拘禁状態により精神障害を発症した事実を問題視するとともに、拘禁反応が生じている袴田氏に死刑を求刑する社会の残忍性に違和感を示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:拘禁状態の患者への死刑求刑と制度の残忍性
「袴田事件」やり直し裁判結審に思う、拘禁状態の患者への死刑求刑と制度の残忍性
1966年6月に静岡県清水市(現静岡市)で一家4人を殺害したとして、強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌さんは現在、拘禁反応が慢性化しているという。
東京新聞によると、弁護側が裁判所に提出した書類で、袴田さんは歯痛や腰痛、発熱などの不調を外部からの攻撃と捉えがちだとし、特に男性への警戒心が強く、「男は殺し合いを始める」などと発言する場面もあるという。
静岡地裁でのやり直しの裁判(再審)は今月結審し、判決期日は9月26日の予定。
証拠が捏造されたと認定し、無実の公算が大きいが、映像で見る袴田さんの認知は乏しい様子で、その症状を見る限り、裁判を闘うよりも、日常のケアが必須で疾患者を治癒する当たり前の日々が優先してほしいとも思う。
死刑囚への再審公判は戦後5件目で、これまですべて無罪判決が出ている。
疾患者の安心した日常の中で、支援者はいち早く「無実」を伝えてあげたいだろう。
やはり、あまりにも長すぎた。
論告で検察側は死刑求刑し、「多くの証拠が(袴田さんが)犯人だと指し示している。4人の将来が一瞬にして奪われ、犯行は冷酷、残忍だ」との理由を述べた。
ケアの現場にいる者としては、拘禁反応が出ている疾患者に死刑を求刑する社会の残忍性を想う。
日常生活が支援なしでは営めず、周囲の状況への認知も希薄になっていく中での死刑求刑への違和感。
医学書院の医療情報サービスによると、拘禁反応は拘禁という特殊な状況を契機として発症するさまざまな精神障害の総称であり、診断体系では心因反応に分類される。
明らかに環境が作った疾患である。
同サービスは症状として「多岐にわたっており、軽度の不安・抑うつ・不眠などの反応から昏迷・幻覚妄想状態などの精神病性の症状やけいれん・失立失歩などの身体症状まで、ありとあらゆる状態がありうる」とし、拘禁反応が生じる根底には「将来への強い不安・自由の束縛による圧迫・乏しい外的刺激・悔恨などの心因が関与していると考えられている」とする。
特に将来への不安が影響するため刑が確定した刑務所・少年院よりも未決で収容される拘置所・少年鑑別所で発生頻度が高いという。
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