10月8日、2021年に発生した中学生1年生による小学校3年生(いずれも当時)への性暴力を、第三者委員会が「いじめ重大事案」と認定していたことを発表した札幌市教育委員会。しかし被害児童が受けた暴力はこの一件にとどまらず、またここに至るまでの教育現場及び市教委の対応は、「酷い」という言葉を遥かに上回るものであったと言います。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、「2つの事件」の全貌を詳しく紹介。さらに被害児童が自分の言葉で綴った「お願いしたいこと」全文をそのまま掲載しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:札幌性暴力事件、被害側に話を聞いた
「誰に何を相談したらいいのかわからない」。性暴力の被害児童を救わない札幌の“教育ムラ”
ここ最近、こどもからこどもへの性暴力が報道されている。
神奈川県茅ケ崎で起きた事件では、市教委が「性暴力」という言葉を使うなと報道機関にクレームを入れるなど、その問題の深刻さを軽視した姿勢がさらに問題を炎上させるなど、大きな問題になっている。
10月に入ると、北海道札幌市で当時小学3年生の男児が中学1年生の男子生徒に性暴力を受けたという事件が報じられた。この件は、大臣就任したばかりの阿部俊子文科相が、問題の重さを発言するなどしており、管轄の札幌市教育委員会は「重く受け止めます」とコメントしているが、現実は、被害男児は小学校でも別件のいじめ被害を受けており、さらに学校や市教委の対応の杜撰さから二次被害を受けているのだ。
そこで、今回は、北海道札幌市の被害保護者に直接話を聞いた。
まずは、被害状況全体。
被害者と加害者の接点は「スポーツ少年団」であった。
事件の経緯は下記の通り(札幌市教育委員会のホームページで公表されている事件の調査報告書で経緯を確認することができる)。
令和2年 冬 防止や手袋、ネックウォーマーを取られる。雪山から押され、落とされる。
令和3年
4月頃 筆箱を取られるなど
5/26 性的被害
5/27 強制わいせつ罪に当たる行為
5/28 強制性交未遂罪に当たる行為
5/30 事件発覚
被害児童と加害生徒は同じスポーツ少年団に所属し、家も近いことから、自宅近くの公園で遊ぶことがあった。加害生徒の供述などによれば、加害生徒は、友人らと性行為について話すようになり、次第に興味を持つようになった。同年代の女性などへの気持ちもあったが、拒絶されることなどを怖れ、それまでいじめ行為の対象としていた被害児童に一方的に性暴力をしたというのが大筋の流れであり、その後事件が発覚し、警察事案となり家庭裁判所送致となった。
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事件の対応を拒絶し被害保護者にブチ切れた中学校長
被害保護者が詳細に記録している事件に関する記録をご提供いただき、これを読んだが、事件発覚からおよそ半年間で100回近く、公的機関との相談や面談などをしていることがわかるが、いずれも対応が見当違いの方向になっている。
例えば、被害児童と加害生徒は家が近く、自宅近くの公園で被害などは起きていることから、こうした性暴力が行われたことは事実であるのだから、少なからず、鉢合わせないように配慮するなどの何らかの対策は必要と思われるが、これらに加害者が通う中学校は、対応しないと当初は回答している。
こうした対策は、そもそも警察から加害者が「被害者への謝罪を含め近づくな」との接触を禁じられたのにもかかわらず、加害者が被害者を待ち伏せたたという事案が発生したことや、その後も登下校などでほぼ毎日顔を合わせるという被害児童には地獄のように辛い期間があったから、中学校に被害者側が協力を要請したという。
しかし、中学校の校長は対応を拒絶、その後のお願いにおいても、被害保護者のメモを見ると、性暴力被害であるのに公衆の面前で、大声で話をしたり、一部恫喝をするような内容もあった。実際に被害保護者が対応が怖いと直接言うということがあるが、これに校長は「僕の感情を逆撫でするからでしょう!」とブチ切れている。
重要書類についても封をせず、誰でも中身が確認できるように預けるなど、もはや非常識の斜め上をはるかに超える非常識対応が連続して起きているのだ。
小学校でも「別の被害」に
