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人類が絶滅せずに生きながらえる術。「ケア性」という素敵な奇跡

人が生きていくうえで避けられない他者とのコミュニケーション。それほど簡単ではないため大きな悩みになることもあります。「対話の成立は奇跡で、その奇跡は“ケア性”によって成り立つ」と考えるのは、生きづらさを抱えた人々の支援に取り組む引地達也さん。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では、自身が運営する「みんなの大学校」で学生とともに学ぶ「ケア」の概念を紹介。過酷な環境を生きていくのに不可欠なものとして「ケア」があることや、「ケア」の世界で幸せを実感するのはどんな時かについて述べています。

まだまだ続くケアの旅、「ゆきたいなゆきたいな」

学生とともにケアを考える時間は面白い。これまで思ってきた「ケア」という言葉や概念は考えれば考えるほど、新しい可能性に満ちていることに気付かされる。それを発見し、また先にないがあるのだろうとの期待につながっていく。

学生にとっては、誰もが人と関わり合いながら、時には慰め、そして慰められながら生きてきていることが分かってくる時期。それは思春期を過ごしたことにより、体験により記憶に刻み込まれた結果でもある。それがうれしい思い出の人もいれば、悲しい記憶、思い出したくもない辛い体験の場合もある。

それらの時間は、人が生きる上で、必要なケア性を実感することになり、大学の授業でそれらを整理し言語化することは、よい意味で自分の肉体や精神を社会の一部として位置づけ、関わっていくことの実感につながるようだ。

いくつかの「ケア」の視点から導かれるのは、私たちが生きていくために必要なもの、絶滅せずに生きながらえている人間の存在を規定するものだともいえる。

『〈弱いロボット〉の思考 – わたし・身体・コミュニケーション』等を著した豊橋技術科学大の岡田美智男教授は、コミュニケーションを、送り手が相手の反応に「賭けている」行為とし、相互コミュニケーションは「賭けと受け」の構造にあると指摘した。

発した言葉に相手が反応するかは分からない、またはどのように反応するかも、実は不安定だ、それでも問う、話す。それは、賭け、である。相手が人間であれば当然ながら反応の完全な予想は不可能だ。時には想定外の言葉が返ってくることもあるだろう。それでも私たちは賭け続ける。

このことから竹内聖一さん(現立正大准教授)はコミュニケーションの成立は「自分の賭けを相手にしっかりと受け止めてもらえたと感じられるとき」と推察した(『ケアの始まる場所』金井淑子・竹内聖一編)。

こう考えれば、対話の成立がいかに難しく、そして素敵な奇跡であることになる。この奇跡は人間の持つケア性によって成り立つ、ケアという言葉で括ることができる、と解釈できそうだ。

哲学者、近内悠太さんの『利他・ケア・傷の倫理学』は、SNSの情報のやりとりに疲れ果てた私たちは、進化した環境についていけていないと言及する。「石器時代の精神を持ち続けたまま、中世時代の政治システムを採用し、神の業のごときテクノロジーを持つ」というアンバランスの中に身を置かれてしまった私たちが生きにくいのは当たり前だと言われ、少しほっとするような気分になる。

この過酷な環境で絶滅をせずにいるのは、「私たち」がケアをしているからだと説く。「僕たちは、ケア抜きには生きていけなくなった種である」。これを書いている中で、みんなの大学校の講義がはじまり、和歌山県紀の川市のチンドン楽団トンカラポンガの演奏が始まった。

チンドンのリズムに合わせた楽しい演奏の締めくくりは沖縄県無形文化財である八重山民謡保持者、大工哲弘さんが歌っていることで有名な「ハートランド」の合唱。ゆったりとしたリズムの中で、オンラインでつながった全国のみなさんはゆったりとした気分で歌えただろうか。

「心に咲いた花に 戸惑いながら 明日へと続く道を さがしているのか ひとりでゆけない ひとりでゆけない 幸せという名の 遠い国 ゆきたいよ ゆきたいよ こころ やすむばしょに ゆきたいよ ゆきたいよ きっと あるはずさ」

誰もが一緒に何かをやる時、何かしらの境界線がなくなって、共にあることを感じた時、私たちは幸せを実感する。この歌を歌いながら、私はそんなケアの世界の中で幸せな気分にひたっていた。

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image by: shutterstock.com

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障がいがある方でも学べる環境を提供する「みんなの大学校」学長として、ケアとメディアの融合を考える「ケアメディア」の理論と実践を目指す研究者としての視点で、ジャーナリスティックに社会の現象を考察します。

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【著者】 引地達也 【月額】 ¥110/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 水曜日 発行予定

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