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定年まで勤め上げる社員は用無しか。第一生命が1千人の希望退職募集で失う「ベテラン社員にしかない力」

昨年11月中旬の時点で1万人目前となるなど、我が国の上場企業において過去最高水準に達した希望退職の募集人数。そのような中にあって、第一生命保険が1,000人の早期希望退職を募ると発表しました。このニュースを取り上げているのは、健康社会学者の河合薫さん。河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で今回、同社を抱える第一生命HD社長が語った「希望退職募集の理由」への納得感を示すとともに、その一方で疑念を感じざるを得ない理由を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:仕事の流儀?

プロフィール河合薫かわいかおる
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

見えない力を失うことで生じるマイナス。「昔の流儀突破」について考える

2025年は乙巳(きのとみ)の年。「乙」とは発展途上の状態を、「巳」は植物が最大限まで成長した状態を意味するそうで、これまでの努力や準備が実を結び始める時期だとか。

私も今まで通り、「おかしいことはおかしい」と言い、「おもろいことはおもろい!」とどんな小さな問題でも取り上げ、乙巳の流れにのるべく精進しますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

今年最初の裏返しメガネは「昔の流儀突破」について、あれこれ考えます。

昨年11月14日、第一生命ホールディングスは、第一生命保険で1,000人の早期希望退職者を募ると発表しました。対象は50歳以上で勤務期間が15年以上の社員です。早期希望退職者の募集は今回が初めてで、HDの和田京子執行役員は「コストカットが目的ではない」とした上で、今後の人的投資の具体的な中身については「回答を控えたい」と話したと報じられていました。

24年は上場企業の早期希望退職の募集人数が、23年の3倍の水準で増えていましたし、その多くが黒字リストラでしたから、第一生命の募集もコストカットだと私は理解しました。実際、募集する1,000人が退職する場合、25年度の人件費は約90億円減少する見込みと報じられていましたから。

で、今回新聞をめくる手を止めて、見ってしまったのが、本日のテーマでもある以下の見出しです。

「退職1000人募集『「昔の流儀突破』」(朝日新聞朝刊 1月7日付)です。

内容は第一生命保険の隅野社長が朝日新聞の取材に、1,000人の希望退職を募った理由について答えたものです。その内容は一言で言えば「50代社員への転職のすすめ」です。力ある若者にはどんどん活躍してもらいたい、中途採用には現場打破を期待したい、今や多様化の時代でしょ、でもね社内に「昔の流儀をひきずってる人がいると、それを邪魔しちゃうんだよ」と。「一つの会社で勤め上げて、はい、おしまい!という時代じゃないんだから、次行こ、次!」と言っている。少なくとも私はそう解釈しました。

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ベテラン社員は「多様性」の中に入らないのか

隅野さんの視点はまさにその通りだと思います。私も散々「壁」の存在は書いてきました。さらには、医療技術の発展や食生活などの進化で、70歳、80歳になっても働ける肉体と精神を手にいれることも可能ですから、気力があるうちに自分らしいキャリア開拓に、1、2の3で飛び込んだ方がいい。もし、私が会社員だったらきっとそうするでしょうし、その方が気分が上がると思うのです。

しかし、多様性の中に定年まで勤め上げる社員は入らないのでしょうか?本来であれば会社発展にベテラン社員にしかない「力」が必要なのに、その目に見えない力を失うことで生じるマイナス点を、会社側は本当にわかってるのでしょうか?

そもそも長期雇用は制度でもなければ流儀でもない。「経営哲学」です。働く人たちが安全に暮らせるようにすることを企業の最大の目的と考えた経営者が、「人」の可能性を信じた。その形が長期雇用であり、福利厚生だったのではないでしょうか。

件の記事を読んだ直後は、まぁそのとおりだよね、と思ったのですが、こうやって言葉を紡いでいるうちに、「本当にそれでいいのかよ?チッ」と脳内の猿が舌打ちし、「3人に1人が65歳以上なのにね」とウサギが膨れっつらをするのです。

念の為断っておきますが、私は隅野社長を批判する気はありません。これまで多くの企業が大規模な希望退職を行なってきましたが、聞こえてくるのは「会社に依存する時代じゃない」「50歳以上は自立すべき」「人材の過剰在庫」といった失礼な言い訳ばかりでした。

そんな中できちんと会社側の意図を説明したのですから、企業側の責任をある意味において果たしたと思っています。

しかし一方で、やはり本当にそれでいいのか?という疑念が尽きません。おそらく今年は大規模は希望退職を実施する企業は増える。その先の光が私には見えません。もし、昨年取り上げた「アルムナイ採用を進める」というなら別。光は確実に灯ります。

【関連】「転職者は裏切り者」という偏見が企業を潰す。新商品開発に退職者の力を借りるパナに生産性の向上が期待できる理由

さて、みなさんはこの件、どう思いますか。

みなさんのご意見、お聞かせください。

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