当然、酷い被害を受けたのだ。被害児童の心の傷は想像できるものではない。しかし、令和5年9月に被害児童は再び別の被害を受けたのだ。
記録によると、3件の首絞め事件を申告し、2件の首絞め行為が認定されている。
- 令和5年6月9日3時間目の終わりに何の前提もなく、突然加害児童が被害児童の首を絞めた。
- 令和5年9月7日4時間目の終わりに、被害児童が自分の席に座っていたところ、加害児童が被害児童の肩をたたき、さらにタイマーで叩いた後、首を絞めた。
話を聞くと、この件は被害児童側が申告したので、被害者は被害児童本人のみとなっているが、首絞め事件の加害者である同級生は、複数人の児童に対して暴力行為を行うなどしていた。被害児童のメモによれば、加害児童のいじめ行為とそれに対応せず、被害者や助けようとした児童が指導対象になるなど頓珍漢な対応を続けた学校側によって、クラスや友達がおかしくなってしまったと嘆いていた。
尚、加害児童は、事件後に別の学校に転校しているとのことであるが、残されたクラスは荒れており、児童らを含め保護者も苦しい状態が続いているとのことであった。
この首絞め事件は、攻撃する部位を含め、いわゆるいじめ行為に犯罪性が認められるなどから、いじめ防止対策推進法第28条1項の重大事態いじめが発生したと考えられる。
一方で、こうした危険行為を学校は、こどもたちの中ではよく起きる行為であり、じゃれ合いの延長などと軽視する傾向が強くあるが、断じてそのようなものではないのだから、警察事案としても十分に考える必要があるだろう。
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被害保護者にSNS上で悪態をつく匿名の教職員アカウントも
そして、一連の対応を被害児童は、こう書いている。
いじめのアンケートや札幌市教育委員会のいじめのパブリックコメントにかいたけど、大人の対応や法律やルールを守っていないと思っている。
校長先生は小学4年生の頃からいた。担任の先生が(加害者の事で)困っていることや僕の性被害の事も知っていて相手のこともリーダーとして把握していたはずだと思う。知らなかったとか、担任の先生が報告が遅かったとかの言い訳は、僕たちの学校のリーダーとして、振り返りや準備や助け合うことができていないんじゃないかと思いました。
さらに、首絞め事件の対応を学校が疎かにしたことにより受けた影響を箇条書きで記している。本紙では、そのまま転載する。
- クラス全体が狂った
- 首を絞められたことを先生に相談したら、今度は僕たちの靴をかくされた(校長先生も懇談会でその話をしているビデオをみました)
- 悪いことが悪いって思わない人が増えた
- 正しいことを言う人が悪者になった(授業に参加したいのに、できなくなった)
- 担任の先生もいつの間にか被害者になった(病気になって休んだ)
- 校長先生は僕たち子供のことを考えていないことがわかった。Bをかばうことばかりしているから
- 原因だったBだけが転校して解放された、反省していないから今も笑顔でみんなに話しかけてくる
- 僕の給食にほこりをわざと入れる女子が出て、給食の時間が悲しい時間になった
- 辛くて学校を休んだら「ズル休み」と言われて、先生が「そう言われても仕方がない」といってたことが悲しかった
- 5年生の時は特に辛くて、たまに学校へ行ったら校長先生が余計なことをして余計辛いことがあった
- 僕の大事なパパに買ってもらった学校用のリュックを会話が出来ない先生に力一杯ひっぱられてすごく悲しかった
- 仕方がないってたくさん言われたことが悲しかった
- 小学校生活で普通に生活したかったのに、もうすぐ6年生が終わるのが寂しい
- 性加害者を思い出すから中学生が苦手だけど、自分も中学生になるのが複雑な気持ちだ
- 毎日薬を飲まないと眠れないけど、病院の先生は僕を普通っていうのが不思議だ
- 誰に何を相談したらいいのかわからないから言いにくい
学校のいじめ対応で求められることを、批判する教員や教育村の住人は相当数いるようだが、しっかりと対応しないことで、子どもたちに与える影響は、あまりに大きいのだ。実際に本件の被害保護者にSNS上で悪態をついて絡む卑怯にも匿名の教員垢といわれる教職員アカウントはある。
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被害児童が自分の言葉で綴った「お願いしたいこと」全文
