兵庫県の斎藤知事とPR会社代表が、公選法違反(買収)の疑いで刑事告発された。告発状が受理されれば正式な捜査が始まることになるが、その過程では思わぬ“闇”が暴露される可能性もありそうだ。
斎藤元彦知事を刑事告発、公選法違反の疑い
神戸学院大学の上脇博之教授と元検事の郷原信郎弁護士は2日、兵庫県の斎藤元彦知事とPR会社「merchu」代表の折田楓氏を、公職選挙法違反(買収、被買収)の容疑で神戸地検と兵庫県警に刑事告発した。
告発状などによると、斎藤知事は先の知事選で、SNSでの選挙運動の報酬としてPR会社に71万5000円を渡した疑い。PR会社がネット広報活動全般を担っていたのは明白で公選法の買収罪にあたるとしているが、実際に告発が受理されるかどうか現時点では不透明だ。
「merchu」代表の折田氏は11月20日、自身のブログで「斎藤陣営で広報全般を任せていただいていた」と選挙運動の華々しい実績を誇示。その後、公選法違反を指摘され一部記述を削除・修正した。(※修正前のキャッシュ 取得日時: 2024年11月21日 01:24))(関連記事1 | 関連記事2)
これに対し斎藤知事の代理人弁護士は11月27日の記者会見で、merchuへの支払いはポスターデザイン費用など合法な範囲に限られると説明。折田氏がブログで説明した実績については「盛っているか、盛っていないかについては、盛っておられる」として、折田氏のウソだったとの認識を示した。
ところが会見では、折田氏のブログが斎藤陣営に都合よく削除・修正されていたことすら代理人弁護士は把握していなかったことが判明。あまりに杜撰な釈明に「斎藤知事が用済みになった折田社長に全責任を押しつけようとしている」など批判の声があがっていた。
TVが報じた斎藤陣営「SNS拡散の裏側」の真偽は?
そんな中、先週末は注目すべき特ダネが“オールドメディア”から飛び出した。11月30日放送のTBS系『報道特集』が報じた、斎藤陣営の「SNS拡散の裏側」がそれだ。
斎藤氏の支持者が集まるLINEグループ「チームさいとう公式LINE」に参加したという女性が、自身のスマホ画面をみせながら証言した。
それによると、このLINEグループには「デジタルボランティア」のページが設けられ、斎藤陣営のX(旧Twitter)、インスタ、YouTube、TikTokそれぞれについて活発な意見交換が行われていた。
グループ管理者を名乗るアカウントからSNSでの発信について方針が示され、「斎藤知事がさまざまな勢力によって陥れられている」とする動画を拡散せよとの指示が飛んでいたという。
さらに、斎藤氏を応援するために選挙に立候補した立花孝志氏の街頭演説の日時と場所が、「立花候補より」と題した投稿によって共有されることもあったとされる。
「merchuの折田さんのブログによれば、斎藤陣営の各ソーシャルアカウントは彼女が開設したものでした。折田さんはこれらのアカウントを“期間中全神経を研ぎ澄ましながら管理・監修”し、その業務量は“私のキャパシティ”の限界に近かったと回顧しています。ただ、ブログ内にLINEに関する自慢はなかったんですよ。そのため、陰謀論の具体的な拡散指示も飛んでいたとされるこのLINEグループはいったい誰が管理・運用していたのか?にがぜん注目が集まっています」(政界ウォッチャー)
斎藤元彦と立花孝志はやはり裏で繋がっていた?
先の政界ウォッチャーが続ける。
「さらにこのLINEグループには、立花孝志さんの街宣情報が投稿されていたとされるのも重要ポイントです。斎藤陣営は、立花さんとは面識すらなく、各種の嫌がらせやデマ拡散は立花さんが独断でやったことと説明してきました。それが実際には、『さいとう公式』を名乗るLINEグループ内で立花さんの情報が好意的に紹介され、管理者もそれを削除せず放置していたとなると、『やはり斎藤と立花は裏で繋がっていた』疑いが濃厚になってきます。
またLINEには、斎藤さんの支持者が東京や神奈川など、はるか遠方から夜行バスで駆けつける様子も残っていたようです。兵庫とまったく関係がない“部外者”による活発なSNS拡散や街宣参加は、サクラ役の動員によるバンドワゴン効果を狙ったものと考えられますが、これも兵庫県民にとってはショックが大きいのではないでしょうか」(前同)
いっぽうネット上の斎藤支持者の中には、『報道特集』に対して“捏造報道”と強く反発する人々も出てきている。もしこれが本当にフェイクニュースなら、それはそれで面白いことになるのは間違いない。
斎藤支持者としても、“オールドメディアの闇”を白日の下に晒すには、今回の刑事告発を受け入れて、斎藤知事の「SNS選挙」の全貌を明らかにしてしまうのが手っ取り早いという状況になっているのだ。
SNSのアルゴリズム攻略イコール民主主義になってはいけない
別の50代ネットメディア関係者は言う。
「かつての『ネットde真実』は、ネット上の怪しい情報を無批判に受け入れる人々を少し小馬鹿にしつつも、フェイク情報に気をつけるよう優しく促す表現でした。ところが今回の兵庫知事選ではそれがすっかり変質して、『ネットこそ真実』『SNSだけは信じる』という有権者が急増したのが特徴的です。
しかも、デマに脆弱なのはZ世代の若者だけかと思ったら、実際はまったくそうではありませんでした。自分と同世代の中高年や高齢者も『ネットで真実』を仕入れています。大人の麻疹(はしか)が重症化しやすいように、いい年になって“真実”に目覚めてしまうと取り返しがつかないことになると実感しました。
でも、考えてもみてください。SNSはたかが一民間企業、しかも海外企業が運営するプラットフォームにすぎません。そこは収益最大化を目的とした作為的なアルゴリズムが支配する世界です。選挙運動が行われる短期間であれば、ブラックハット的なあくどい手法で流行を作り出すこともできてしまいます。だからこそ“オールドメディアは嘘だらけ”であるならば“SNSは本当に違いない”という二元論的思考は本当に危ない。アルゴリズムを攻略することイコール民主主義になってはいけないと思うんです。
今回の刑事告発が受理され、公正な捜査によって斎藤知事の『SNS選挙』の全貌が明らかになることを願っています。その過程では“ネット工作の闇”が暴かれるかもしれないし、逆に“オールドメディアの闇”が暴かれるかもしれませんが、いずれにせよ有権者にはプラスになるでしょうからね」(ネットメディア関係者)
ネットの記事に「マスコミがひた隠す~」「新聞が報じない~」といった枕詞をつけるだけでPV(ページビュー)が増えるのは事実だ。これはマスコミ不信の裏返しで、“オールドメディアの自業自得”という面もたしかにあるだろう。
ただ、あえて付言すれば、「外部の報道機関を信用するな」は破壊的カルト集団が信者の洗脳に用いる手法でもある。私たちはまず「マスコミvs.SNS」という一見わかりやすい対立構造から脱却するべきなのかもしれない。
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image by: note – 折田 楓