被害児童は、被害者は自分だけではなく、加害児童以外の児童も被害者だという。担任の先生も被害者であると嘆いている。
そして、このように書いている。
学校とお母さんのやりとりをみていると絶望したけどこれが現実って知れた。
被害家族に絶望を与える学校、それだけではなく絶望を超え、達観的に「知れた」と表現される組織とはいったい何だろうか。
被害児童はあまりに酷い被害を受けながらも強く思うことを伝えてくれている。最後に、彼自身の伝えたいことを私は皆さんにそのまま伝えようと思う。
お願いしたいことがあります
首を絞められたり、性被害にあう人、苦しむ人、悩む先生や悲しむ家族を増やしたくないです
そのあとずっと、長い間苦しいからです
寝る薬がないと寝れないのがもやもやしています
先生たちだけで無理して解決までしなくていいと思います
いじめ防止対策推進法やいじめの重大事態のガイドラインがあるので、一緒に勉強をして欲しいです
子供達と先生たちその家族のみんな悲しい思いをする人を増やさないように協力をお願いします
保護者説明会で正しい情報を知る機会を作ってください
「知る機会」は「みんなで考える機会」につながります
考えるとそのあとの「行動が変わる」と思います
知る→考える→行動する、失敗したら何度もそれらを繰り返したら成長するかなと思いました
保護者や全校集会でいじめについて説明会を開いてください
性被害と、そのあと「重ねて」起こった今回の首絞めの件と、何よりその時に校長先生が学校の代表として僕たち子供達に正しいことを示せていなかったこと
僕たちがこれから他の人を傷つけないようにするために、お互いが思いやれる人になれるように校長先生が自分で考えた言葉で説明をしてください
お父さんやお母さんたちも家庭で地域で支えてくれる大切な仲間です。その人たちにも説明してほしいです
先生たちのここまでの対応は、学校や教育委員会じゃない外部の人に振り返りをしてもらってください
性被害のことも知ってたのに、首絞めが1回ではなく3回も、僕以外にも被害があって、それなのに今回の調査報告書に加害者のBに寄り添ったことばかり書いてありました。これはもう学校や教育委員会の人だけでは客観的に物事を振り返ったり再発防止の方法は考えられないと思いました。僕たちはこれからも同じ地域の中学校に進むし、妹や弟、友達が小学校にもいるので、子供を守るためにも客観的に再発防止策を考えて一緒に取り組んで欲しいと思います
以上が、彼の言葉で記した、お願いしたいこと全文です。
まだ、小学生である彼の言葉は、芯をつくものであると思います。そして、彼の事は既に学校には届けられています。
この取材をした10月19日の段階では保護者会を開いていません。私は思います。校長先生には心はあるのでしょうか?本当に「こどもまんなか」なのですか?ご自身では、どう仰っているようですが、「自分まんなか」なんではないでしょうか。
彼の言葉が多くの方に届けと思います。
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未だ被害者に血迷った対応を取り続ける札幌市教委
記事発行にあたり、初稿を被害保護者の方に見てもらいGoサインをもらうのですが、21日の段階で、学校は保護者会を行う目途すら立ってないということでした。
従って、本メルマガ発行の23日の段階で保護者会を開くことはありません。
また、多くあることですが、本件では第三者委員会が学校対応や市教委の対応にその付属機関でありながら、問題点を強く批判、指摘しています。これに対し、市教委は記者会見で頭を下げたそうですが、当事者には謝罪をしていません。だれに謝っているの?という疑問は同様の「謝っているフリ」をする行為を受けた多くの被害者が思っていることですが、本来謝罪すべき相手にまずは謝るというのが、社会的常識です。これを怠って、札幌市教委は、担当部署全員が担当ですなどと血迷った対応を被害者に未だにしています。
記者会見でしっかりと嘘をついてもいて、それを知っている関係者は、こんな公の場でも嘘を平然とつくことにがっかりしています。
この記事が多くの方に読まれ、被害者である小学生の「お願い」を知ってもらえればと思います。
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